みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

細工だらけのサイクロイド~問題編~

久々の更新で,もう2次試験が目の前まで迫ってしまいました.サイクロイドについて,ちょっと掘り下げてみます.いままでも,最速降下曲線であることとして登場していますが,今回は「振り子」の軌跡として高校数学+高校物理の範囲で扱っていきます.

 

単振動の基本といえば

高校物理では,「ばねの振動」と「単振り子」ですね.いずれにしても,質点にはたらく力が振動の中心からの変位に比例しているときの運動*1となります.ところが,

  • ばねにはたらく力に対するフックの法則は,小さな変位についてしか成り立たないものであり,
  • 単振り子も微小な角についてしか成り立たない(振幅が大きくなると,鉛直振り子になってしまう)

というように,非常に繊細な条件下の話になっています*2.そこで,堂々と振っても平気な振り子を考えることにします.それが,サイクロイド振り子(ホイヘンス振り子)です.

今回は,流れの中でところどころに「問い」を入れていきます.ほぼ微積の範囲で導く内容です.

 

サイクロイドとは?

定義や軌跡の様子は,ウィキペディア先生に聞いてください(苦笑).半径:aの円が転がったときの円周上のある点の軌跡は,媒介変数表示で以下のように表されます.

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問1)この式を導きなさい.

問2) 0 \leqq \theta \leqq \phi(ただし, 0 \leqq \phi \leqq 2 \pi)におけるサイクロイドの弧長を  L(\phi)とする. L(\phi)が以下の式で与えられることを示せ.

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ここまでが,料理でいうところの下ごしらえになります.

 

オマケ:媒介変数表示の落とし穴

θという媒介変数(パラメータ)が登場していますが,このθは転がっている円における角度であり,サイクロイドのどこかの角度を表しているわけではありません.角度を表す文字が現れると,原点と動点を結んだ角度と思い込んでしまう人が多いです.

この思い込みの典型的なパターンが,楕円の媒介変数表示です.楕円は,円を一方向(長軸or短軸方向)に引き延ばしたり押し縮めたりした図形です.ですので,そこで現れる媒介変数は,元の円における角度であって,楕円上の点に対する角度ではありません.

 

 

サイクロイド振り子,見参

まずは,図でサイクロイド振り子をお見せしましょう.

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図A.サイクロイド振り子

 

長さ: 4aのひも(緑色の部分)を用意し,一端は原点Oに固定し,もう片方には質量: mのおもりを取り付けます.グレーの部分は,問1のサイクロイドをx軸に関して折り返したもので,振り子が振れるとき,ひもはこのサイクロイドに沿っていきます.たとえば,上の図では,曲線OQはサイクロイドに沿っており,直線QPは点Qにおける接線方向に伸びて振れていることになります.

問3)点Pの軌跡を媒介変数表示で表せ.そして,その軌跡がグレー部分のサイクロイドの一部と合同であることを示せ.(ヒント:OQP= 4aであることに注意する.軌跡が合同であることは,平行移動していることを示せばよい.)

 

つまり,この振り子の軌跡(点線)は,グレーの部分と同じ形になるということです.この振り子の運動がどうなるかを調べます.そのために,図を単純なものに置き換えます.それが図Bになります.

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図B.サイクロイド曲面上の運動

ひもで吊るされていたものを曲面上の運動と置き換えています.同じような話は,鉛直振り子の時にも登場しています.鉛直振り子の時には立てる式が同じだからと書きましたが,もう少し正確に書けば,同じ軌跡上に「束縛」されている点が共通しているからということになります.このとき,質点にはたらく力を図示すると,図Cのようになっています.

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図C.質点にはたらく力

ここで,点Bにおける接線がx軸の正方向となす角を  \alphaとしています.先に述べたように,サイクロイドの媒介変数とこの  \alphaは別物です.

問4)弧ABの長さを媒介変数を用いて表せ.また, \sin{\alpha}サイクロイドの媒介変数を用いて表すことにより,質点にはたらく力の大きさが弧ABの長さに比例し,向きが変位と逆になることを示せ(単振動であることの証明).

 

運動方程式が与えられれば,振動の周期を求めることができます.そして,どの点から振動をはじめても,周期は同じ.すなわち,最下点(点A)への到達時間は同じということがわかります.

ばねという装置の制約もなく,振幅の制約も受けない振り子が,ここに完成したということになります.逆に,この装置で周期を計測すれば,正しく重力加速度:gを求めることができることになります.

 

問いの解答については,次回記すことにします.

 

*1:このような形の運動方程式で書き下される運動が単振動であるという方が正しいですね

*2:高校物理の範囲では,フックの法則に対する条件は無視していたり,単振り子の振幅は非常に小さなものとしていたりと,都合のいい条件をつけてあります