先日の問題ミスのこともあったので,何かと注目をされたとは思いますが,ちょっと毛色が変わったなあという印象を受けました.でも,なかなか面白い問題だと思うので,解法というよりは補足メモみたいなものを書いてみようと思います.
いきなり,微分方程式?
物理の問題といえば,まずは場面設定(こんな装置がありまして,ここの長さは××,この質点の質量は××,みたいなこと)からはじまるのですが,図もすっ飛ばして 5行目には数式,それも微分方程式(もどき)が登場します.
問題として微分方程式を解くことはないのですが,この形の微分方程式は次のように解くことができます.第3問でも出てきます.
は時刻:における値であり初期条件により与えられるものとなります.
この解の形を少し変形して,
と書くと,のとき全体の量が になります.そして,この値を緩和時間と呼びます.これはどの時刻からスタートしても同じことで,時間:だけ経てば,量は になります.
でも,この試験を受けた人はすでに 1回,この形に出くわしているはずです.それは今年のセンター試験物理の「第2問 問1」と「第6問 問3」です*1.もとの微分方程式をよく見ると,以下のような関係を表した式になっています.
「(考えている)物理量の時間変化量が,いまある量に比例している.」
「第2問 問1」は電荷(時間変化量は電流),「第6問 問3」は放射性物質です.放射性物質の場合,指数の底は ではなく,がよく使われます.そして,この半分になる時間を半減期と呼んでいるわけです.同じように,となるのでほぼ4割になる時間を緩和時間と呼んでいることになります.
このセンター試験のことを思い出すことができれば,この問題は少し楽に解けたかもしれません.以下でそれぞれの問題に対する簡単なメモを書いておきます.
(1)抵抗力の大きさが物体の速さに比例する場合
グラフを選択するところ(解答欄の[エ])ですが,解答欄[イ]が与えられている式をみれば をはさんで線対称になっていることがわかります.なので,この時点で 1か 3に絞り込まれます.指数関数とわかっていなくても,「徐々に」近づいていくというところから 3を選ぶことができます.
(2)抵抗力の大きさが物体の速さの2乗に比例する場合
誘導に従って式変形をしていくと,「2乗の2」が微分係数となって左辺に現れ,それが緩和時間の式にも残ります.
(3)水中で物体を落下させる実験
まず,実験結果はすでに等速運動になった後での計測であることを確認します.
問1は,終端速度の大きさに物体の質量が含まれていることを利用します(質量が倍になれば,終端速度の大きさは 倍になる).そして,ここで一つの難問であるグラフの選択になります.
- 終端速度がきちんと終端速度になっていないものは除外します.→グラフ 2, 4, 5に絞り込まれる.
- 実験1での緩和時間が 0.3秒,実験2での緩和時間が 0.4秒(=実験1の 倍)なので,そこでの値が終端速度の 倍になることを確認します.
とはいえ,やはり指数関数であることをわかっていないと選ぶのは難しいですね.
上に書いた緩和時間での値が「終端速度の 倍になること」について補足しておくと,
まず,と表されます.ここで,は初期条件により与えられる値です.これを速度の式に代入すると,
そして,のとき という初期条件を課せば,となり,
となります.*2
(4)速さの2乗に比例する抵抗力のモデル
ここは,図を見て,誘導に従うまでだと思います.
緩和時間という言葉は「非平衡」という状態を扱うときに登場します.はじめは非平衡(一定していない状態)であったものが,摩擦などの影響により平衡(一定した状態)になるという過程を考えるものです.いまの問題では,摩擦=抵抗力となって現れています.京大にはこの分野の先生がいらしたと思うので,もしかするとその先生が作られた問題なのかもしれません.
もしかすると,去年からの反省で「やっぱり物理は式を使わないと(使えないと)ダメよね」というところへ行き付いているのかもしれません.
*1:2018年センター試験物理のメモ - 理系男子の独り善がりでも,ちょろっと数式で触れています.
*2:こういう式変形では,何を微小量として無視したか?といった条件をきちんと把握しておく必要があります.すべての時刻に対して,この式が成り立つわけではありません.