みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

三角形の面積を二等分する「垂線」

解けそうで解けないと思ったら,解けちゃったという感じの問題です.タイトルどおり,問題自体はいたってシンプルです.

 

問題

三角形ABCにおいて,AB≧ACとする.辺BC上の点Sより垂線を引き,三角形ABCの面積を二等分する.点Sはどのような点として表されるか?

 

まずは中学数学の範囲で

基本的な考え方は「等積変形」です.平行となる2本の線を引いて,その間にある三角形は面積が等しくなるというアレです.点Aと辺BCの中点(点M)を結んだ線が面積を二等分するので,それを基準に垂線(を与える点)が満たすべき条件を求めます.

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「平行であること」と「垂直であること」が条件になります.点Sと点Tと2つの点が与えられていますが,点Sが与えられれば点Tは自動的に決まるので,最終的な条件は1つになるはずです.このことも,以下の計算で示していきます.

 

高校数学へステップアップ

これらの条件を「ベクトル」で考えます.以下, \overrightarrow{AB} = \overrightarrow{b}, \ \overrightarrow{AC} = \overrightarrow{c}と表すこととします.当然,これら2つのベクトルは1次独立です.点Sと点Tを与えるパラメータとして,実数  s, \ tを以下のように置きます*1

  \begin{cases} \overrightarrow{BS} = s \overrightarrow{BC} = s ( \overrightarrow{c} - \overrightarrow{b}  ) \\ \overrightarrow{AT} = t \overrightarrow{AB} = t \overrightarrow{b} \end{cases}

 

「平行であること」の条件は,係数の比が等しいという式になります.

  \begin{cases} \displaystyle{ \overrightarrow{TM} = \overrightarrow{TA} + \overrightarrow{AM} = \left( \frac{1}{2} - t \right) \overrightarrow{b} + \frac{1}{2} \overrightarrow{c} } \\ \overrightarrow{AS} = \overrightarrow{AB} + \overrightarrow{BS} = (1-s) \overrightarrow{b} + s \overrightarrow{c} \end{cases} \displaystyle{ \Rightarrow \left( \frac{1}{2} - t \right): (1-s) = \frac{1}{2}:s }

 

「垂直であること」の条件は,定番の内積がゼロという式になります.

  \begin{align} \overrightarrow{ST} \cdot \overrightarrow{BC} = 0 \\ \left\{ (s+t-1) \overrightarrow{b} - s \overrightarrow{c} \right\} \cdot (\overrightarrow{c} - \overrightarrow{b}) = 0 \\ -(s+t-1) | \overrightarrow{b} |^2 -s | \overrightarrow{c} |^2 + (2s+t -1) \overrightarrow{b} \cdot \overrightarrow{c} = 0 \end{align}

 

 sを消去して  tを求めることになるのですが,内積  \overrightarrow{b} \cdot \overrightarrow{c}をどうにかしなければなりません.そこで, \overrightarrow{b} \cdot \overrightarrow{c} = | \overrightarrow{b} | | \overrightarrow{c} | \cos{\theta} 余弦定理をぶつけてあげます.すると,そのまま

  \begin{cases} \overrightarrow{b} \cdot \overrightarrow{c} = AB \cdot AC \cos{\angle A} \\ BC^2 = AB^2 + AC^2 - 2 AB \cdot AC \cos{\angle A} \end{cases} \Rightarrow \displaystyle{ \overrightarrow{b} \cdot \overrightarrow{c} = \frac{AB^2 + AC^2 - BC^2}{2} }

 

と書き換わります. t \displaystyle{ t = 1 - \frac{1}{2s} }と表すことで, sを辺の長さを用いて表すことができます.

  \displaystyle{ s = \frac{1}{2} \cdot \frac{\sqrt{BC^2 + AB^2 - AC^2}}{BC} }

 

\displaystyle{ BS=\frac{\sqrt{BC^2+AB^2-AC^2}}{2} }という結果になりました.点Sは,点Mと点Aの真下の点(垂線の足)の間にあることがわかります.AB=ACならば,点Mに一致しますね.

 

で,この結果が果たして正しいのかどうか.すなわち,分割された三角形BST or 四角形ACSTは等しくなり,二等分されているのか.という確認ですが,三角形BSTにおいて, \displaystyle{ BS = s BC, \ BT = (1-t) AB = \frac{1}{2s} AB }であることから簡単に示すことができます.

 

結果が出たところから,もう一歩

BSが求められたところで,点Sを作図で求められないかを考えてみます.「点Sを作図で求める」というよりは,「BSという長さを作図で取り出す」という手法を考えてみました.BSが辺の長さの2乗を足したり引いたりした結果になっているので,ピタゴラスの定理を応用することを考えればいいわけです.たとえば,以下のような順序で点Sを作図することが可能となります.

  1.  L = \sqrt{AB^2 - AC^2}となる長さを「ABが斜辺となる直角三角形」を考えることで求め,
  2.  2 \times BS = \sqrt{BC^2 + L^2}より「斜辺の長さが2BSとなる直角三角形」を考えることで求める.
  3. 2.で作図した直角三角形の斜辺の長さの半分を測り(中点を求めればいい),それがBSの長さとなる.

この中でちょっと難しいのが手順1です.「斜辺ともう1つの辺の長さがわかっている直角三角形を作図する」ことをおこなわなければなりません.これは,辺ABを直径とする円を描くことで解決します.円周角の性質を利用(円周上にある角は直角になる)するわけです.

手順2は,点Cにおける辺BCの垂線を引いて,直角三角形を描くことで,そのまま手順3に続けて作図をおこなうことできます.全部を書き込むと図がぐちゃぐちゃになってしまうので,手順ごとに分けたイメージ図をつけておきます.

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基本的な考え方や作図は中学数学,計算のところだけ高校数学という,ちょっと特異な問題だと思います.ヒント(小問)なしで,「点Sを作図せよ.」という問題なんか出されたら,結構ヘビーな問題かもしれません.

最後に,解法は他にもあるかもしれませんのであしからず.

*1:2014/11/26追記: \overrightarrow{BT} = t \cdot \overrightarrow{AB}と置いた方が後の式を少し簡単にできるかもしれませんね