相変化と熱
気温減率:
前回のおさらいをしておくと,高度と温度の関係は次の式で与えられました.
気温の下がる割合を表すΓのことを気温減率と呼びます.そして,
- 乾燥断熱減率:・・・乾燥した大気が断熱的に上昇するときのΓ
- 湿潤断熱減率:・・・湿気ている大気が断熱的に上昇するときのΓ
と分けて呼んでいます.ちなみに,のdは「dryのd」,のmは「moistのm」を表しています.化粧品でよく「モイスチャー」と言ってますよね,そのmです.あと,「断熱的」というのは字のごとく外部との熱のやり取りがないという意味です.ポアソンの式は断熱変化において成り立つ式でしたね.
湿気ている場合には,水分子が凝縮する際に潜熱が放出されます.よって,その分気温が下がりにくくなると考えることができます.よって,
となります.
フェーン現象
この差によって起きる現象が,フェーン現象です.夏場に日本海側の地域で異常に気温が上がる現象です.キーワードは,「気温減率」「山」「雨」といったところです.
- 太平洋側から天気予報でもよく聞く「南からの温かく湿った空気」が吹いてきます.
- この湿った空気は,やがて日本列島の背骨にある山を駆け上っていきます.このときの気温減率はです.
- 山を登っていく間に,飽和状態となり,水分は雨となって落ちていきます.
- 山を越えたときには,水分が搾り取られた状態すなわち乾いた空気となっています.このときの気温減率はになっています.
この過程について,山の上での気温をTm[℃],高さをH[km]とすると,
山を越える前の地上での気温は,
山を越えた後の地上での気温は,
ΓmとΓdの大小関係から,山を越えた後の地上での気温の方が高くなるという結果が得られます.=0.0035[K/m]ですから,2000m級の山越えで約7度,3000m級の山越えだと約10度も温度が上がることになります.当然,地形などによって実際に観測される温度差は変わります.
この現象をエネルギーの立場で考えてみると,入り口(山を登る前)から出口(山から下りてきた後)の間にエネルギーを与えられたことになります.そのエネルギーはどこから来たのでしょうか?それは潜熱です.水蒸気へ凝縮したときに潜熱が放出され,それが大気の内部エネルギーとして蓄えられたとみることができます.断熱変化なので,そのまま内部エネルギーに変換されてしまうわけです(外との熱のやり取りはないが,内部でのやり取りはあっても構わない).
「大気の状態が不安定になっています」とは?
大気の話としてもう一つ,天気予報でよく聞くフレーズです.「これから天気が悪くなりますよ~」「天気の状態としても,不安定ですよ〜」という意味だと捉えられていることが多いと思いますが,物理的な状態としても「不安定」であることを意味しています.
大気の温度と密度の関係を改めて書いておくと,
スタートである地表(温度:)から,そのときの大気の状態(高度と温度の関係)がどのように遷移していくかで安定か不安定かが決まります.大気の状態をプロットしてできた曲線を状態曲線と呼びます.下図のように,状態曲線がどの領域にあるかで,安定・不安定が決まります.
密度によって上がったり下がったり,これって熱気球の話と同じですよね.熱気球の問題で「荷台の質量」をゼロとして考えているとも言えます.
実際の気象予報では,上のグラフで縦軸と横軸を入れ替えたもの(エマグラム)を用いているようです.いまは,そもそも気温が高度の1次関数として与えられたので,それを強調するグラフにしています.
この「安定・不安定」については,ほかにもいろいろとあるようです.これ以上書くと,気象予報士入門になってしまうので,この辺で辞めておきます.
しかし,気象予報士って,熱力学もですが,天体に関する知識も必要なんですよね.物理が得意なら,気象予報士はねらい目なのかもしれません.わたしは取る予定もありませんが(苦笑)