理系男子の独り善がり

仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2019年大阪市大後期物理第1問」のメモ~鉛直振り子は奥が深い~

大阪市大さんの問題を取り上げます.まあ,いままで何回か鉛直振り子の話を取り上げているので,その流れ(好み?)という感じにはなりますが,ちょっと書きたいこともあったので.
というわけで,参考物件は以下 2つです.

問題は鉛直振り子がちょうど縦に 2つ並んだ配置になっています.そして,それぞれの球の質量が異なります.

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2019年大阪市大後期物理第1問の図1と図2

シンプルで奥が深い問題っていいですよね.(^^)

問1,問2

問1は上のネタでも取り上げている内容にほぼ同じです.あとでポイントになるので,衝突直前の速さ: vの式だけ以下に記しておきます.
  v = \sqrt{ {v_0}^2 - 4g l }

問2は衝突直後の A,Bの速度を求めます.これも,あとで使うので結果だけ記しておきます.
  \begin{cases} v_A = \cfrac{m-M}{m+M} v = \cfrac{1-k}{1+k} v \\ v_B = \cfrac{2m}{m+M} v = \cfrac{2}{1 + k} v \end{cases}

ここで, \displaystyle{ k = \frac{M}{m} }とおいています.


次に  \displaystyle{ \frac{M}{m}, \ v_0 }の値をうまく選ぶと,くるっと回って 2つの球をまた同じところで衝突させることができます.このような状況について考えていきます.

問3,問4:繰り返される運動

2回目の衝突を考えると,同じ点で衝突するという運動が繰り返される(球Bがもとの点に戻ってきては静止する運動になる)ことになります.この様子を見たときに,ちょっと様子は違いますが「アメリカンクラッカー*1」という遊具の動きに近いなと感じました.


さて,今回触れたい本題となるのは次からです.

問5: \displaystyle{ \frac{M}{m} }の値

ある  v_0に対する  \displaystyle{ k = \frac{M}{m} }の値を求めます.これ結構,難しいんじゃないでしょうか?条件は「また同じ場所で 2つの球が衝突する」となるのですが,
 このことをどのように式で表現するのか?
 そして,2球の質量が異なることがどのように関わっているのか?

というところがピンとこない問いだと思います.単に円運動をしているだけでは同じ点では出会わないですし.
以下では,「ダメなやり方(結局行き詰ってしまう)」と「うまいやり方」を挙げていきます.球Bがはじめにあった点を点Qとおいて話を進めます.

ダメなやり方

2球はちょうど 1周して点Qで衝突をするということを繰り返します.ということは,(球Aが1周する時間)=(球Bが1周する時間)とならないといけません.この言い換えはとても素直だと思います.この「1周する時間」をちょっとはみ出したレベル(つまりは大学レベル)で考えていきます.この回答は当然NGなのですが,今後大学で物理をする人は同じような話に出くわすと思うので,参考にしてもらうのもよいかと思い,記していきます.

球Aについて,力学的エネルギー保存則の式を立てます. \angle \mathrm{QOA} = \thetaとし,その位置にあるときの球Aの速さの大きさを  v_A ( \theta )とおいて,
  \begin{align} \frac{1}{2} m {v_A}^2 &= \frac{1}{2} m \, {v_A ( \theta )}^2 - mg \cdot (1 - \cos{\theta}) l \\ v_A ( \theta ) &= \sqrt{ {v_A}^2 + 2 (1 - \cos{\theta}) gl } \ \cdots \mathrm{(A)}\end{align}

ところで,鉛直振り子は元のネタでも記しているとおり,円運動ではありますが速さは一定ではありません.それを時間の関数であると考えると,
  \displaystyle{ v_A ( \theta ) = l \, \omega_A (\theta) = l \frac{d \theta}{dt} }

と書き下すことができます. \displaystyle{ \omega_A (\theta) = \frac{d \theta}{dt} }は角速度の大きさを表しています.角度: \thetaが時間の関数になっているわけです.
これを式(A)に代入して変形すると,
  \begin{align} l \frac{d \theta}{dt} &= \sqrt{ {v_A}^2 + 2 (1 - \cos{\theta}) gl } \\ dt & = \frac{l \, d \theta}{\sqrt{ {v_A}^2 + 2(1 - \cos{\theta})gl }} \end{align}

角度: \thetaが 1周する.すなわち, 0 \leqq \theta \leqq 2 \piの範囲で足し合わせると,左辺は(球Aが1周する時間)= T_Aになるので,
  \displaystyle{ T_A = \int_0^{2 \pi}  \frac{l \, d \theta}{\sqrt{ {v_A}^2 + 2(1 - \cos{\theta})gl }} }

同様にして,球Bが1周する時間も
  \displaystyle{ T_B = \int_0^{2 \pi}  \frac{l \, d \phi}{\sqrt{ {v_B}^2 - 2(1 - \cos{\phi})gl }} }

となるので, T_A = T_Bを条件として考えればよいことになります... 無理ですよね.

