みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

円周率の評価~2003年の「あの」問題の類題~

もう 14年も前になるんですね.あまりにも有名すぎる入試問題*1
 円周率が 3.05よりも大きいことを証明せよ.(2003年東大)

のパクリ,いえ類題です.どこかですでに出ているのかもしれませんが,いつもの備忘録的な感じで以下書いていきます.

類題

 円周率が 3.23よりも小さいことを証明せよ.

 3.14-3.05=0.09なので,今回は  3.14+0.09=3.23ということで,この値を採用しました.というのはウソでたまたまです(笑).

いろいろな解法がありますが

やはり,円周率の定義から考えると「円周の長さと比較する」というのが王道かなと.今回は,外から囲い込む→外接する正多角形の長さとの比較になります.

正多角形の周の長さ

まずは,内接および外接する正多角形の一辺の長さを求めます.これは,図のように頂角が  \displaystyle{ \frac{2 \pi}{n} }である二等辺三角形の底辺の長さを求める問題になります.
それを  n倍すれば,周の長さになるので,
 内接する正 n角形の周の長さ: \displaystyle{ I_n = n \cdot \sin{ \frac{\pi}{n} } \times 2r }

 外接する正 n角形の周の長さ: \displaystyle{ O_n = n \cdot \tan{ \frac{\pi}{n} } \times 2r }

 2rは直径の長さとなるので,その前の部分が「円周率」に相当する値を示しています.
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ちなみに,それぞれの式において  n \rightarrow \inftyの極限を考えると,
  \displaystyle{ I_n = \pi \cdot \frac{\sin{ \frac{\pi}{n} }}{\pi / n} \times 2r \rightarrow \pi \times 2r }

  \displaystyle{ O_n = \pi \cdot \frac{\tan{ \frac{\pi}{n} }}{\pi / n} \times 2r = \pi \cdot \frac{1}{\cos \frac{\pi}{n} } \cdot \frac{\sin{ \frac{\pi}{n} }}{\pi / n} \times 2r \rightarrow \pi \times 2r }

と円周率が与えられます.

ただ,「円周率自身の値を評価する」という問題で, \displaystyle{ \sin{\frac{\pi}{n}} }のように  \piが出てくるとなんか本末転倒な感じになるので,以下では
  \displaystyle{ O_n = n \cdot \tan{ \frac{180^\circ}{n} } \times 2r }

と書くことにします.

 nをいくつにするか?

上で確認した極限の式からも, nが大きければ大きくなるほど「精度」は上がります.ただ,手計算ではそれにも限度があります. n=6では「ゆとり世代の解答」になってしまうので, 6よりは大きい整数を選ぶ必要があります.この選び方には,数学的な「センス」を持っているかもポイントだと思います.わたしが 2003年の問題を見たときには,直感的に正 12角形を考えていました.
やはり,素数を含めて奇数を選ぶのは難しいですよね.以下では, n=8の場合と  n=12の場合を考えていきます.*2

1)  n=8のとき

 O_8
  \displaystyle{ O_8 = 8 \cdot \tan{ \frac{180^\circ}{8} } \times 2r }

と表されます. 22.5^\circの値は扱いづらいですね.
ここで, \tanの倍角の公式を用います.覚えていてもいいのですが,ちょっと丁寧に加法定理から導いておきましょう.

 \tanの倍角公式の導出

加法定理の式からスタートします.
  \begin{align} \sin{(\alpha + \beta)} &= \sin{\alpha} \cos{\beta} + \cos{\alpha} \sin{\beta} \\ \cos{(\alpha + \beta)} &= \cos{\alpha} \cos{\beta} - \sin{\alpha} \sin{\beta} \end{align}

 \displaystyle{ \tan{(\alpha + \beta)} = \frac{ \sin{(\alpha + \beta)} }{ \cos{(\alpha + \beta)} } }であるので,加法定理の式の両辺を割り算して,
  \displaystyle{ \tan{(\alpha + \beta)} = \frac{ \sin{\alpha} \cos{\beta} + \cos{\alpha} \sin{\beta} }{ \cos{\alpha} \cos{\beta} - \sin{\alpha} \sin{\beta}  } }

さらに,右辺の分子・分母を  \cos{\alpha} \cos{\beta}で割ってしまうと,
  \displaystyle{ \tan{(\alpha + \beta)} = \frac{ \tan{\alpha} + \tan{\beta} }{ 1 - \tan{\alpha} \tan{\beta} } }

と加法定理の式が導かれました.あとは, \alpha = \beta = \thetaとすれば倍角公式です.
  \displaystyle{ \tan{2 \theta} = \frac{ 2 \tan{\theta} }{ 1 - \tan^2{\theta} } }

正確には半角公式を用いることになりますが, \thetaの置き方を変えるだけなので倍角公式が導ければそれまでです.
うなりの回の中でも,いくつか三角関数の公式の導出を書いているので,そちらも参考にしてもらうといいかと思います.


 2 \theta = 45^\circとおけば,
  \displaystyle{ \tan{45^\circ} = \frac{ 2 \tan{22.5^\circ} }{ 1 - \tan^2{22.5^\circ}  } }

左辺の値は  1であり, \tan{22.5^\circ} = tとすると,上の式は  t2次方程式となります.そして,その解は  t = \sqrt{2} - 1 \ (t > 0)となります.

さて,いま示したいことは, 8 \cdot \tan{22.5^\circ}  = 8 \cdot (\sqrt{2}-1)の値を上から抑えることです.そこで, \sqrt{2} < 1.4143*3としてみると,
  8 \cdot (\sqrt{2}-1) < 3.3144

となります.これでは, 3.23よりも小さいことは示すことができません.
でも,これで何も得られなかったのではなく, \tanの倍角公式(半角公式)を用いれば,より大きな  nに関する値の評価ができることがわかりました.

2)  n=12のとき

 \displaystyle{ \tan{ 30^\circ } = \frac{1}{\sqrt{3}} }ですから,倍角公式を用いて
  \displaystyle{ \frac{1}{\sqrt{3}} = \frac{ 2 \tan{15^\circ} }{ 1 - \tan^2{15^\circ}  } }

 \tan{ 15^\circ } = uとおくと,上と同様にして  u = 2 - \sqrt{3} \ (u > 0)とあらま?ときれいに求められます.今度は, \sqrt{3}の前に負号がついているので, \sqrt{3} > 1.732として,
  12 \cdot (2-\sqrt{3}) < 3.216

と見事  3.23より小さいことが示せました.


内接のとき(東大の問題のとき)は, I_8の値を評価すれば証明ができましたが,今回はもう一歩精度をあげる必要がありました.感覚的ですが,同じ  nに対して外接正多角形の方が内接正多角形よりも円から「離れて」いて,
 (円の面積) - (内接する正 n角形の面積) < (外接する正 n角形の面積) - (円の面積)

だったりするのかな?と思ったりしてます.*4

さらに精度を上げるのに,半角公式を繰り返すとか,3倍角の公式を使うとかも考えられます.しかし,前者では二重根号(さらに,それ以上の重根号),後者では 3次方程式になってしまうということが予想されます.3次方程式と 3次関数のグラフで計算させることもできなくはないようにも思いますけど.

*1:ゆとり世代への反逆」とも言われましたね.

*2: n=10をなぜすっ飛ばしているかも考えてみるといいかもしれません.

*3: 1.4143^2 2より大きいことを示せばよい.

*4:内接するときは正多角形の頂点が円周上になるのに対し,外接するときは正多角形の頂点ではなく,辺の中心になっていることが,この差を生み出しているようにも思います.