シンプルだけど,それなりに奥が深い問題を扱ってみます.
2019/02/04追記
問題
長さ:の「棒」または「ひも」の先に,質量:の球を取り付けた鉛直振り子を考える.最低点にある球へ初速:を与え,最高点(高さ:の点)に到達させるとき,必要な の条件を求めよ.ただし,棒やひもは非常に軽く,その質量や空気抵抗は無視してよいものとする.
「初速を与え,高さ:の地点に到達させる」ととらえれば,力学的エネルギー保存則を考えるのは,とても自然なことだと思います.しかし,それだけでは足りないところが出てきます.その違いを想像できますか?実際の入試問題では,そのような力が試されるところもあると思います.
棒のとき
これは単純,力学的エネルギー保存則で解決です.最高点での速さを とおくと,力学的エネルギー保存則の式は,以下のようになります.
であることが条件となるので,その条件を満たす は
となります.
ひものとき
これは単純ではありません.まず,鉛直振り子とは重力が鉛直下向きにはたらく環境で動かすので,等速円運動にはなりません.これは,棒のときも同様です.しかし,その時々(瞬間)では等速円運動をしていると考えてあげます.
なぜ,このようなことを考えるのかというと,ひもの問題の場合「張力」を扱う必要があるからです.先に答えを言ってしまうと,この張力と重力により向心力が得られていると考えます.最高点(の瞬間)における円運動の加速度は となるので,運動方程式は,張力を として
となります.であることが条件となり,先の力学的エネルギー保存則と組み合わせることで,
となります.棒の時よりも,倍より大きな初速が必要だということになります.
もうちょっと考察
では,ひものときに,間違って初速 (棒のときの最低の速さ)を与えてしまったら,どういう運動をするでしょうか?
最高点まで円運動をするのであれば,その途中でも円運動(半径:Rの円周上を運動する)をしています.しかし,初速不足で途中で円運動を逸脱してしまうはずです.その点はどこになるのかを求めてみます.
図のように,鉛直上向きの方向から角度θ を与えて考えます.先と同じように,動径方向(中心から球に向かう方向)の運動方程式を立てると,
となり,力学的エネルギー保存則と組み合わせて が満たす条件が以下のように与えられます. ちなみに,のときは,上のひものときと一致していますね.
ここへ を代入して,という結果を得ます.度の地点というよりは,最高点から だけ下の点で円運動を逸脱することがわかります.その後は放物運動をおこない,もとの円周に到達すると,また円運動をするという運動になると予想されます.
この という点ですが,上の図にも書いているように,球面から球が転がり落ちるときに,その球面から逸脱する(飛び出す)点と一致します.立てる式が,運動方程式と力学的エネルギー保存則の式で同じ形になるからです.
棒とひもというだけで,これだけの考え方の違いが出てきます.結果からでもいいので,運動の様子を想像してみてください.
おまけ(2014/9/20追記)
そもそも,の条件を求めよ.という時点で与えられている変数は,長さ:,質量:だけです.重力が関係するので,重力加速度:も必須ですね.ここで次元解析をしてみると,
となって,は に比例したものになることが推測できます.
おまけというよりも補足(2014/9/30追記)
たびたびの追記です(苦笑).当然のことながら,円運動を逸脱する点は,球に与えた初速の大きさによって変わります.その位置を与えるパラメータがθ なわけですが,θが90度よりも大きくなったときはどうなるか?という話です.
式の上でいじってみると,次のようになります.
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「鉛直振り子の問題」の補足 - 理系男子の独り善がり
球が「引っ張られているのか」「乗っかっているのか」の感覚的な話を入試問題を踏まえて書いています. -
「2019年大阪市大後期物理第1問」のメモ~鉛直振り子は奥が深い~ - 理系男子の独り善がり
シンプルですが,奥が深い問題を取り上げています.