みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

蚊取り線香2016 feat. 曲率

前回,曲率の定義を書き下しました.今回のネタのために書いたものでした.元ネタはこちら.


線香の燃え方に曲率が関係するのか?ということを考えていきます.机上の空論でしかないのですが.


その前に,前回のネタの中で何気に書いてほったらかしの部分があったので,その補足から.

前回の補足

曲率半径の式を与えて終わったのですが,これを見て「はて?」と感じた方いませんでしたか?わたし自身,書いている側なので,なおさら気になりました.分母が引き算になっていることです.「0ではない」は当たり前として,「負だったらどうすんの?」という話です.
「半径」としているので,本来なら絶対値をつけておくべきかもしれません.ただ,正負をつけると「曲がり方」までわかるようになるのです.曲率と曲率半径は正負が一致するので,以降では曲率に対してみていきます.

順番が前後しますが, y= f(x)に対する式から見てみると,
  \displaystyle{ \kappa = \frac{y''}{(1 + y'^2)^{\frac{3}{2}}} }

から  y''の符号によって正負が変わります. y'' > 0のとき,これはそもそも曲線が下に凸のときです.そして,このとき  \kappa > 0にもなっています.逆に, \kappa < 0であれば,曲線は上に凸であることがわかります.

媒介変数表示の場合は,tが増えるとき

  • 曲線が左に曲がれば, \kappa > 0
  • 曲線が右に曲がれば, \kappa < 0

となります.

では,本題(?)へ.

蚊取り線香の燃え方に曲率が関係する」と考えてみる

どうも,内側になるほど燃え方がゆっくりになるようです.そこで,それを曲率に結び付けちゃおうという魂胆です.
複雑にしても,なんなのでとりあえず
 「線香の燃える速さは,曲率に反比例する(曲率半径に比例する).」

というモデルを考えることにします.

1年前のネタで,蚊取り線香は「アルキメデスの螺旋」として与えられるとしました.
 \begin{cases} x = \theta \cos{\theta} \\ y = \theta \sin{\theta} \end{cases}

曲率を計算すると,
 \displaystyle{ \kappa(\theta) = \frac{ 2 + \theta^2 }{ (1 + \theta^2)^{\frac{3}{2}} } }

となります.燃える速さは,これに反比例するということですから,比例定数を適当に決めて,燃える速さは
 \displaystyle{ v(\theta) = \frac{a}{\kappa(\theta)} }

と与えることができます.

求めたいのは「燃える時間の中間を与えるのはどこか」であり,この点を \theta = \alphaとすると,
 (0 \leqq \theta \leqq \alphaで要した時間) = (\alpha \leqq \theta \leqq 8 \piで要した時間)

または,両辺に (0 \leqq \theta \leqq \alphaで要した時間)を加えて,
 2 x (0 \leqq \theta \leqq \alphaで要した時間) = (0 \leqq \theta \leqq 8 \piで要した時間)

となるような \alphaを求めることになります.両辺に書かれている「時間」は,各点で燃えるのに要した時間を積み上げた結果として与えられます.つまり,各点で要した時間を \thetaの関数として表し,積分することとなります.

各点で要した時間は,小学校で習う「(道のり)=(速さ)×(時間)」に当てはめて求めます.(道のり)は,線素として与えられるものであり, \sqrt{1+\theta^2} d\thetaとして与えられます.よって,この微小区間で要する時間は,以下のようになります.
 \displaystyle{ dt = \frac{\sqrt{1+\theta^2} d\theta}{v(\theta)} = \frac{2+\theta^2}{a(1+\theta^2)} d\theta }

aという比例定数がついて回りますが,いまの問題を考える上では略してしまって構いません.この定数は,具体的な燃焼時間が与えられたときに決まるだけのものです.
つまり,
 \displaystyle{ T(\alpha) = \int_0^{\alpha} \frac{2+\theta^2}{1+\theta^2} d\theta = \int_0^{\alpha} \left( 1 + \frac{1}{1+\theta^2} \right) d\theta }

の計算ができればよいということです.ここでも,高校数学の範囲は超えてしまいますが,結果は
  T(\alpha) = \alpha + \tan^{-1}{\alpha}

となります.

\tan^{-1}{x}という関数

これは,\tan{x}逆関数を表しています.
たとえば,\tan^{-1}{\sqrt{3}}=\pi/3といった具合です.点(1,t)を与えて,この点と原点を結んだ線が x軸となす角がいくらになるかということを考えています.tをいくら大きくしても,なす角は \pi/2 \approx 1.57より大きくはなり得ません.

解を求めてみると

与えられる方程式は,
  2( \alpha + \tan^{-1}{\alpha}) = 8 \pi + \tan^{-1}{(8 \pi)}

となります.数値解を求めると, \alpha \fallingdotseq 11.845 \fallingdotseq 3.77 \piとなります.*1これって,中心から 2周もしていないことになります.去年の結果とは大違いですし,去年の結果が 2355での結果と近かったことを考えれば,えらい間違いをしていることになります.

見直ししてみる

このズレはどこから出ているのか.ここでいつもの「ざっくりと見る」ことをしてみます.
 \displaystyle{ v(\theta) = a \cdot \frac{ (1 + \theta^2)^{\frac{3}{2}} }{ 2 + \theta^2 } \approx \frac{\theta^3}{\theta^2} = \theta }

燃える速さは,ほぼ角度に比例していることになります.去年は,その速さが一定であるとして,単に道のりの中間地点をもとめていたわけで,ここに大きな違いが表れています.
角度が大きくなれば,曲率が小さくなる → まっすぐに近づくのですから,一定の値に落ち着いていくのが条件となるはずです.*2というわけで,このモデルは失敗だったということになります.

きっと,面積を考えないとダメなんでしょうね.また,この続きは書くかもしれませんが,ひとまず今回はここまで.

*1: \tan^{-1}の項が,1.6ぐらいでほとんど同じ値をとると考えれば,解は  8 \piのほぼ半分という見当がつけられますね.

*2: \log{\theta}のように,増え方が徐々に小さくなるような関数も考えられる.