前回に引き続き,京大さんの問題をおさらいしておきます.なんとなくですが,「実践的な問題」という印象を持つようになってきました.
第2問~電磁場内の電子の運動~
トムソンの実験からはじまり,電場・磁場の両方がかかったドリフト運動とその発展という流れです.ここでのキーワードは「力は垂直方向には仕事をしない」になります.
(1)トムソンの実験
領域1内では,y軸の正の方向に一定の加速度 がかかるので,
- x軸方向は等速直線運動
- y軸方向は等加速度直線運動
として考えるだけです.領域を出れば,出たときの速度のまま(斜め方向に)等速直線運動をします.
解答欄[ホ]は,電圧:を与える電界のした仕事が電子の運動エネルギーに等しいとして導きます.
(2)ドリフト運動
磁場が加わります.これにより,電子には
- 電場より受ける y軸方向の一定の力を受け,
- 電子が運動することにより(これを電流と同じとみなし),磁場よりフレミングの左手の法則に相当する力を受ける.
という 2つの力がはたらきます.電子が陰極表面近傍で「静止」しているだけでは 2.の力ははたらきません.1.の力により動き出すことで,2.の力がはたらくようになります.
そして,磁場による力は電子の運動方向(電流の方向)に対して垂直になります.よって,2.の力は電子に対して仕事をしません.これがわかっていると,この問題はあっさり解けてしまいます.
- 当初,速さ 0だった電子がある速さを持つまでに,電子には何かしらの仕事がされています.仕事をする力は 1.の電場によるものしかないので,より解答欄[ヘ]が求まります.
- 点Uでは上で導いた結果より,として解答欄[ト],さらには y軸負の方向のみに 1.の力を打ち消すようにはたらく力が加速度を与えるので,1.により与えられる加速度の符号が逆として解答欄[チ]が求まります.
- 正のイオンについては,電気量の正負と電場に対する運動の向きが逆になるので, 「逆の逆」で x軸の正の向きへ運動します.は陽極からの距離を表しており,どちらの方がより遠くまで達するのか?は,解答欄[ト]に質量が変数としてどのように含まれているかを見ればよいです.
(3)フィラメントから送り出された電子の運動
解答欄[ト]の答えは,となっており,磁束密度が大きくなればなるほど が小さくなります.ということは,のときは曲げられることもなく陽極に電子が到達し電流が流れ,となると電子は陽極に到達できなくなります.この を境に,電流はオン→オフということになります.(フィラメントから一定量の電子の供給があり,互いの電子は影響をしないという条件があるので,徐々に小さくなるのではなく,あるとき一斉に電子が陽極に到達できなくなってしまう.)
第3問~一様な重力のもとでの熱力学~
大学の物理の一分野である「統計力学」のよく出される問題を高校物理にアレンジしています.「一様な重力のもとでの」と書いているのは,重力加速度ってなんですか? - 理系男子の独り善がりでも書いているように重力加速度は高度によって異なるのですが,ここではそうなってはいないという条件だという意味です.また,温度も一様であるという条件も与えられています.
問題の冒頭は,大気の物理(熱気球からの発展)~その1~ - 理系男子の独り善がりまたは「2016年大阪大学前期専門物理第2問*1も参考になるかと思います.
(A)の計算は扱う変数が多く煩雑ですが,それを乗り越えれば(B)は簡単に凌げます.(B)での結論として,1粒子あたりの比熱(この言い回しも高校物理ではなかなか出てこないのでちょっと戸惑うかもしれませんね)が重力場がないときよりも大きくなることが導かれています.これは円筒内の温度をに保つために粒子がある程度の高さを持つ必要があり*2,このために必要な位置エネルギーが全体のエネルギーに寄与するためです.,
(C)ですが,問題文中にもあるように,「高さ から無限遠まである気柱の重さ」を「おもりの重さ」が肩代わりしていることに気づければ,
とすることができます.数値を代入するところは,と変形できれば問題ないと思います.以前にも何度か書いていますが,「十分小さな」とは 1/100以下が目安となります.
冒頭で「実践的な問題」と書きましたが第1問も含めて,大学の物理で後々習うものをアレンジした内容となっています.あまりこれが強すぎると知ってる・知らないを問うようなことにもなりかねませんが,学生へのメッセージという意味ではいい内容だったのではないかなと思っています.
*1:この問題は大気の物理~その3(2年越し)~ - 理系男子の独り善がりで触れています
*2:の式を温度の関数でもあるとみれば より,温度が高くなるにつれ,は小さくなるので,粒子はどんどん上に上がっていかなければならなくなる.