みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

鉛直振り子の問題~棒とひもの違い~

シンプルだけど,それなりに奥が深い問題を扱ってみます.

2019/02/04追記

このあたりの話をまとめてくれている入試問題があったので,それについて書きました.参考にしたいたければと思います.

問題

長さ: Rの「棒」または「ひも」の先に,質量: mの球を取り付けた鉛直振り子を考える.最低点にある球へ初速: v_0を与え,最高点(高さ: 2Rの点)に到達させるとき,必要な  v_0の条件を求めよ.ただし,棒やひもは非常に軽く,その質量や空気抵抗は無視してよいものとする.

 

「初速を与え,高さ: 2Rの地点に到達させる」ととらえれば,力学的エネルギー保存則を考えるのは,とても自然なことだと思います.しかし,それだけでは足りないところが出てきます.その違いを想像できますか?実際の入試問題では,そのような力が試されるところもあると思います.

 

棒のとき

これは単純,力学的エネルギー保存則で解決です.最高点での速さを  v_tとおくと,力学的エネルギー保存則の式は,以下のようになります.

  \displaystyle{ \frac{1}{2} m {v_0}^2  = \frac{1}{2} m {v_t}^2 + mg \cdot 2R }

 v_t \geqq 0であることが条件となるので,その条件を満たす  v_0

   v_0 \geqq \sqrt{ 4gR } 

となります.

 

ひものとき

これは単純ではありません.まず,鉛直振り子とは重力が鉛直下向きにはたらく環境で動かすので,等速円運動にはなりません.これは,棒のときも同様です.しかし,その時々(瞬間)では等速円運動をしていると考えてあげます.

なぜ,このようなことを考えるのかというと,ひもの問題の場合「張力」を扱う必要があるからです.先に答えを言ってしまうと,この張力と重力により向心力が得られていると考えます.最高点(の瞬間)における円運動の加速度は  \displaystyle{ \frac{{v_t}^2}{R} }となるので,運動方程式は,張力を  Tとして

  \displaystyle{ m \frac{{v_t}^2}{R} = T + mg }

となります. T \gt 0であることが条件となり,先の力学的エネルギー保存則と組み合わせることで, 

   \begin{cases} \displaystyle{ m \frac{{v_t}^2}{R} \gt mg } \\ \displaystyle{ \frac{1}{2} m {v_0}^2  = \frac{1}{2} m {v_t}^2 + mg \cdot 2R } \end{cases} \Rightarrow v_0 \gt \sqrt{5gR}

となります.棒の時よりも, \sqrt{5}/2 \fallingdotseq 1.12倍より大きな初速が必要だということになります.

f:id:miwotukusi:20140918001840p:plain

 

もうちょっと考察

では,ひものときに,間違って初速  v_0 = \sqrt{4gR}(棒のときの最低の速さ)を与えてしまったら,どういう運動をするでしょうか?

最高点まで円運動をするのであれば,その途中でも円運動(半径:R Rの円周上を運動する)をしています.しかし,初速不足で途中で円運動を逸脱してしまうはずです.その点はどこになるのかを求めてみます.

f:id:miwotukusi:20140919213615p:plain

 

図のように,鉛直上向きの方向から角度θ  \thetaを与えて考えます.先と同じように,動径方向(中心から球に向かう方向)の運動方程式を立てると,

  \displaystyle{ m \frac{v^2}{R} = T + mg \cos{\theta} }

となり,力学的エネルギー保存則と組み合わせて  \cos{\theta}が満たす条件が以下のように与えられます. ちなみに, \theta = 0のときは,上のひものときと一致していますね.

   \begin{cases} \displaystyle{ m \frac{v^2}{R} \gt mg \cos{\theta} } \\ \displaystyle{ \frac{1}{2} m {v_0}^2  = \frac{1}{2} m v^2 + mg \cdot R(1+ \cos{\theta}) } \end{cases} \Rightarrow \displaystyle{ \cos{\theta} \lt \frac{{v_0}^2}{3gR} - \frac{2}{3} }

ここへ  v_0 = \sqrt{4gR}を代入して, \displaystyle{ \cos{\theta} \lt \frac{2}{3}}という結果を得ます. \theta \fallingdotseq 48.2度の地点というよりは,最高点から  \displaystyle{ \frac{R}{3} }だけ下の点で円運動を逸脱することがわかります.その後は放物運動をおこない,もとの円周に到達すると,また円運動をするという運動になると予想されます.

 

この  \displaystyle{ \cos{\theta} = \frac{2}{3}}という点ですが,上の図にも書いているように,球面から球が転がり落ちるときに,その球面から逸脱する(飛び出す)点と一致します.立てる式が,運動方程式と力学的エネルギー保存則の式で同じ形になるからです.

 

棒とひもというだけで,これだけの考え方の違いが出てきます.結果からでもいいので,運動の様子を想像してみてください.

 

おまけ(2014/9/20追記)

そもそも, v_0の条件を求めよ.という時点で与えられている変数は,長さ: R,質量: mだけです.重力が関係するので,重力加速度: gも必須ですね.ここで次元解析をしてみると,

  [ v_0 ] = [ R ]^x [ m ]^y [ g ]^z \ \mathrm{and} \ \begin{cases} [ v_0 ] = [ LT^{-1} ] \\ [ R ] = [ L ] \\ [ m ] = [ M ] \\ [ g ] = [ LT^{-2} ] \end{cases} \Rightarrow \displaystyle{ x = z = \frac{1}{2}, \ y = 0 }

となって, v_0 \sqrt{gR}に比例したものになることが推測できます.

おまけというよりも補足(2014/9/30追記)

たびたびの追記です(苦笑).当然のことながら,円運動を逸脱する点は,球に与えた初速の大きさによって変わります.その位置を与えるパラメータがθ  \thetaなわけですが,θ \thetaが90度よりも大きくなったときはどうなるか?という話です.

式の上でいじってみると,次のようになります.

  \displaystyle{ m \frac{v^2}{R} = T + mg \cos{\theta} }

  \displaystyle{ T = m \frac{v^2}{R} - mg \cos{\theta} \gt 0 }

 \cos{\theta} \lt 0となっているところがポイントです.つまり, \thetaが 90度よりも大きいところでは,円運動から逸脱することはない.ということがわかります.式をいじる前に,図で考えた人は物理的な見方ができている人かもしれません.水平より下の部分で揺れている分には,円運動を逸脱することはありませんよね.式の上からもそのことが示されているということです.
 
2022/02/23追記 鉛直振り子のネタ
ほかにもいくつか鉛直振り子に関するネタがありますので,以下に挙げておきます.