すごく久しぶりの更新になります.2回ほど,熱力学の話を書こうと思います.ある意味,季節ネタな感じです.
まず,その1は下準備になります.
熱力学の第2法則
第1法則については,以前に「公式で覚えちゃダメ」と書かせてもらいました.*1それに引き換え,第2法則は式らしい式もありません.*2
ざっくり一言で書いてしまうと,
熱力学において,「後戻り」はできない.
というものです.
このことを物理的に述べているのが「クラウジウスの原理」と「トムソンの原理」です.
- クラウジウスの原理:熱は高温部から低温部へ自発的に移動する.このとき,外界(2つの物体以外の系)に何の変化ももたらさないことが可能である.しかし,逆に外界からの仕事なしに,元に戻す(熱を低温部から高温部に戻す)ことはできない.
- トムソンの原理:仕事が熱に変わる現象は,それ以外に何の変化ももたらさないことが可能である.しかし,逆に外界からの仕事なしに元に戻すことはできない.(永久機関は不可能ということ)
こういう文章は内容を細かく分解しながら,何度も読み返してみないとなかなか理解しずらいです.小説のようにスラスラとはいかないですね.
クラウジウスの原理は,比較的わかりやすいかと思います.ちょっと言い換えてみると,こんな感じです.
「熱は外界に影響を及ぼすことなく,温度の高い方から低い方に勝手に移動することが可能です.でも,逆に外から仕事を与えることなく(=外界に影響を残すことなく)熱を元に戻すことはできません.」
こういう「言い換え」も理解をするために大事な行為だと思います.
逆に,トムソンの原理はちょっとわかりにくいですね.2つの原理はともに,熱の移動はある一方向には外界に影響を与えることなく自発的に進むことができるが,その逆には外からの仕事なしには戻れない.ということを示しています.これが「後戻りできない」の意味です.
「可逆」ということ
もしも「後戻り」ができたなら,そのサイクルは「可逆」ということになります.もう少し,ちゃんと書くと
サイクル全体を通じて,外からの仕事を受けず,外界も含めた影響がゼロ(元に戻れる)であるとき,サイクルは可逆である.
となります.クラウジウスの原理では,高温部から低温部への熱の流れがあると,元には戻せないと言っているので,このような流れのない過程を考えてみると,
- 断熱過程(熱のやり取りがない)
- 等温過程(温度差が0なので,高温部・低温部という区別がない)
の 2つがその候補として挙げられます.これらを組合せて作ったサイクルの例があの「カルノーサイクル」なのです.
カルノーサイクル
せっかくなので,カルノーサイクルを一周してみましょう.
ここで登場する計算式(公式)は,
- 状態方程式(ボイルの法則も含む):
- ポアソンの式:
- 熱力学第1法則:
は気体が外から与えられた熱量,は気体が外に対してした仕事とします.そして,この気体が外に対してした仕事は,P-V図の面積として与えられます.ここが計算を実行する上でのポイントです.
いきなり各過程の計算に入る前に,熱力学第1法則から,出入りする熱量,気体がする仕事,温度変化(内部エネルギーの変化)の様子を掴んでおくのがよいです.まずは,大局を把握するということです.
等温過程に対してはボイルの法則,断熱過程に対してはポアソンの式を用い,P-V図での面積から を求めます.*3そして,等温過程では内部エネルギーの変化がゼロであること,断熱過程では明らかに であることを用います.
料理番組ではありませんが,10分ほど同じような計算を繰り返すと,できあがりがこちらです.
サイクルが一周したときの結果として,気体が外から与えられた熱量:と気体が外に対してした仕事:は等しく,
となります.*4右辺の第1項は高温部から得られた熱量:であり,右辺の第2項は低温部に吐き出された熱量:となります.
さらに,2点間で成り立つボイルの法則やポアソンの式から,が示され,さらに,
であることが示されます.出入りした熱量の比がその熱源の温度の比に等しいという結果になります.