気球と大気の物理について,ちょくちょくと書かせてもらっていますが,実は高校生のころ素朴な疑問を持っていました.
疑問に思っていた「言葉」
次のような説明に対しての疑問でした.
気球が浮かぶ(浮上する)のは,「暖かい空気が軽いからです.」
軽いとはいっても重さはある.すなわち,軽い空気にも下向きの力(重力)がはたらいているわけだから,暖かい空気が上がっていくというよりは,まわりの(冷たい)空気に押し上げてもらってるんじゃないの?と.
浮力とは?
では,浮力とはいったい何なのか?ということを考えてみると,過去のネタに答えがありました.
miwotukusi.hatenablog.jp
静水圧平衡を求める式を変形して,
とすると,左辺で表されている圧力の差が上向きの力となっていることを表しています.さらに,その大きさは「薄い板」の体積分の空気の重さとなっています.つまりは,圧力の差によって薄い板の重さを支えているという様子を表す式になっています.
圧力の差が浮力を生み出す元になっています.
物体の下からの圧力は,空気が下から回り込もうとしている力なわけで,「押し上げている」という感覚もあながち間違いではないのかな?と思ったりもします.
もうちょっと一般論に
上の記述では,「薄い板」という特殊な形状で考えていましたが,もうちょっと一般的な形についてはどうなるかを考えてみます.今度は図のような液体中(以下では「水」と表現します)の物体について考えてみます.
まわりの水は,この物体の表面にしか力を及ぼしません.その力が深さによって変わるので,浮力が与えられるということになります(図a).
ここで,この物体をそのまま水に置き換えてみます(図b).非常にうすーい膜で物体があった場所をくるんだと考えてもいいです.水に置き換えたととしても,先ほど物体の表面であった場所にかかる力は変わりません .そして,「水で水をくるんでいる」状態なので,これはつり合いの状態になっています.つまり,その物体があった場所に(その場所にある水に)はたらいている重力と浮力がつり合っていることになります.
上で浮力は圧力差によってもたらされると書きましたが,その大きさは「その物体があった場所を水に置き換えて,つり合いの状態にしたときにその水が持っている重さ」ということになります.ちょっとまわりくどく書いてますが,深さなどによって水の密度が変わる場合もありうるからです.
水の密度が一様であれば,浮力(buoyancy)の大きさは,
となりますが,たとえば深さによって水の密度が変わるとなると(図c),
となります.は物体の断面積を表しています.
物体が大きくなってくると,このように計算しなければならないケースも出てくると思います.さらには,重力加速度も場所によって変わることを考慮しなければならないかもしれません.
ということは,同じ物体であっても,深さ(高さ)が異なればかかる浮力の大きさも変わってくることになります.
これらのようなことを一言で片づけようとすると,
「浮力の大きさは,その物体が排除した水の重さに等しい.」
という表現になるわけです.合わせて,「排除した水」とは,その場所に(平衡状態として)あるべきだった水が押し出されたものと理解しておけばいいと思います.