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理系男子の独り善がり

仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

大気の物理(熱気球からの発展)~その2~

前回は,結構式をこねくり回しました.今回はそこまではないと思います.その分,物理的な思考が必要になりますが.
 

相変化と熱

物質には「三態」と呼ばれる状態があります.みなさんよくご存じの固体・液体・気体です.これらは「相」とも呼ばれます.

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前回の比熱比の計算では,水蒸気もあたかも気体のように扱っていました.しかし,水蒸気(湯気)は「細かい液体」というのが,本来の姿です.そして,相が変化するときには,吸熱(外から温める)または放熱(外から冷やす)という熱を伴います.相が変化することは「相転移」といいますね.
 
水蒸気(液体)が水分子(気体)に変化するには,外から熱を与える必要があります.つまり,その分熱を余計に必要とするため,比熱は水蒸気が混ざる分だけ大きくなることになります.これが比熱が変化するもう一つのカラクリです.
 
このように相が変化するときに必要な熱量は,「潜熱」と呼ばれます.相の変化が起きるまでは「潜んで(隠れて)」比熱などの観測には現れてこないことから,このように呼ばれます.相変化の名称に合わせて,「融解熱」や「気化熱」などと呼ばれたりもします.こちらの方がなじみ深いようにも思います.
 
少し違った角度からみれば,相は物質分子の「自由さ」によって分けられているとも言えます.固体よりも液体,液体よりも気体の方が物質分子は自由に動けるようになります.これが,相によって体積が変わることにつながっています.

 

気温減率:Γ

前回のおさらいをしておくと,高度と温度の関係は次の式で与えられました.

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気温の下がる割合を表すΓのことを気温減率と呼びます.そして,

  • 乾燥断熱減率:\Gamma_d・・・乾燥した大気が断熱的に上昇するときのΓ
  • 湿潤断熱減率:\Gamma_m・・・湿気ている大気が断熱的に上昇するときのΓ

と分けて呼んでいます.ちなみに,\Gamma_dのdは「dryのd」,\Gamma_mのmは「moistのm」を表しています.化粧品でよく「モイスチャー」と言ってますよね,そのmです.あと,「断熱的」というのは字のごとく外部との熱のやり取りがないという意味です.ポアソンの式は断熱変化において成り立つ式でしたね.

 

湿気ている場合には,水分子が凝縮する際に潜熱が放出されます.よって,その分気温が下がりにくくなると考えることができます.よって,

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となります.

 

フェーン現象

この差によって起きる現象が,フェーン現象です.夏場に日本海側の地域で異常に気温が上がる現象です.キーワードは,「気温減率」「山」「雨」といったところです.

  1. 太平洋側から天気予報でもよく聞く「南からの温かく湿った空気」が吹いてきます.
  2. この湿った空気は,やがて日本列島の背骨にある山を駆け上っていきます.このときの気温減率は\Gamma_mです.
  3. 山を登っていく間に,飽和状態となり,水分は雨となって落ちていきます.
  4. 山を越えたときには,水分が搾り取られた状態すなわち乾いた空気となっています.このときの気温減率は\Gamma_dになっています.

この過程について,山の上での気温をTm[℃],高さをH[km]とすると,

 山を越える前の地上での気温は,T_m+\Gamma_m \cdot H

 山を越えた後の地上での気温は,T_m+\Gamma_d \cdot H

ΓmとΓdの大小関係から,山を越えた後の地上での気温の方が高くなるという結果が得られます.Γd-Γm=0.0035[K/m]ですから,2000m級の山越えで約7度,3000m級の山越えだと約10度も温度が上がることになります.当然,地形などによって実際に観測される温度差は変わります.

この現象をエネルギーの立場で考えてみると,入り口(山を登る前)から出口(山から下りてきた後)の間にエネルギーを与えられたことになります.そのエネルギーはどこから来たのでしょうか?それは潜熱です.水蒸気へ凝縮したときに潜熱が放出され,それが大気の内部エネルギーとして蓄えられたとみることができます.断熱変化なので,そのまま内部エネルギーに変換されてしまうわけです(外との熱のやり取りはないが,内部でのやり取りはあっても構わない).

 

「大気の状態が不安定になっています」とは?

大気の話としてもう一つ,天気予報でよく聞くフレーズです.「これから天気が悪くなりますよ~」「天気の状態としても,不安定ですよ〜」という意味だと捉えられていることが多いと思いますが,物理的な状態としても「不安定」であることを意味しています.

大気の温度と密度の関係を改めて書いておくと,

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となっています.温度が低ければ(高度が高ければ)密度は小さくなるということを表しています.
 
まわりの空気よりも密度が低い空気塊は,どんどん上昇していきます.逆に,密度が高い空気塊は下降していきます.「安定している状態」とは,高度が高くなるほど大気の密度が小さくなる状態です.ちょうど,親ガメの上に子ガメが乗っているときの状態になります.このとき,大気の塊をちょっと持ち上げても元に戻ります.逆に「不安定である状態」とは,密度が逆転している状態(子ガメの上に親ガメの状態)です.大気の塊はそのまま上に昇っていきます(子ガメが親ガメの上にある状態になろうとする).上昇していくうちに,大気は飽和状態となり,水滴を落とすことになります.

 

スタートである地表(温度:T0)から,そのときの大気の状態(高度と温度の関係)がどのように遷移していくかで安定か不安定かが決まります.大気の状態をプロットしてできた曲線を状態曲線と呼びます.下図のように,状態曲線がどの領域にあるかで,安定・不安定が決まります.

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密度によって上がったり下がったり,これって熱気球の話と同じですよね.熱気球の問題で「荷台の質量」をゼロとして考えているとも言えます.

実際の気象予報では,上のグラフで縦軸と横軸を入れ替えたもの(エマグラム)を用いているようです.いまは,そもそも気温が高度の1次関数として与えられたので,それを強調するグラフにしています.

この「安定・不安定」については,ほかにもいろいろとあるようです.これ以上書くと,気象予報士入門になってしまうので,この辺で辞めておきます.

 

しかし,気象予報士って,熱力学もですが,天体に関する知識も必要なんですよね.物理が得意なら,気象予報士はねらい目なのかもしれません.わたしは取る予定もありませんが(苦笑)