理系男子の独り善がり

仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「熱気球が浮く仕組み」の焼き直し

熱気球のネタの焼き直しです。ちょっと書き加えているところもありますが、内容を変えるまでではないです。
miwotukusi.hatenablog.jp


入試問題としても、ちょくちょく扱われる「熱気球の問題」を考えてみます。他の熱力学の問題とは少し違った考えが必要になってきます。

ポイント1:熱気球は「閉じていない系」

通常熱力学の問題では、物質(気体)のやり取りがない「閉じた系」が扱われます。シリンダや風船といったものです。ところが、熱気球には気球の外と空気のやり取りがあります。これが「閉じていない系」という意味です。この時点でボイル・シャルルの法則は使えなくなります。この閉じていないことをどう理解するかが第一のポイントです。

ポイント2:「気球が浮く」のはなぜ?

ここは力学の考えを使います。それもそのまんま「浮力の原理(アルキメデスの原理)」です。通常、浮力の原理というと液体中の物体を想像しますが、浮力の原理は流体中の物体に対して成り立つ原理です。空気は流体ですので、空気中の物体にも成り立つわけです。

気球部分により押しのけた空気の重さだけ浮力が得られます。ただし、気球部分には軽くなったとは言え、空気が存在します。さらに、荷台に乗せられた荷物もあります。これらの力関係を考えれば、
 (浮力) ≧ (気球部分の空気による重力)+(荷台の重力)

という式が満たされたとき、熱気球は浮くことになります(等号のときに、ギリギリ浮き出す)。さらに少し書き換えて、
 (浮力)−(気球部分の空気による重力) ≧ (荷台の重力)

とすれば、気球は気球部分の重力の「ギャップ」を利用して浮いているとも言えます。

ところで空気中の物体に浮力が働くということは、人間にも浮力が働いていることになります。体積が大きければ、それだけ「浮力」は得られますが、当然それだけふっくらと・・・(笑)

ポイント3:状態方程式を「加工」する

状態方程式は、圧力: p・体積: V・温度: Tという物理量の関係式として与えられています。
  pV = nRT

これを加工していきます。どのように加工するのかというと、密度を用いた関係式となるようにします。 n/Vが「モル体積密度」を表すことに気が付けば、簡単です。モル体積密度だとイメージが湧きにくいので、わざわざですが質量密度に書き換えてみます。

そのために、空気の平均分子量: \muを導入します。ちなみに、この平均分子量は空気の成分が酸素:窒素=1:4であるとすれば、約28.8[g/mol]と求められます。質量密度: \rhoは、 \rho = n \mu / Vとなり、これを用いて状態方程式を書き換えれば、
  \begin{align} p &= \frac{n \mu}{V} \cdot \frac{R}{\mu} \cdot T \\ \frac{P}{\rho T} &= \frac{R}{\mu} = (一定) \end{align}

となります。右辺は気体の「量」には無関係*1であり、閉じていない系でも成立する式となります。さらに、これをボイル・シャルルの法則もどきに書くと、以下のようになります。
  \displaystyle{ \frac{p'}{\rho ' T'} = \frac{p}{\rho T} }

ここへ「閉じていない系」であることを加味します。それは気球の内外では気圧が同じということです。 p' = pということです。

結果、熱気球については、 \rho ' T' = \rho T という式が成り立ちます。
f:id:miwotukusi:20140130005258p:plain

熱気球が浮く条件

 \displaystyle{ \rho ' = \rho \cdot \frac{T}{T'} } となるので、これを代入して整理すれば、
  \displaystyle{ T' \geqq \frac{T}{1 - \frac{M}{\rho V}} }

という条件が得られます。この結果を覚える必要はありません。「気球内の気体を何度まで温めれば、浮き上がることができるか?」といった計算問題となることが多いです。

浮き上がる温度を求めるだけじゃ、面白くない

もう一度、気球が浮き上がる条件の式を考えてみます。
 (浮力) ≧ (気球部分の空気による重力)+(荷台の重力)

具体的な式として表すと、
  \rho V g \geqq \rho' V g + M g

となります。気球が浮くときの合力: Fは、左辺と右辺の差なので、
  \begin{align} F &=\rho V g - (\rho' V g + M g) \\ &= \rho V g -\rho \cdot \frac{T}{T'} \cdot V g - Mg \\ &= \rho V g \left(1 - \frac{T}{T'} \right) - M g \end{align}

となります。 \rho'が温度: T'の関数だったので、合力は気球内の温度: T'の関数として表されます。*2

ところで気球が上昇していったとき、気球外の外気(大気)はどのように変わるでしょうか?高い山に登れば、気温は下がりますし、空気も薄くなります。これを高度を  hとして、物理的な表現に置き換えると次のようになります。

気温が下がる→ 外気の温度: T = T(h)は、 hの減少関数として与えられる*3
空気が薄くなる→ 密度: \rho = \rho (h) hの減少関数として与えられる。
というわけで、合力を書き改めると、
  \displaystyle{ F(T’, h)=\rho(h)・V g \left\{ 1- \frac{T(h)}{T'} \right\} - M g }

となります。与えられた高度に対する気温や密度によって、上昇するために必要な気球内の温度が変わるということです。このような分析や考察を問うような問題があってもいいのかな。と思います。

おまけ

気球に乗って太平洋を横断したり、世界一周をしたりという人がたまにいます。偏西風に乗って移動す ることを考えるので、熱気球とはまた違った手段を使います。非常に高い高度に到達するので、先に述べたように空気が薄い(密度が低い)ゆえに浮力が小さい、気温が低いといった「悪条件」があるからです。このような場合は、「閉じた気球にガスを詰めたもの*4」を使用します。浮力を得るために、この気球は非常に大きいものになります。
参考:JAXA | 無人気球到達高度の世界記録更新について

また気球が大きくなれば、気球自体の重さも無視できなくなります。そのため、非常に薄くて丈夫な素材の開発が必要になります。こういうところは、日本が得意なところでもありますね。

最後に、気球に乗ると「風が気持ちよさそうですねぇ」なんて思うかもしれませんが、物理的に考えればこれはウソになります。というのも、風が吹けば気球も一緒に風に流されるので、乗っている人に対する風の相対速度が 0になるからです。

熱気球に関するもろもろ(2016/02/03+2016/04/03追記+2017/08/13追記)

これ以降に記している熱気球がらみのネタです.合わせて参考にしてもらうと幸いです.

*1:気体の分子量という性質に依存している

*2:運動方程式 F = maを考えれば、そのときの加速度を求めることができる。このときの質量: mは、 \displaystyle{ \rho V + \rho' V + M = \left( 1 + \frac{T}{T'} \right) \rho V + M } となる。

*3:地表~高度11kmまでの対流圏においては、1kmあたり 6.5℃ずつ下がる1次関数となります

*4:この場合は、ボイル・シャルルの法則が使える!