理系男子の独り善がり

仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2018年東京慈恵会医科大医学部物理問題1」のメモ

医科大で出される物理の問題は,「医学の中の物理」という問題が結構よくだされています.問題3がそうなのですが,わたしが気になったのは問題1の方です(笑).早々に不適切出題の指摘もあったようなので,そのあたりも含めて書いていきます.

冬や梅雨の時期によくみられる「窓の結露が下にツツーっと滑り落ちていく様子」を取り上げた問題になります.
この窓を斜めにし,上向きの抗力(水の粘性により生じる力)を空気抵抗に置き換えれば,「車のフロントガラスに降り落ちた雨粒」を考えることもできます.以前,車を運転しながら,これ問題にできないかなあ?と考えていたことを思い出しました.*1
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問題で出された図3, 4

この問題のポイントは,抗力と重力それぞれが半径の関数であり,抗力は半径の 2乗に比例,重力は半径の 3乗に比例するところです.この違いが徐々に滑り落ちていくことを与えてくれます.ただ,最後の問いの不適切出題の話にもつながってきます.
問題を解く上での意外な注意点としては,「半径 rの水滴」は半球であることです.当たり前のことですが,これを間違うと答えが 2倍になってしまいます.

問1.静止している半径 rの水滴が受ける抗力の大きさ

付着面の面積に比例し,比例定数が hと与えられているので, f = \pi h r^2となります.

問2.半径 rの水滴の質量

半球の質量なので, \displaystyle{ m = \frac{1}{2} \times \frac{4}{3} \pi r^3 \times \rho = \frac{2}{3} \pi \rho r^3 }ですね.

問3.水滴が落下し始める半径

(抗力:f) = (重力)となると落ち始めるので,このときの半径を  r_dとしておくと,
  \begin{align} \pi h {r_d}^2 &= \frac{2}{3} \pi \rho {r_d}^3 \cdot g \\ r_d &= \frac{3h}{2 \rho g} \end{align}

問4.水滴の質量変化量

問2で求めた質量が半径の変化によってどう変わるかを求めます.
  \displaystyle{ \varDelta m = \frac{2}{3} \pi \rho \left( r+\varDelta r \right)^3 - \frac{2}{3} \pi \rho r^3 }

問題文で与えられているように近似式を使ってもいいですし, (r+\varDelta r)^3を展開した後に  \varDelta rの 2次以上はゼロとみなすとしても同じ結果が得られます.このような操作を「微小項の 2次以上は無視する」という言い方をしたりします.
結果, \varDelta m = 2 \pi \rho r^2 \varDelta rとなります.

問5.速度  vで落下する水滴の質量変化量

ここからちょっと「ん?」と手が止まったりするのかもしれません.ていねいに「時間  \varDelta tの間の速度,半径の変化は無視してよい.」とかいてくれているので,この間は一定速度で移動していると考えていいわけです.図4を見ればもっとわかりやすいと思います.*2
水滴が  v \varDelta tだけ移動するときに「巻き込んでいく面積」がわかればいいのです.この面積ですが,中学入試あたりででてくるようなもので,半円部分をうまく切り取れば長方形の面積として求められます.それに,厚みと密度をかけてあげれば,
  \varDelta m = v \varDelta t \cdot 2r \times d \times \rho = 2 d v \rho r \varDelta t

問6.水滴の位置の変化に対する半径の変化の比

問4と問5の  \varDelta mが等しいとし,さらに  \displaystyle{ v = \frac{\varDelta z}{\varDelta t} }として,速度の大きさを変位の変化量に置き換えます.
  \begin{align} 2 \pi \rho r^2 \varDelta r &= 2 d \color{red}{\frac{\varDelta z}{\varDelta t}} \rho r \varDelta t \\ \frac{\varDelta r}{\varDelta z} &= \frac{d}{\pi r} \end{align}

問7.移動する水滴の運動量保存則

「力積」が [(重力)-(抗力)]×時間と与えられることに気づけばしめたもんです.
  \left( m + \varDelta m \right) v' - mv = \left( mg - \pi h r^2 \right) \varDelta t

問8.水滴の加速度

 v' = v + \varDelta vを代入した後,「2次の微小量は無視」してあげます.
  \begin{align} \left( m + \varDelta m \right) \left( v + \varDelta v \right) - mv &= \left( mg - \pi h r^2 \right) \varDelta t \\ \varDelta m v + m \varDelta v &= \left( mg - \pi h r^2 \right) \varDelta t \end{align}

問題文に「 \rho, \ g, \ r, \ vなどを用いて」とありますが,「など」で使えるのは問題当初に与えられている  d hぐらいです.つまり, mをそのまま残しているとダメなのです.mは問2の結果を代入して,
  \displaystyle{ \frac{\varDelta v}{\varDelta t} = g - \frac{3h}{2 \rho r} - \frac{3 d v^2}{\pi r^2} }

問9.水滴の終端速度

大学さんの方から出ている内容は以下のとおり.
平成30年度医学部医学科一次入学試験 理科(物理)の不適切問題について|東京慈恵会医科大学

問8で  \displaystyle{ \frac{\varDelta v}{\varDelta t} }がゼロになるとして,そのときの速度の大きさを求める.というシナリオだったと思います.「速度の大きさに比例した空気抵抗がはたらく自由落下」のときと同じシナリオです.*3
ただ,これそんなに単純じゃないですよね.以下,思いつくことを羅列してみると,

  • 冒頭で書いたように抗力と重力が半径の関数としてズレがあり,重力の方がいずれかの時間で必ず大きくなります.(もし抗力が重力に「負けない」とすると,問1と問2の結果から  \displaystyle{ h > \frac{2}{3} \rho g r }となり,どんな rよりも大きな hが存在しなければならない.つまり,hは無限大とならなければならなくなり,これは「水滴が動かず,張り付いている」ことを表している.)
  • 問8の結果を少し書き換えると, \displaystyle{ a(t) = g - A \cdot \frac{1}{r(t)} - B \cdot \frac{ \{ v(t) \}^2 }{ \{ r(t) \}^2 } }となり,単純にこの式自体が収束するかはっきりしません.また,この関数は一見減少しそうに見えますが,半径だけの関数としてみれば増加関数になっています(引き算する項がどんどん小さくなっていくから).
  • それよりは, r \rightarrow \inftyとすると,加速度の極限値gとなります.これは半径が大きくなれば,自由落下に近づいていくということを示しています.そのような状況では,すでに抗力も面積に比例しているかどうかわかりません.


最後のところがいい狙いをしていただけにもったいないなあという印象です.でも,対象の物体の質量が変化する(増加する)というのは,なかなか面白い問題だと思います.質量が減少する問題の代表格はロケットですが,増加するのはなかなかないと思います.過去に,式の評価~その2~ - 理系男子の独り善がりでも扱った台車に雪が降り積もる問題も質量が増える問題になります.

*1:雨粒の大きさと走行速度によって,フロントガラスに雨粒を静止させるような問題

*2:個人的にはこの絵はなかった方が面白かったのでは?と思うのですが

*3:式の評価~その1~ - 理系男子の独り善がりの後半に挙げている内容です.