みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

どっちが大きい?~「aのb乗」と「bのa乗」~ (後半)

前回の続きです.まずは,グラフの概形から.

iii)  a > 1のときのグラフの概形

ポイントとなるのは,

  1.  f(a) = 0であること
  2.  f(\alpha) \leqq 0(最小値が 0以下)であること
  3.  a \alphaの大小関係

の3つです.そして,グラフの概形を描いた後に,そもそも  x > aの範囲で大小関係を考えていることに立ち戻っていきます.

2.  f(\alpha) \leqq 0であること

ベタに最小値を書き下すと,
  \displaystyle{ f(\alpha) = \frac{a}{\log a} \left\{ 1 - \log \left( \frac{a}{\log a} \right) \right\} = \frac{a}{\log a} \cdot \log \left( e \cdot \frac{\log a}{a} \right) }

ここで, \displaystyle{ g(x) = \frac{\log x}{x} }なる関数を考えると, \displaystyle{ \frac{\log x}{x} \leqq \frac{1}{e} }であることが示されます.よって, \displaystyle{ e \cdot \frac{\log a}{a} \leqq 1 }となり, f(\alpha)は 0以下の値をとることが示されます.

3.  a \alphaの大小関係

そもそも  \alpha = a/\log aなので,
  1 < a < eのとき, a < \alpha
  a = eのとき, a = \alpha
  a > eのとき, a > \alpha

となります. x > aの範囲を考えるとき,一番目のケースで  bの値による場合分けが,さらに発生します.二番目,三番目のケースについては,bの値に関係なく( a < bの条件により), a^b > b^aであることがわかります.

「一番目のケース」の場合分け

前回示したグラフの概形にて,すでに記していますが,方程式: f(x)=0の自明ではない解( x = aとは異なる解)を  x = \theta(a)*1とおきます.
ということで,
  b < \theta(a)のとき, a^b < b^a
  b = \theta(a)のとき, a^b = b^a
  b > \theta(a)のとき, a^b > b^a

となります.

この様子を確認できる簡単な具体例を挙げておきます. a = 2のとき,方程式: f(x) = 0の自明ではない解は, \theta(2) = 4と与えられます.このことから,
  b = 3 < 4のとき, 2^3 < 3^2
  b = 4のとき, 2^4 = 4^2
  b = 5 > 4のとき, 2^5 > 5^2

となっています.

結局,答えは

以下のようになります.
  0 < a \leqq 1のとき, a^b < b^a
  \displaystyle{ 1 < a < e のとき,\begin{cases} b < \theta(a) のとき,a^b < b^a \\ b = \theta(a) のとき,a^b = b^a \\ b > \theta(a) のとき,a^b > b^a \end{cases} }
  e \leqq aのとき, a^b > b^a

 (ただし, \theta(a)は,方程式: \displaystyle{ \frac{x}{\log x} = \frac{a}{\log a} } x = aではない解)
2016/10/05追記:いまさらなのですが,この条件式は単に  a^x = x^aを書き換えただけなんですよね.そう思うと,なんかがんばった割にはいまいちな感じもしなくもなく…

b = \theta(a)の概形(2016/04/13追記)

ちょっとグラフを描いてみました.

f:id:miwotukusi:20160414012535p:plain

グラフは,おおよそ  1.2 \leqq a \leqq 20の範囲で描いています.また,緑色の点線は直線:b=aを表しており,これは自明な解です.
このグラフの特徴としては,以下のようなことが挙げられます.

  • 次の3点を通っています. (2,4), \ (e,e), \ (4,2)
  • abを入れ替えても同じ式が与えられるので,このグラフは直線:b=aに線対称になっています.そして,このグラフの漸近線は,x=1y=1となっています.

このグラフの描き方については,そこで使ったある方法と合わせて,次回書きたいと思います.

この問題を考えるに至った経緯

はじめは,次の内容について書こうと思っていました.
 問題  e^{\pi} \pi^eの大小関係を示しなさい.

ただ,これだけを書かれると,実は大変な問題になってしまいます.というのも, 1 < e < \piという大小関係を示さないといけないからです.これは,以下のような例題でも同じことです.
 例題  \sqrt{5}の小数部分を示せ.

いきなり,「 \sqrt{5}の整数部分は 2だから」なんて書くとバッテン(か,減点か)を喰らうことになります.「 4 < 5 < 9より, 2 < \sqrt{5} < 3となるから」とでも書かないといけません.上の  e \piについても同じことです.「だいたいの値は,これぐらいだから」なんてするといけないわけです.
そこで,2016年東大前期理系数学第1問の内容がいい働きをしてくれます.
 2016年東大前期理系数学第1問(概要)
  \displaystyle{ \left( 1 + \frac{1}{x} \right)^x < e < \left( 1 + \frac{1}{x} \right)^{x+\frac{1}{2}} }を示せ

ここに, x = 1を代入すると,あっさりと  2 < e < 2\sqrt{2} < 3ということが言えてしまいます.先に,長々と大小関係を示したので, e^{\pi} > \pi^eと答えを出すことができます*2

さらに,  a^b b^aと書きましたが, p^qq^pと書くと,どこかで見たことありませんか?そうです,今年京大で出た素数の問題に出てきた項です.そのイメージが残っていたのも,このネタを書いた理由になっています.

へびの足(2016/04/05追記)

そもそも  a < bという条件であったのに, a^b = b^aとなる値が存在することは最初ちょっと意外でした.しかし,底が小さいときには  a^b < b^aであり,底が大きくなってくると  a^b > b^aとなるのであれば,どこかで等号成立となるところがあるはずですよね.簡単な具体例があったのは,このことを理解するのにいい助けになりました.
最大値や最小値を考えるときにも,同じような考え方(どこかで「均衡」や「転換」となるところが存在する)は,感覚的ですが役に立つと思います.

*1: aによって決まる値なので, aの関数であることを明示しておきます.「3.  a \alphaの大小関係」で示した場合分けは, a \theta(a)の大小関係による場合分けと見ることもできます.

*2: \piが 3よりも大きいことは,円周とその円に内接する正六角形を考えれば簡単に示すことができます.そういえば,「円周率が 3.05より大きいことを示せ」という有名な問題もありましたね.結果, e < 3 < \piという大小関係が示されます.