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理系男子の独り善がり

仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

クールビズより,ウォームビズ(熱力学的考察)~その2~

Phys-Thm

前回の続きです.本題に入っていきます.

ヒートポンプ

先に挙げたカルノーサイクルは,P-V図において時計回りにその過程が進んでいきました.これを反時計回りに進めることを考えると,
 サイクルに仕事を「与え」,低温部から高温部へ「熱を移す」

というサイクルになります.このような装置を「ヒートポンプ」と呼びます.
最近の空調機器や乾燥機といったものには,たいていこのヒートポンプが用いられています.関西のガス会社は「ガスヒーポン」という商品を出していますが,この「ヒーポン」がヒートポンプのことを表しています.

低温部から高温部に熱を移すというのは,一見ムダに見えます.いまの時期であれば,外の冷たい空気から熱を移してきても冷たいだけやん!と思われるかもしれません.以下では,それがムダではないことを記していきます.

サイクルの「効率」を定義する

サイクルの向きによって,その効率に対する考え方(定義)が変わってきます.

  • 熱機関(高温部から力学的エネルギーを取り出す機関):高温部から取り出した熱のうち,どれだけを仕事に回すことができたか(熱効率)
  • ヒートポンプ(低温部から熱を吸い上げ高温部へ移動させる装置):与えた仕事に対して,どれだけの熱を高温部へ取り込むことができたか(成績係数)

f:id:miwotukusi:20161214003343p:plain

熱効率@熱機関

高温部から熱量: \Delta Q_1を取り出しサイクルへ熱を送る.このサイクルから取り出した仕事の量(力学的エネルギーの量)を  \Delta W,このサイクルから低温部へ流す熱量を  \Delta Q_2とするとき,熱効率: \eta *1は,以下の式で与えられる.
  \displaystyle{ \eta = \frac{\Delta W}{\Delta Q_1} = 1 - \frac{\Delta Q_2}{\Delta Q_1} }

また, \Delta Q_1 = \Delta W + \Delta Q_2である.

成績係数@ヒートポンプ

低温部から熱量: \Delta Q_2を吸い出し,仕事: \Delta Wを与えられたサイクルを通じて  \Delta Q_1の熱を高温部へ移す.このときの効率を表す成績係数: eは,以下の式で与えられる.
  \displaystyle{ e = \frac{\Delta Q_1}{\Delta W} = \frac{1}{ \displaystyle{ 1- \frac{\Delta Q_2}{\Delta Q_1}} } }

 \Delta Q_1 = \Delta W + \Delta Q_2 > \Delta Q_2ですから,この係数は 1よりも大きな値となります.

必要な仕事を計算してみる

 Hだけの熱量を取り入れたり,取り出したりするのに必要となる仕事: \Delta Wがどのくらいになるかを考えてみます.

f:id:miwotukusi:20161216070253p:plain

ヒーターの場合

このとき,成績係数の式は,
  \displaystyle{ e = \frac{H}{\Delta W_H} }

となり,必要な仕事は  \Delta W_H = H/e < Hと与えられます.
もし,室内に電熱器を置いて同じ熱量を得ようとすると,無駄がなかったとしても  Hだけの仕事をしなければなりません.明らかに,ヒートポンプの方が効率がよいことがわかります.

クーラーの場合

同様に,成績係数の式を立ててみると,
  \displaystyle{ e = \frac{H + \Delta W_C}{\Delta W_C} }

より, \Delta W_C = H/(e-1)となります.こちらは,単純に  \Delta W_C < Hであるとは言い切れません.また,クーラーの方がヒーターよりも無駄な感じ( \Delta W_H < \Delta W_C)になっています.

一番効率のいい場合で具体例を考えてみると...

上の計算では,クーラーの場合がヒーターの場合に比べて,無駄なのかどうかよくわらかなくなってしまいました.そこで,具体的な数値を使って考えてみます.その例として一番効率のいい場合を考えてみます.

これは,(逆)カルノーサイクルの場合となり,熱量の比は熱源の温度の比になっています.つまり,成績係数は温度の比より計算されることになります.そもそも,実際の装置でも,暖房(ヒーター)と冷房(クーラー)で同じ成績係数というわけではありません.

たとえば,

  • クールビズの場合、推奨されている室内の温度は 28[℃]

であり,これと

  • 大阪の2016年1月の日最低気温の平均=3.4[℃]
  • 大阪の2016年8月の日最高気温の平均=35.0[℃]

を外気の温度として必要な仕事を考えてみます.*2

まず,成績係数を熱源の温度を用いて書き改めると,
  \displaystyle{ e_0 = \frac{1}{\displaystyle{ 1 - \frac{T_2}{T_1} }} = \frac{T_1}{T_1 - T_2} }

となります.(高温部の温度)÷(内外の温度差)という値になっています.
あとは,それぞれの場合に対して, T_1, \ T_2を当てはめるだけです.すると,

となります.両者の式は(室内の温度)÷(内外の温度差)×(移したい熱量)という式になっているので,温度差が大きいと効率は悪くなるということになります.*3結果,同じ熱量を移す場合には,ヒーターの方が大きなエネルギー(仕事)を要することになります.


クールビズの方が服装の変わり様が大きいので,そちらばかりが注目されてますが,ほんとうはウォームビズの方が大事だということです.ただ,暑いときも寒いときも無理は禁物なので,ほどほどに.

*1:ギリシア文字で「イータ」と読みます.

*2:参考:気象庁|過去の気象データ検索

*3:室内の温度の違いは,絶対温度で考えることからも,大きく影響しない