みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

空き缶 de 作図

5月は更新ができませんでした.書きたいネタは,ちょこちょこと頭に出てくるんですが...
今回は,空き缶(円筒)とコンパスで遊んでみたいと思います.これらがあれば,簡単に試せる内容です.

問題

空き缶に紙を巻きつけ,そこへコンパスで円を描きます.巻きつけている紙を外して平らにしたとき,コンパスの軌跡はどのような図形になっていますか?


問題を挙げておいて,いきなりですが,もとの問題(わたしが出会ったときの問題)は,次のようなものでした.

「楕円を描きたいんだけど,簡単に描けないかな?」
ジュースを飲みほした友人が「こうすれば描けるよ」と言いました.さて,どうやって描いたのでしょうか?

答えを見たときは「なるほど,うまいこと考えるもんだなあ」と感心してたのですが,そのうちに「ほんとに,楕円になるの?」という疑問に変わってきました.そこで,今回はそれを調べることにしたという次第です.

その前に,楕円の性質

焦点とか,離心率とか,そういうものもありますが,ここで触れておく性質は単純に「円を一方向に引き延ばしたものが楕円」ということです.これは楕円の面積: S
  S = \pi ab ( a, \ b:楕円の長径,短径)

と与えられることからも理解できるかと思います.
このことを今回の問題に当てはめてみると,感覚的には(なんとなく)楕円が描けそうな気がします.

では,調べていきましょう

難しいような感じがしますが,図を描いて,求めるべき量をきちんと求めることを考えれば,難易度は高くありません.最初に,「巻きつけた紙」と「広げた紙」のことを考えてみます.コンパスの針を置いた点を中心とした図形になることは,自明ですね.そして,その針を原点として,「x軸(曲面に沿った方向)」と「y軸(針を置いた点から尾根に沿った方向)」という座標をとることができます.

この感覚を持つことができれば,あとは流れ作業的になると思います.

「曲面上の長さ」と「直線距離」を使い分けて

曲面上でコンパスを使ったとき,コンパスの半径は「直線距離」として与えられます.最後には,広げた紙での軌跡(描かれた図形)を考えるので,曲面上の長さも考えなければなりません.この違いを使い分けるところがポイントです.

「x座標」に対して「y座標」がどうなるかを関係式として表せばよいわけで,下図の点Bのx座標とy座標を媒介変数を用いて表す.

ということです.

図のように角度θ \thetaを媒介変数とすると,うまく表すことができます.
まず,「x座標」は弧ACの長さとして与えられます.これは,弧AC = R \thetaとなります.
次に,「y座標」は線分BCの長さをピタゴラスの定理を用いて求めます.*1

あとは,媒介変数: \thetaを消去すれば,

と軌跡の方程式が求まります.どうも,楕円の式とは違うようです.

楕円との違いを探る

式を操って,定量的に違いを見るのも一手ですが,ここではグラフで見ることにします.y軸方向の「短径」はr,x軸方向の「長径」は\displaystyle{ R \ cos^{-1} \left( 1 - \frac{r^2}{2R^2} \right) }となるような楕円と比較します.これは,上で求めた軌跡と短径と長径だけは合わせた楕円になっています.逆三角関数が出てくるので複雑な形になっていますが,ここは単純に比較を見てください.

「おおむね楕円と言ってもいいかなあ?」という結論のようです.先に書いたように,楕円は円を一方向に引き延ばしたものということから考えると
「ゴムのような素材を平面において円を描き,そのまま平面の上で一方向にギュッと引っ張れば,それが楕円になっている」
ということに気づくと思います.空き缶の場合は,面を引き延ばすこと+曲率も与えるということになるので,その分だけ「ひずみ」が出ているということになります.

ここからさらに解析を進めるのであれば,たとえばcosをテイラー展開してみるといった方法も一つだと思います.ひとまず,疑問は解決できたので,めでたしめでたしです.

*1:AC^2余弦定理を用いれば,簡単に求まります