みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

式の評価~その1~

ときに,高校生から「大学ではどういった勉強の仕方をすればよいのか?」「参考書はどんなのがありますか?」といった質問が聞かれます.やはり,高校での勉強はテストや入試試験で「結果」を出す必要があるため,数学や物理も定量的な答えを出すことがゴールになっているように思います.

ここでは,単に式を導くということから脱皮して,「式を評価する」ということをいろいろとやってみたいと思います.書いているうちに「評価」から逸れてしまうかもしれませんが(笑)

 

極限値と漸近線

数学IIIを習い始めたあたりで「違いはなんですか?」と聞く人が何人かは現れる内容です.

  • 極限値はあくまでも「値」であって,
  • 漸近線はあくまでも「線(グラフ)」なのよ.

と言ってしまえば,それまでのことです.もうちょっと丁寧に説明してみます.今回は「式の評価」ですので,漸近線とは何かということを掘り下げてみます.

漸近線は,近づきはするけど,接したりしない線のことです.通常は  x \rightarrow \pm \inftyでの様子を考えますが,その限りではありません.

たとえば,簡単な例として曲線: \displaystyle{ y = x + \frac{1}{x-1} }という分数関数を考えてみます.この曲線の漸近線は 2つあり,

  y= x ・・・(1)

  x =1 ・・・(2)

となります.(1式)は  x \rightarrow \pm \inftyとしたときのものであり,(2式)は  x \rightarrow 1としたときのものです.それぞれの極限において,第1項( x)と第2項( 1/(x-1)の影響力の大きさを考えてみると,漸近線はその影響力の大きな項を選び出しているということがわかります.

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単に漸近線は「近づく」線というだけではありません.たとえば, xが大きな値をとるとき,

  •  xの増加量と  yの増加量の比は,ほぼ 1:1になると言えます.
  • また, x yの値自体が,ほぼ等しくなるとも言えます.

いまは考えている式自体が簡単な形なので,面白味がないですが,もっと複雑な式でもうまく評価することで、ふるまいが簡単な関係として表せることが見えるようになります.「ふるまいを評価する」という例を次に挙げてみます.

 

例:空気中を落下する物体

古典中の古典というようなネタではありますが,この現象を考えてみます.質量: mの物体が,速度の大きさに比例した空気抵抗(比例定数: k)を受けながら落下していく様子を考えます.運動方程式とその解は,以下のようになります.

   ma = -kv + mg \Rightarrow \begin{cases} \displaystyle{ x(t) = \frac{mg}{k} \cdot \left\{ t - \frac{m}{k} \left( 1 - e^{-kt/m} \right) \right\} \\ v(t) = \frac{mg}{k} \cdot \left( 1 - e^{-kt/m} \right) \\ a(t) = g \cdot e^{-kt/m} } \end{cases}

 
解き方の方針は,運動方程式を速度の大きさ: v微分方程式として解き,それを微分または積分して,加速度や変位を求めます.
 v(t)の式を見ると,
  •  t= 0のとき,つまり初速度の大きさは 0,加速度の大きさは  g(自由落下)となり,
  •  t = \inftyのときを考えると,速度の大きさは  mg/k,加速度の大きさは 0となります.

これだと単に代入しただけで,ある意味「ただの計算結果」でしかありません.

 

2014/3/14修正:以下,少し切り口を変えて書き直します.

まず,運動方程式だけを評価して考えて見ます.

  • 落ちはじめのとき、速度の大きさはほぼ 0です。すると、運動方程式 ma = mgと書き直されます. -kvの項の影響が非常に小さいと考えればよいです。これは抵抗のない自由落下の運動方程式と同等です。よって、それに準じた結果が得られるはずです。
  • 加速度の大きさを 0とおいてみます.このときの運動方程式 0 = -kv + mgとなり,重力と空気抵抗が釣り合っていることを示しています.そして,このときの速度(終端速度)の大きさは  mg/kとなります.

落ちはじめでのふるまいについて詳しくみていきます.解の式に現れている指数関数の部分をテイラー展開を用いて,

  \displaystyle{ e^x = 1 + x + \frac{1}{2!} x^2 + \cdots }

 x = -kt/mを代入して,

  \displaystyle{ e^{-kt/m} = 1 - \frac{kt}{m} + \frac{1}{2} \left( \frac{kt}{m} \right)^2 + \cdots }

と変形します. tが小さい(落ち始めてすぐの)ときには,
  \displaystyle{ v(t) \simeq \frac{mg}{k} \left\{ 1 - \left( 1 - \frac{kt}{m} \right) \right\} = gt }
 
となり,落ちはじめのときには自由落下の式が得られます.
じゃあそれなら!ってことで, x(t)も近似してみれば,
  \displaystyle{ x(t) \simeq \frac{mg}{k} \left[ t - \frac{m}{k} \left\{ 1 - \left( 1 - \frac{kt}{m} + \frac{1}{2} \left( \frac{kt}{m} \right)^2 \right) \right\} \right] = \frac{1}{2} gt^2 }
 
ときっちり自由落下してることを表してくれます.
 
微分方程式を解かなくとも,ある程度のふるまいは運動方程式から評価できるわけです.
また,今の例では微分方程式がきっちり解けましたが,解けない or 解きづらい微分方程式に出くわすこともあります.このとき上のような評価ができれば,ある程度のふるまいを知ることができるわけです.このような考え方を用いると,似たような式が現れたときに直接関係がない事象の話であっても,過去に調べた事象と同じようなふるまいをするだろうという分析をおこなうことができます.一言で言うと「アナロジー」という考え方で,物理ではちょくちょく登場します*1
 
次回では,物理の式で評価することを書いてみたいと思います.

*1:物理で現れる微分方程式は、たいていは 2階の微分方程式になっているから