みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

円周率3の「えん」

最近 twitterをやるようになって,いろいろと面白い話に触れることができて楽しいです.そこで目にしたのが円周率が 3となる「円」の話です.今回は,この話をちょっといじってみようと思います.

円はコンパスで描けますが

同じように簡単な道具だけで「直径×3」となるような図形を描くことを考えてみます.
「ちょっけい」と書きましたが,
 「直径」→「ちょっけい」→「ちょうけい」→「長径」

という話になります.2種の「えん」について書いていきます.

ケース1:楕円

楕円の周の長さは,楕円積分という単純には求められない積分の結果*1として与えられます.長径を  2a,短径を  2b,離心率を  \displaystyle{ e = \sqrt{ 1 - \frac{b^2}{a^2} } }として,
  \displaystyle{ L = 2 \pi a \cdot \left( 1 -\sum_{m=1}^{\infty} \left[ \left\{ \frac{(2m-1)(2m-3) \cdots 1}{2m(2m-2) \cdots 2} \right\}^2 \frac{e^{2m}}{2m-1} \right]  \right)}

と表されます.この級数を用いて周の長さの近似値を計算する手もありますが,ここではもっと単純な近似で周の長さを考えてみます.

近似計算の方針
  •  a=1として,長径を  2とします.すると,楕円の表す式は  \displaystyle{ x^2 + \frac{y^2}{b^2} = 1 }と書くことができます.
  •  x \geqq 0, \ y \geqq 0の領域における長さを考えます.円周率を 3としたいので,この領域における周の長さは  3 \times 2a \div 4 = 1.5になります.
  • x軸方向を  n等分し, \displaystyle{ x_i = \frac{a}{n} \cdot i  \ (i = 0, \ 1, \cdots , \ n)}とします.
  • 楕円上の点 P_i (x_i, \ y_i) = (x_i, \ b\sqrt{1 - {x_i}^2})とします.
  • 隣り合う点の距離をピタゴラスの定理より, \overline{P_i P_{i+1}} = \sqrt{(x_{i+1} - x_i)^2 + (y_{i+1} - y_i)^2}として求め,これらの和を計算します.

ひとことで言えば,楕円を折れ線で近似しているだけという単純なものです.

おまけ:角度を分割する方法
楕円上の点は,角度となるパラメーター*2 \phiを用いて,
  (x, \ y) = (a \cdot \cos{\phi}, \ b \cdot \sin{\phi})

と与えることができます.この  \phi n等分するという方法も考えられるのですが,実際計算してみると精度が悪かったので上に書いた方針としています.精度については, b=1(これは円!)として周の長さを計算し, \pi/4の値と比較することで評価をしました.

あとは,ちまちまと  bの値を変えていきながら計算をしていきます. b \fallingdotseq 0.90877で周の長さが  1.5となりました.楕円の焦点の座標を求めると,
  (\pm \sqrt{a^2-b^2}, \ 0) = (\pm \sqrt{1 - 0.90877^2}, \ 0) \fallingdotseq (\pm 0.41730, \ 0)

となります.短径が長径よりも 10%も短いというのはちょっと意外でした.ですので,ひもを用いて描くことも難しくないと思います.

ケース2:コンパスを用いる!

え?そんなことできるの?と思われるかもしれませんが,できるんです.過去のネタを使います.
miwotukusi.hatenablog.jp

まさか,このネタを使う日がくるとは思ってませんでした(笑).
計算の方針はケース1と同じですが,長径と短径の選び方がちょっと違います.

  • コンパスの半径が短径: r = bとなりますが,このときの長径は  \displaystyle{ R \cos^{-1} \left( 1 - \frac{r^2}{2R^2} \right) }となります. Rは空き缶の直径です.
  • この長径が 1となるように調整をします.つまり, \displaystyle{ R \cos^{-1} \left( 1 - \frac{r^2}{2R^2} \right) = 1 }より, \displaystyle{ r^2 = 2R^2 \left\{ 1 - \cos{\left( \frac{1}{R} \right)} \right\} }とします.
  • コンパスの半径と空き缶の半径に関係が与えられたので,求めたい周の長さは  Rの関数として与えられます.
  • ケース1と同様に,x軸方向を  n等分して…を計算します.

結果は, r \fallingdotseq 0.92783, \ R \fallingdotseq 0.75147となりました.この比率でコンパスと空き缶を用意して,くるっと円を描けば円周率 3の(近似的な)円が現れるわけです.
ちなみに,上の空き缶ネタで与えられている角度: \theta(空き缶を円筒座標系としてみたときの動径方向がなす角度)の最大値は  \displaystyle{ \theta_{max} = \cos^{-1} \left( 1 - \frac{r^2}{2R^2} \right) \fallingdotseq 76.24^{\circ} }となります.90度より小さいので,空き缶の裏に回り込むということはありません.


最後に,円周率  \piのふつうの円,円周率 3の楕円,円周率 3の空き缶円を合わせた絵を載せておきます.今回求めた「えん」は異なる 2つの方法で求めたとはいえ,ほとんど重なっています.

円周率3の「えん」;黒点線はふつうの円,オレンジ色の線は楕円,緑色の線は空き缶円

数値計算には前回のネタで挙げた Mathstudioを用い、最後のグラフは Desmosで描いています.

*1:積分の中身を無限級数の和に展開して,級数の各項を積分する

*2:楕円上の点と原点を結んだ線がつくる角ではないことに注意