みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

選挙の算数~その1~

選挙にまつわる算数(数学というよりは算数っぽいので)をつらつらと書いてみます.

 

賛成96%?

先日おこなわれたウクライナ東部での住民投票では,「賛成が96%」「賛成が90%」といった結果が流れました.

 NHK NewsWeb:ウクライナ 分断のまま大統領選挙の懸念

ニュース調に言えば「遠い国の話ではない」というところですが,数学の話としても遠い国の話ではなく,日本でもよくある話です.その最たるものが「満足度95%」といった通信販売の広告などでよく見かけるものです.

統計学を学ぶ上でのポイントの一つとして,以下のことが挙げられます.
 割合の「分母(母集団)」が何かを見極めること

これを理解していないと,ただの数字遊びになってしまいます.いま挙げた2つの例で言えば,

  • ウクライナの選挙であれば,「投票した人は全有権者のうちのどれだけで,どのような人が投票したのか?」
  • 通販であれば,「『満足度』の回答をしたのは,どのような人だったのか?」

ということを理解しなければならないということです.

 

選挙について,もう少し詳しく見てみましょう.こんな記事がありました.

 NHK NewsWeb:ウクライナ東部 住民投票続く

ここにはロシア系住民の割合が書かれており,おおむね4割弱ということになっています.単純に人種だけで思想が決まるわけではないですが,根深さ(相関)は強いと思います.ここで間違ってはいけないのは,

  • 「ロシア系住民のほぼすべてが投票したから」というのではなく,
  • 「投票した人がほとんどロシア系住民だったから」

と捉えなければならないということです.別にロシア系住民の半分でも構わないわけです.それよりも,「それ以外の人がほとんど投票に行かなかった」と考えるべきです.

この記事では,世論調査の結果も書かれています.これもどのような調査をしたのか(たとえば,どのような人に聞いたのか,世代に偏りはなかったのかといったこと)が不明ですが,半分程度が独立に反対という結果になっています.

 

日本の選挙でも同じことが言えます.「組織票」と言われるものは,選挙があればほぼ確実に投じられる票です.しかし,「無党派」などと呼ばれる人々は,投票に行って意志を投じない限りは上がってこない票です.ですから,投票率が低いと組織票が優位となり,野党は投票率を上げることに躍起になるわけです.

 

当選確実の「原理」

最近では選挙当日の夜8時(投票終了時刻)になった途端,「〇〇氏,当選確実」という字幕が踊ることが多くなりました.録画してると,だいぶウザったいですね(データ放送とかうまくつかって,録画に残らないようにできないのかな?と思うのですが).速報できるようになったのは,IT(通信手段の広まりと集計と統計の効率化)によるところが大きいのだと思います.
ただ,出口調査で「〇〇氏が多そうだから」といって,当選確実を出しているわけではありません.ちゃんとした原理があります.これは中学生でも理解できる簡単なものです.

 

【問題】
学級委員選挙を題材にしてみましょう.学級委員として,30人のクラスから3人の委員を選挙で選びます.さて当選確実となるには最低何人の得票が必要でしょうか?

 

この問題を考える前に,簡単な副題を考えてみます.そこからヒントを得ることができます.

【副題】
学級委員として,30人のクラスから1人の委員長を選びます.さて,当選確実となるには最低何人の得票が必要でしょうか?

これはすぐに答えがわかると思います.「過半数を取れば」いいわけですから,答えは15人16人ということになります.しかし,ここで終わってはいけません.「Aさんが過半数を取ること」を言い換えれば,
 (Aさんに投じなかった票数) < (Aさんに投じた票数)

ということが言えます.過半数というのは,「相手を抑え込める数」と言い換えることもできるわけです.

 

では,本題に戻りましょう.

当選確実となる票数をx票とします.すると,当選した3人の合計票数は3x以上になります.副題と同じように「残りの票数」を考えると,30-3x票よりも小さい票数(残りの票数の最大値は30-3x)となります.もしこの「残りの票数」がx票以上になると,その残りを別の1人が独占できれば当選者は4人になってしまいます.つまり,上位3人に入るには

 30-3x<x

という条件が必要になります.この1次不等式を解くと,x>15/2となり,「8票以上の票を獲得すれば当選確実」ということになります.30÷3=10票が答えではないのです.

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この辺りは,単に「票数を取る」というだけでなく,「相手に票を取らせない」という考え方もしないといけないと思います.確率の問題で,当てはまる事象だけでなく,当てはまらない事象も考えないといけないところに似てますね.

 

次回はもうちょっとレベルを上げた(?)話をしたいと思います.