みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「ちょっと面白い積分」の補足メモ

以前に挙げた積分問題の補足メモです.
miwotukusi.hatenablog.jp

 x^2の小数部分を積分するというものでしたが,出てきた答えの形を見てふと思い出したことがあったので,もうちょっと突っ込んでみようという「補足」です.

おさらい

もとの問題の発展形として,以下の式を導きました.
  \begin{align}  \int_0^n \langle x^2 \rangle dx &= -\frac{2}{3} n^3 + n + \sum_{k=1}^{n^2-1} \sqrt{k} \\
&= -\frac{2}{3} n^3 + \sum_{k=1}^{n^2} \sqrt{k} \end{align}

先日までは 1行目で終わっていたのですが, n=\sqrt{n^2}なので単純に  \Sigma記号の中に取り込んで 2行目の結果になっています.

思い出したこと

というのは,以下のような式です.
  \displaystyle{ \sqrt{1}+\sqrt{2}+ \cdots + \sqrt{n} > \frac{2}{3} n \sqrt{n} }

右辺にある  \displaystyle{ \frac{2}{3} }が上の答えと打ち消しあうのか?ということが頭をよぎったのです.
まずは,この不等式+αの内容を示すことからはじめていきます.

ルートの和の評価

積分を用いて考えていきます.
 k自然数として  k-1 \leqq x \leqq k なる範囲を考えたとき,関数  y=\sqrt{x}は単調増加であるので,
  \sqrt{k-1} \leqq \sqrt{x} \leqq \sqrt{k}

長方形の面積*1と定積分により与えられる面積を比較して,
  \displaystyle{ \sqrt{k-1} \times 1 < \int_{k-1}^k \sqrt{x} dx < \sqrt{k} \times 1 }

各辺を  k = 1, \ \cdots \ , nまで足し合わせると,
  \begin{eqnarray} \sum_{k=1}^n \sqrt{k-1} &<& \sum_{k=1}^n \int_{k-1}^k \sqrt{x} dx &<& \sum_{k=1}^n \sqrt{k} \\
0+\sqrt{1}+ \cdots + \sqrt{n-1} &<& \ \ \ \ \int_0^n \sqrt{x} dx &<& \sqrt{1}+\sqrt{2}+ \cdots + \sqrt{n} \\
\sqrt{1}+\sqrt{2} \cdots + \sqrt{n-1} &<& \ \ \ \ \ \  \frac{2}{3} n \sqrt{n} &<& \sqrt{1}+\sqrt{2}+ \cdots + \sqrt{n} \\ \end{eqnarray}

前半の不等式の両辺に  \sqrt{n}を加えることを考えれば,ルートの和に関する以下の不等式が導かれます.
  \displaystyle{ \frac{2}{3} n \sqrt{n} < \sqrt{1}+\sqrt{2}+ \cdots + \sqrt{n} < \frac{2}{3} n \sqrt{n} + \sqrt{n} }

さらに, n \rightarrow n^2と置き換えれば,
  \displaystyle{ \frac{2}{3} n^3 < \sum_{k=1}^{n^2} \sqrt{k} < \frac{2}{3} n^3 + n }

よって,もとの積分の値は以下の範囲にあることが示されます.って,当たり前やん!という内容ですが.
  \displaystyle{ 0 < \int_0^n \langle x^2 \rangle dx < n }


具体的な値を見てみると...

以下では,積分の値を  F_nと表すことにします.いくつかの nについておおよその値を見てみると,
  F_1 = 0,3333, \ F_2 = 0.8129, \ F_3 = 1.3060, \ F_4 = 1.8025, \ F_5 = 2.3004, \cdots , \ F_{10} = 4.7963

もっと大きな値を調べると,
  F_{1000} = 499.792, \ F_{2000} = 999.792, \ F_{3000} = 1499.792, \cdots , \ F_{10000} = 4999.9

どうも  \displaystyle{ F_n \simeq \frac{n}{2} }となりそうな感じです.このことを「いつもの感覚」を働かせて,みていきます.

グラフを見る

「いつもの感覚」とは視覚のことです.以前書いたネタの中で,
  y = \langle x^2 \rangleのグラフは, xが大きくなるにつれて目の間隔が小さくなるノコギリのような概形になります.

と書きました.これを具体的に見てみると,こんな感じです.

図の補足: y = \langle x^2 \rangleのグラフについては,

  • 青の点線は  y = x^2 - k で表される曲線であり,これを移動させながら  0 \leqq y \leqq 1で切り取ったもの
  • 曲線: y=x^2を整数部分である  y = [ k^2 ] で切り取って,だるま落としのように  y=0まで落としてきたもの

と 2とおりの見方ができる.

 0 \leqq y \leqq 1の間でギザギザしているのが,  y = \langle x^2 \rangleのグラフです.このグラフは, xの絶対値が大きくなってくると,曲線というよりは直線に見えてきます.
そして,上のときと同じように  \sqrt{k-1} \leqq x \leqq \sqrt{k}区間を見たとき,
  \displaystyle{ \int_{\sqrt{k-1}}^{\sqrt{k}} \langle x^2 \rangle dx < \frac{1}{2} \left( \sqrt{k} - \sqrt{k-1} \right) \times 1 }

という不等式が成り立ちます.これは, x = \sqrt{k-1}, \ x = \sqrt{k}, \ y = 0, \ y = 1で囲まれた長方形の面積と定積分の大きさ比較をしており,ちょうど  y = \langle x^2 \rangleが長方形の「対角線」のようになっているととらえた結果です.それぞれの長方形のほぼ半分が足しあわされるわけですから,おおよその値として  \displaystyle{ F_n \simeq \frac{n}{2} }となるのは納得できるのではないでしょうか?

ただし, y = F_nのグラフの漸近線が  \displaystyle{ y = \frac{x}{2} }であるとは言えません.値としては, \displaystyle{ \frac{n}{2} }からは少しずつとはいえ,離れていっているからです.

上のように評価をすると,被積分関数 x^2ではなく, x^m \ (m \geqq 3)の場合でも  \displaystyle{ F_{n,m} \simeq \frac{n}{2} }であると言えそうです.はじめは,なんとか式で評価できないかと考えていたのですが,ふとグラフを見たときに思いついたという次第です.

*1:高さが  \sqrt{k-1}で幅が 1の長方形と高さが  \sqrt{k}で幅が 1の長方形