みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2019年東京慈恵会医科大医学部物理問題1」のメモ

昨年も東京慈恵会医科大の問題(↓)を取り上げましたが,今年も取り上げます.
miwotukusi.hatenablog.jp

なぜ取り上げるのか?それは,昨年のリベンジみたいな問題だからです(笑).
昨年はガラスをすべり落ちる水滴の問題でしたが,今年は水中を昇ってくる気泡の問題です.「滴(半球)」と「玉(球)」と似たような形状のものが「落ちるのか」「昇るのか」という対比のような問題になっています.そして,最後の問いがまさにリベンジっぽくなっています.
というわけで,Let's thinking(sinking?)です.

問題の図を載せておきます.

2019年東京慈恵医科大物理問題1の図

問1.深さ  d_0での水圧

断面積: Sの円柱でも考えて,「その上に乗っかっているもの」を足し合わせればよいです.
  \begin{align} P_0 \cdot S &= P_a \cdot S + \rho_w \cdot d_0 S \cdot  g \\ P_0 &= P_a + \rho_w d_0 g \end{align}
 

問2.深さ  d_0にある.半径  r_0の気泡の内部の気体の圧力

「~の~の~の~」みたいな表現はあまり好きではないのですが(苦笑),問題文に書いてあるとおりに従えば,
  \displaystyle{ P_0 + \Delta P = P_a + \rho_w d_0 g + \frac{2 \alpha}{r_0} }
 

問3.深さ  d_0での気泡の内部の気体の密度

まず,気泡の中のモル密度を求めることを考えて,状態方程式を立てれば,
  \begin{align} \left( P_0 + \frac{2 \alpha}{r_0} \right) V &= nRT \\ \frac{n}{V} &= \left( P_0 + \frac{2 \alpha}{r_0} \right) \cdot \frac{1}{RT} \end{align}

モル密度については,問題文中に「 1 \mathrm{mol}あたりの質量が  M理想気体が包含されている」とあるので,
  \displaystyle{ \rho_0 = \frac{nM}{V} = \left( P_0 + \frac{2 \alpha}{r_0} \right) \cdot \frac{M}{RT} }

熱気球のネタの中でも,同じようにモル密度を質量密度に言い換えることをしています.まあ,浮かんでいるという点では熱気球の問題とも共通点は多いですね.

問4.深さ  d_0において気泡が受ける浮力と重力の合力

これも,熱気球のネタで出てきた内容と同じです.*1

  • 浮力(鉛直上向き)は,気泡がある場所にあったであろう水の重さ
  • 重力(鉛直下向き)は,気泡の重さ

ということですから,
  \displaystyle{ \rho_w V g - \rho_0 V g = (\rho_w - \rho_0) V g = \frac{4}{3} \pi (\rho_w - \rho_0) {r_0}^3 g }
 

問5.深さ  dにおける気泡の半径

ここちょっと文章の意味が捉えづらいかもしれません.
 「気泡の内部の気体の圧力について,表面張力の効果は重力の効果に比べて十分小さく」
問2で  P_0 +\Delta Pのような式を考えたけど,重力の項の方が値が十分大きくなる(表面張力は小さい)ので,結局のところ  \Delta Pは無視してくれということを言っています.
で,立てる式ですが,気泡が深さ  d_0 \rightarrow dとなっていく中で「不変なもの」を探し当てれればいいです.それは,気体の質量です.このあたりは,熱気球の場合と違ってますね.表面張力を無視する前の形で立式すると,
  \begin{align} \left( P_a + \rho_w \color{red}{d} g + \frac{2 \alpha}{\color{red}{r}} \right) \cdot \frac{4}{3} \pi \color{red}{r}^3  &= \left( P_a + \rho_w \color{red}{d_0} g + \frac{2 \alpha}{\color{red}{r_0}} \right) \cdot \frac{4}{3} \pi \color{red}{r_0}^3 \\ r &= \left( \frac{P_a + \rho_w d_0 g}{P_a + \rho_w d g} \right)^{\frac{1}{3}} r_0\end{align}
 

問6.抗力を考えたときの気泡の運動

一度,運動方程式を書いてみた方がわかりやすいかもしれません.問4で考えた合力へさらに抗力が加わってきます.
  \begin{align} m a &= \frac{4}{3} \pi (\rho_w - \rho) r^3 g - k r^2 v \\ &= \frac{4}{3} \pi \Delta \rho g \cdot r^3 - k \cdot r^2 v \end{align}

ここで,気泡の速度の大きさを  v,抗力の比例係数を  k,さらに水と気泡の密度の差(気泡内外の密度差)を  \Delta \rho = \rho_w - \rho > 0*2としました.
この問いでは,この式を評価して「簡潔に記せ」と言っているわけです.ちょっとだいぶ難しいですよね.
たとえば,以前に書いていた式の評価~その1~で挙げていた「空気中を落下する物体」の例を参考にして,

  1. 運動をはじめたとき
  2. 運動が一定の状態(終端速度)になるのあれば,そのとき

について評価することを考えてみます.

1.運動をはじめたとき

気泡が発生してすぐのときは,水圧が高いので気泡が小さく( rが小さく),運動をはじめたところなので速さも小さい( v \approx 0)となります.落下するときと同様に,抗力が小さいという特徴があります.

2.運動が一定になるとき(なるのであれば)

上でも書いたように  \Delta \rho > 0であることを踏まえれば,加速して浮上していくことは言えます.*3
ただし,

  • その加速度の大きさ(速度の大きさの時間変化)が減少するのか,増加するのかわからない
  • 減少したとしても,その加速度の大きさが 0にまでなるかどうかもわからない

となって,これらを明確にするには式に現れている種々のパラメーター( \rho_w, \ \rho, \ k等)の具体的な値を与える必要があります.つまり,「これだけでは,よう分からんわ!」という内容を書くことになります.

で,この問い,昨年不適切となってしまった問いのリベンジのように思えてなりません.答えがはっきりできないことを評価させるなんて,ある意味意地なんじゃないかとも思うほどです.でも,このような評価をできるというのは,医療という現場では必要な力なのかもしれません.

2019/02/09追記

この問6,「浮力と抗力の大小関係に注目して」と書かれていますが,「重力」はどっち扱いなんでしょうか?上では対比させるために、無理やり  \Delta \rhoに押し込めてる感じにしていました.本当なら,「気泡が上昇するときに,浮力と抗力と重力の合力の大きさがどうなるのか?」と考えなければならないのでしょうね.


この問題は,グラスに注がれたシャンパンのような例*4でしたが,海の中の気泡となると,海水の密度や温度が一定ではないので,(モデル化をしたとしても)さらにパラメーターが増えてきます.*5

*1:これも参考物件です.浮力の疑問 - 理系男子の独り善がり

*2:水の密度と気泡の密度ぐらいは大小関係は決めつけてもいいでしょうということで

*3:抗力は,摩擦力と同じで,運動する方向と逆向きにかかる力なので,抗力が負になることはない

*4:シャンパングラスの底から立ち上がる泡は「ペルル」(フランス語で真珠の意)」と呼びます

*5:急激な浮上をするような場合には,気泡内部の温度変化がまわりの海水温の変化よりも大きくなり,気泡の大きさが一度小さくなるようなことも考えられなくはない