みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2019年京大物理第3問」のメモ

京大さん第3問です.お題としては「薄膜の干渉」という問題ですが,正弦波の式の扱いがあったり,無限回の透過・反射があったり,なかなか濃い内容になっています.そして,問題が長いだけでなく,盛り込まれている情報が多い(反射率と透過率の組合せ)ので,それらをうまく整理して処理していく力も大事かな?という問題になっています.
やはり,正弦波の式の扱いを一度はやっていないと厳しいような気がします.というところで,参考物件は以下の 2つ3つ*1になります.

図は 1つだけですが,これからして「ややこしや」の始まりな感じが見受けられます.

2019年京大物理第3問の図1,入射光  \mathrm{I} の式は  \displaystyle{ E_ I} = E \cdot \sin{ 2 \pi \left( ft - \frac{z}{\lambda} \right) }で与えられている.

ちなみに,図中の Rは Reflect,Tは Transmitの頭文字になります.

薄膜で反射される光

考える上で必要となるポイントを先に挙げておきます.

  1. 正弦波の式は, \displaystyle{ A \cdot \sin{ 2 \pi \left( ft - \frac{z}{\lambda} \right) }= A \cdot \sin{ 2 \pi f \left( t - \frac{z}{f \lambda} \right) } = A \cdot \sin{ 2 \pi f \left( t - \frac{z}{v} \right) } }と変形でき, v \rightarrow -vと置き換えることで進行方向を反転することができます.わざわざ,速さ: vに置き換えなくてもいいのですが, zの符号を変えることで進行方向が変わることは理解しておきべき内容です.
  2. 屈折率: nの物質中では波長が  \displaystyle{ \frac{1}{n} }になる.(光学的距離)
  3. 屈折率が小さい媒質から大きい媒質に入射したときの反射波は,位相反転する.

3つ目については,問題文中に「面を透過する際,光の位相は変化しない.」という記述がありますが,これはあくまでも「透過するとき」の話なので反射するときは上のようになっています.ここでちょっと「ん?」となった人もいるのではないでしょうか?

これら 3つを駆使すれば, E_{R_0}, \ R_{T'_1}の式は導き出すことができます.次の  E_{R_1}が一つ目のヤマになります.

 E_{R_1}の式

振幅(係数)を表す  E'を求めることは難しくないです.ちょっと難しいのは,位相差: \phiです.

  • まず,面Bで反射するときには位相反転がないことを確認しておきます.
  • と考えると,反射波は  z = 2Dの位置から発せられた( z =0のときと同位相で発せられた)  zの負の方向へ進む波であるとみなすことができます.
  • あとは,光学的距離: 2 n Dの間で生じる位相差を計算すればよいです.

上でも挙げた今年の同志社大の問題でも同じような計算がありましたね. \displaystyle{ \Delta \phi = 2 \pi \cdot \frac{2 n D}{\lambda} }として位相差は求まります.最後に,式に当てはめるときに「グラフの平行移動」をイメージしてもらえば(負号がつく),
  \displaystyle{ E_{R_1} = p q q' E \cdot \sin{ \left\{ 2 \pi \left( ft + \frac{z}{\lambda} \right) - \frac{4 \pi n D}{\lambda} \right\} } }

問1:反射波の干渉

式をベタに書き下してみると,
  \begin{align} E_{R_0} + E_{R_1} &= -pE \cdot \sin{ 2 \pi \left( ft + \frac{z}{\lambda} \right) } + p q q' E \cdot \sin{ \left\{ 2 \pi \left( ft + \frac{z}{\lambda} \right) + \phi \right\} } \\ &= -pE \cdot \sin{\theta} + pqq'E \cdot \sin{ ( \theta + \phi ) } \end{align}

位相の共通項は  \thetaと置きました.問われているのは強度(振幅の2乗)ですから位相の細かい情報まではいらないわけです.*2
で,「必要なら」で与えられている式は「三角関数の合成」の式なのですが,
  \begin{align} a \cdot \sin{\theta} + b \cdot \cos{\theta} & = \sqrt{a^2+b^2} \cdot \sin{(\theta + \beta)} \\ \frac{a}{\sqrt{a^2+b^2}} \cdot \sin{\theta} + \frac{b}{\sqrt{a^2+b^2}} \cdot \cos{\theta} &= \sin{(\theta + \beta)} \\ \cos{\beta} \sin{\theta} + \sin{\beta} \cos{\theta} &= \sin{(\theta + \beta)}  \end{align}

と加法定理の式も包含しています.このことは,上に挙げたうなりのネタの中でも書いている内容です.これを使って,第2項の  \theta \phiを分離してあげないといけません.その後,三角関数の合成でまとめ直すという流れになります. \betaがどのような項であるかの説明がいるかいらないかは微妙なところですが,問われている内容からするとさほど重要ではないです.というわけで,
  A^2 = p^2 E^2 ( 1 + q^2 q'^2 - 2 q q' \cos{\phi} )

となります.

反射波・透過波の干渉が最大・最小になる条件

上の式で  \cos{\phi} = -1となるとき,強度が最大となるので,そのときの  Dに関する条件を導きます.
次に,面B側でも同様な干渉を考えてます.ここは,いちいち計算する手もありますが,

  • 位相反転がないことに気づけば, Dに対する条件は先とは逆になり,
  •  E_{T_1} = qq' \cdot \sin{\theta_1}から  E_{T_2} = p^2 qq' \cdot \sin{\theta_2}となっているので,強度については  p^2 qq'を入れ替えればよいことになるので,

強度が最大のときは  qq'(1+p^2)E,最小のときは  qq'(1-p^2)Eとなります.

問2:透過した光の干渉完全版

無限回の反射・透過をくり返した結果,得られる光の強度を計算します.しかも,強度が最大のときと最小のときのそれぞれの場合についてです.次に出てくる光の強度( T_iに対する  T_{i+1}の強度)は, \pm p^2倍になるのでそれらを足し合わせた結果を計算します.これもなかなか難関ですね.

問3:薄膜をフィルタとして使う

ここでの参考物件は,以下になります.

まず,「白色光」とはさまざまな波長の光が混ざった光のことを言います.上のネタでも「ホワイトノイズ」として少し触れています.そして,特定の光を選別(フィルタ)するのは,余計なものがなるだけ混ざっていない方がよいので,Xの薄膜を選ぶことは容易に想像できると思います.
そして,問2の結果から最大と最小の差がなるだけ大きくなる条件を考えると, pがより 1に近いものであればよいことがわかります.

回答としては,ここまででいいのですが,もう少し突っ込んでみると,

  •  pがより 1に近いということは,反射率が高いものであり,
  •  p^2 + qq' =1より,透過率は低いものである.

鏡のような薄膜であるということが言えます.


この問題,まずは反射率と透過率の関係(薄膜の外側からと内側からとを分けて)をきちんと図に起こしてから解くべきですね.今年は全般的に計算量が多かったので,ここまでたどり着くのは大変だったのではないでしょうか?内容として,それぞれ面白いものではあるんですけどね.
ほかに,2,3問ほど気になった問題があるので,また取り上げればと思っています.

*1:問1の計算は,うなりの考察~その2~の計算と内容がかぶっているので追加しました.

*2:反射光を観測するということにおいて,時刻や位置の情報はいらない(そもそも,振動している項なので).ただし, \phiの項は物質により決まるものなので,簡単には切り捨てられない.と捉えることもできます.