ソチオリンピックももう終わりますね.ボブスレーを見ていて,これなら計算である程度求められるかも?と思い,ちょっと計算をしてみました.
とは言っても,単純化はやむを得ない
カーブがあったり,勾配が一定でなかったりと,忠実に再現するのは大変なので,以下のように単純化(モデル化)することにします.
- スプリント区間:距離:Sを等加速度直線運動で時間:tだけ加速し,速度:v0になったとします.
- スロープ区間:初速:v0で,距離:Lの区間を滑ります.空気抵抗は無視します.また,そりと氷の動摩擦係数を μとします.この区間を時間:Tで滑り,ゴールするとします.
- その他,コースの高低差:H,スロープの傾き:θを決めておきます.
スプリント区間から
等加速度直線運動の加速度を一度 aと置き,時間:t後の変位と速度を考えると,
と速度と時間の関係が求まります.
何気ないこういう式であっても「加速する時間:tが短いと,速度:v0は大きく(速くなる)んだな」ということはわかるようにしておきたいものです.これが物理で言う「式を評価する」ことの第一歩となります.
本題はスロープ区間
まず,そりにはたらく力から加速度:αを求めます.運動方程式を立てて
と求まります.これは斜面の問題なので,よく見る形ですね.この式を時間で 2回積分すれば,変位を表す式になります.高校物理では公式ですね.その式を時間:Tに対する 2次方程式と見直せば,Tが求められます.
T>0なので,解は+の方に限られます.√の部分ですが,√v0^2= v0より大きいことをきちんと理解しておいてください.
さて,(1式)のように変形すると,近似式が使えそうな気がしますね.しかし,実際に使うことはできません.これは実際の値を用いて評価しないといけませんが,2αL/vo^2がほぼ 1に等しい値となってしまうからです.ただこのように変形すると,全体の次元は v0/αで与えられ,( )内は無次元であることがわかりやすくなります.次元については,またどこかで書きたいですね.
具体的に値を入れてみましょう
たとえば,スプリント区間については,S=50[m],t=5.0[s]としてみると,速度:v0は 20[m/s]と求まります.
次に,スロープ区間を含めた全体で考えます.合計タイム:t+Tを書き改めておきます.
このようにtの関数:f(t)として,結果が与えられます.このことから,スプリントタイムによって,合計タイムも決まることが見えてきます.複雑そうな形をしていますが,この関数は単調増加になっており,スプリントタイムが遅ければ,合計タイムも遅くなるというごく当たり前の結果も見せてくれます.
それぞれの変数については,以下のように値を置いてみます.
- スロープの距離:L=1200[m]
- 高低差:H=120[m]
- 動摩擦係数:μ=0.03
これらより,加速度は α≒0.687[m/s^2]となります.これらの値を代入し,tの値を 4.5~5.5の間で変化させてみます.
0.1秒の差が,おおよそ 0.4秒程度の差となって表れています.実はボブスレーでは「0.1秒のスプリント差が,0.3秒のタイム差になる」ということが言われているそうです.いまは直滑降のみのコースなので,コーナリングなどのロスが入っていない分差が如実に表れていると考えることができます.
コースの形状によってタイムが変わるって
ここまでいつもながら長くなってしまいましたが,最後に力学的エネルギー保存則から簡単に導かれる事柄を記しておきます.
いま,初速ゼロ,摩擦もゼロという斜面を滑り降りることを考えます.となると,力学的エネルギー保存則より,ゴール時の速度はコースの高低差を用いて,v= √(2gH)と求められます.この結果だけを見ると,コースの形状によらず,ゴールタイム(所要時間)は一定になるように見えます.しかし,実際にはそうなりません.図のように,直線よりも下にコースをとった方が早くゴールに着きます.ただ,下過ぎてもいけません.
- 最初に垂直に近いようなコース形状では,加速できないまま水平に進む距離だけが大きくなってしまう.
- ゴールよりも下を通るようになると,最後は登りになってしまい減速してしまう.
最速となるコースは最速降下曲線と呼ばれるもので,高校数学でも登場するサイクロイドになります.