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2019年大阪市大後期物理第1問の問5の「ダメなやり方」

ここに現れている積分は楕円積分というもので一度円周率3の「えん」 - 理系男子の独り善がりのところで,現れているものになります.*2
とこれ以上手も足も出ず,The Endです.

うまいやり方

問1の答えに注目してみます.以前のネタでもそうなのですが,球の速さの式には球の質量は出てきません.つまり,球の運動自体には質量は関係ないことがわかります.(このことだけを考えると,球の質量の違いが何のためにあるのかわからなくなってくる.のですが,最後に種明かしします.)
たとえば,運動中の球Aが,点Qよりも  h_Aだけ低い点にあるとき,その速さは次のように与えられます.
  v_A(h_A) = \sqrt{ {v_A}^2 + 2g h_A }

ポイント1:1つの球が1周する時間
上に挙げた速さの式では,変数は角度ではなく,高さ(の差)を採用しました.このように書き下すと,球の運動が上りだろうが下りだろうが,同じ高さにあるときは速さも同じということがよくわかると思います(角度で書くと,その様子を示すのがちょっと面倒).このことから,上りの時間と下りの時間は同じである(半周する時間は同じである)ことがわかります.

ポイント2:2つの球の1周する時間が等しくなること
上の式をよく見ると,ある高さにおける速さは初速の大きさにのみ依存していることがわかります.平方根の中の2項目は,その高さ(の差)に応じて決まるものであり,高さの差だけで決まる量になります.2球についている糸の長さ(円軌道の半径)が同じなので,2つの球が1周する時間が等しくなるためには,対応する点(同じ高さ or 同じ角度として与えられる点)における速さが等しくないといけないこともわかります.「対応する点」というのは,たとえば「それぞれの軌道の最下点同士」や「それぞれの軌道の最高点同士」ということを表しています.

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2019年大阪市大後期物理第1問の問5の「うまいやり方」

最終的に考える条件の式は,ポイント2から与えられます.ただし,その条件が言えるためにはポイント1から示される
 (球Aの「前半」半周に要する時間)=(球Bの「後半」半周に要する時間)
 または (球Aの「後半」半周に要する時間)=(球Bの「前半」半周に要する時間)

という関係があって適用できるものになります.(単にポイント2だけで最高点同士での速さが同じとだけ言ってもダメ)

回答には,これら 2つのポイントが記されてはじめて正解(満点)になるんじゃないかな?と思いました.この問題,物理センスを試す非常にいい問題だと思います.

2019/03/31追記
解答用紙の形式(穴埋めとか,記述式とか)にもよりますが,大阪市大さんは記述式なのでしっかり考え方を書く方がよいのでは?と.後期試験で物理学科しか受けていないという状況ですし,「なんとなくそうなりそう」ということをしっかり(物理的に)説明する力も試されているのではないかと思いました.

最後に,2球の質量が異なることは単に「衝突後の速さの差」を与えているだけということになります.衝突時,球Aは最高点,球Bは最下点ですから,当然速さは異なります.その差を与えているだけだということです.

問6: \displaystyle{ v_0, \ \frac{M}{m} }に成り立つ関係式と条件

 v_0が決まっていない場合について考えています.問5の一般化なので,問5の考え方を使えばいいです.ただし,球Bがぐるっと1周してくれないといけないので,それが条件に加わります.


鉛直振り子は奥が深いと以前のネタでも書いていましたが,ここまで深い話になるとは思ってませんでした.解きながらいい勉強させてもらいました.この問題,糸の長さが同じでしたが異なっているとちょっと大変なことになるのかな?なんて,最後に想像してしまいました(笑).

*1:こんな遊具です.ja.wikipedia.org

*2:第一種の楕円積分と呼ばれているものになります.参考:楕円積分 - Wikipedia