みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

式の評価~その3~

2つの式または事象を「比較する」という評価を考えてみたいと思います.

 

最速降下曲線

ボブスレーの話の最後で書いていた内容です.「どれだけの時間,早く着くか」といった量的なものは具体的に計算しなければなりませんが,力学的エネルギー保存則の式で位置エネルギーの項の大小関係を評価するだけで,「どちらが先に着くか」はわかってしまうということです.

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降り積もる雪(雨)リターンズ

運動方程式の再確認とその応用で例として挙げた台車の例の続編です.例で挙げたときは,「一定の速さにするために引っ張る力」を考えました.ここでは,初速: vで押し出された後の運動を考えてみます.ただし,2通りのパターンを考えます.

  1. 以前の例と同様,単位時間当たり  \muの割合で雪が積もっていく(or 雨が溜まっていく)とします.
  2. もう一方はワイパーで降ってきた雪(雨)を振り払うとします.ワイパーというよりは,ほうきで掃くという方がわかりやすいでしょうか?振り払う方向は進行方向に対して真横とします.

さて,となり駅に先に着くのはどちらの台車でしょうか?という問題です.

 

1.は立てる式も計算も難しくはありません.走り始めてからの時間: tにおける台車の質量は  M + \mu tとなっていて,水平方向には外力が及ぼされません.よって,水平方向に対する運動量保存則から,

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と求められます.

 

2.はちょっと難しいというかややこしいです.まず,台車の質量は  Mのまま変化しません.すると,運動方程式は次のようになります.

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左辺は運動量の時間変化を表しており,その時間変化を考えていきます.
そのことを考えるうえで大事なことがあります.それは,この系では水平方向の運動量保存則は成り立たないということです.真横に掃き出す際に力が及んでいるためです.しかし,運動量の変化量は求めることができます.台車に落ちた質量  \mu dtの雪は,そのときの速さを乗じた  \mu dt \cdot v_2だけの運動量を得ます.しかし,台車に落ちた途端に真横へ掃き出されるわけです.読んで字のごとく,「運動量も真横に掃き出される」わけです.そのまま積もっていれば,1.のように運動量は保存されていたものが,掃き出すことで失われるという結果になります.失われるということで,
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これを運動方程式に代入して,
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と求まります.さて,これら v1と v2を評価してみましょう. \displaystyle{ \frac{\mu}{M} t }が共通して含まれているので,これを新たな変数: \alpha tと置いてしまいます. v_0も共通ですので,比較すべき項は  \displaystyle{ \frac{1}{1+\alpha t} } e^{-\alpha t}ということになります.テイラー展開を用いれば,簡単に比較ができます. 
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ということで,つねに  v_2(t) \lt v_1(t)*1となって,1.の雪が積もった方が早く着くという結果になります.厳密にどっちが早く着くかは,これの速さを時間で積分して・・・という計算になりますが,変位(移動距離)は v-tグラフで囲まれた面積である(積分しているのと同じこと).ということを理解していれば,ここまでの評価で答えを出すには十分です.

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この例では,級数展開(テイラー展開)を用いることで評価をおこないました.いままでにも何度か近似式は登場していますが,その感覚にちょっと似ています.

 

 

なんでもかんでも正確に(定量的に)答えを出すのではなく,まずは定性的にどうなのかを考えてみるというのもアリなのでは?と思います.

仕事の中で言えば,解決策(方法)をすぐに追い求めるのではなく,そもそもその問題はどこまで考えるべき内容なのかということを一度問うてみる.という感じでしょうか.そうすることで,その問題の重要度・価値も理解することができると思います.

このような評価ごころをくすぐるような問題があれば,また紹介してみたいと思います.

*1:t=0のときは両者は等しい