みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「重力加速度ってなんですか?」の焼き直し

重力加速度のネタの焼き直しです.こちらは分数の表記が多かったので,だいぶ見やすくなったと思います.
miwotukusi.hatenablog.jp


改めてこう聞かれると,どう答えますか?人によっては「 g」と答えたり,「物体が落ちるときの加速度」や「 9.8 \  \mathrm{m/s^2} 」と答える人もいるでしょう.ここではもうちょっと物理的な意味をとらえておきたいと思います.

重力ってなに?

運動方程式を使えば,加わる力から加速度が求められます.そこで,重力とはなにかをまず考えてみます.地球上の物体と地球が引き合っている力であり,これは万有引力です.ニュートンさんが,リンゴを見て気づいたアレです.
そうすると,物体に働く力というのは式で書くと,
 \displaystyle{ F=G \frac{Mm}{r^2} }
  ( G万有引力定数, M:地球の質量, m:地球上の物体の質量, r:地球の中心と物体との距離)

と表されます.力の方向は,地球の中心に向く方向です.

物理学は「切り捨て御免」

物理学では影響が小さいと判断されると,計算して導出された項でも切り捨てられます.もちろん,切り捨てる基準や理由がきちんとあってのことです.そこでよく用いられる近似式があります.
  (1+\varepsilon)^n1+n \varepsilon (\varepsilonは1に比べて非常に小さい)

以後,この式をちょくちょく使います.
ひとつ,この式を使った例を挙げておきます. \sqrt{2}の近似値を計算してみます.おおよそ 1.4= 7/5ぐらいだということから,次のような変形ができます.
  \begin{align} \sqrt{2} &= \frac{7}{5} \sqrt{ \frac{50}{49} } \\ &= \frac{7}{5} \cdot \left( 1 + \frac{1}{49} \right)^{\frac{1}{2}} \\ &\simeq \frac{7}{5} \cdot \left( 1 + \frac{1}{2} \cdot \frac{1}{49} \right) \\ &\approx 1.414286 \end{align}

小数第4位までは正しい値が得られるようになりました. \varepsilonの絶対値が 1/100以下(2ケタぐらいの誤差)になると精度がだいぶ上がってきます.いまの場合, \varepsilon=1/49なので少し精度は悪いです(苦笑).

万有引力を近似すると・・・

地球の中心との距離: rを以下のように 2つの部分に分けます.
  r = R + h

 Rは地球の半径, hは地表からの距離(高さ)です.すると,万有引力は以下のように近似されます.
  \begin{align} G \frac{Mm}{(R+h)^2} &= G \frac{Mm}{R^2} \cdot \left( 1 + \frac{h}{R} \right)^{-2} \\ &\simeq G \frac{Mm}{R^2} \cdot \left( 1 - \frac{2h}{R} \right) \end{align}

通常は第2項も無視し \displaystyle{ mg=G \frac{Mm}{R^2}} として,\displaystyle{ g=\frac{GM}{R^2}} が与えられます。重力加速度とは、万有引力により得られる加速度の地表付近バージョンなだけですそして近似式を見てもわかるように、 hが大きくなれば万有引力は小さくなります。つまり、高度が高くなると重力加速度も小さくなるわけです。
 gの式に含まれている定数や変数を確認すると,万有引力定数: G,地球の質量: M,地球の半径: Rであり,物体の質量は登場しません.そして, gはその天体の特徴により決まることもわかります.

位置エネルギーも近似してみる

万有引力による位置エネルギーは、分母の次数が 1つ減って
  \displaystyle{ U = -G \frac{Mm}{r} }

となります。これも先と同じように近似してみると、以下のようになります。
  \begin{align} U &= -G \frac{Mm}{R+h} \\ &= -G \frac{Mm}{R} \cdot \left( 1 + \frac{h}{R} \right)^{-1} \\ &\simeq -G \frac{Mm}{R} \cdot \left( 1 - \frac{h}{R} \right) \end{align}

この位置エネルギー無限遠点を基準としています。そこで、地表を位置エネルギーの基準に改めてとると
  \begin{align} U(h) &= U(R+h) - U(R) \\ &= -G \frac{Mm}{R+h} - \left\{ -G \frac{Mm}{R} \right\} \\ &= G \frac{Mm}{R^2} h \end{align}

先に書いた重力加速度の式を代入して、
  U(h) = mgh

と、いつもの位置エネルギーの式が導出されました。つまり、よく使っている「 mgh」という位置エネルギーの式も、地表を基準とし,地表付近( h/R \ll 1のとき)で成り立つ式だということです。地球の半径: Rはほぼ 6400 kmですから、その 1/100である地表 60 km程度までは、この位置エネルギーの式を使っても差支えないということになります。
この式のとおりであれば,地上だけでなく,地下 60 km程度までも,この式を使ってよさそうなものです(±1/100程度なら近似ができる).しかし,そのようにはいかない事情があります.次にそのことについて記しておきます.

万有引力の特徴

万有引力には、次のような特徴があります。
「地球の中心からの距離が  rとなる質点にはたらく万有引力は、地球の中心から半径: r以下にある物質からの影響しか受けない。逆に言うと、地球の中心からの距離が  rよりも大きい部分からの影響は受けない。」

このような説明を付けた上で、問題を出している入試問題もよくあります(例:2013年の京都大)。この性質を使うと、ちょうど単振動をする運動となる(地球エレベーター)からです。
この特徴については大学レベルになると計算で示すことができます。ざっと言えば、自分よりも外側にある各部分からの万有引力自体ははたらいているが、それらの合力は 0になる(相殺される)ということです。上の文章で「引力を受けない」ではなく、「影響を受けない」と書いているのは、そのことからです。
地球は厳密には赤道方向に膨らんだ回転楕円体と言われる形をしています*1。ですので、北極や南極で受ける「万有引力」は、赤道で受けるものよりも小さくなります。*2ただ、「重力は万有引力と遠心力との合力」として得られるので、実際には赤道上での重力がもっとも小さくなるということになります*3


先に書いた地球エレベーターのような問題のときには,地球が舞台になっていることもあって,「 mgを使うのか, GMm/R^2を使うのか」で迷ってしまう人もいるのではないでしょうか? mg mghはあくまでも地表付近だけだということをきちんと理解しておく必要がありますね.また,それぞれの星(月や火星など)にもそれぞれの「重力加速度」があるということもできます.

2018/09/23:追記

今年になって,いろいろと追加のネタを書きました.そのリンクを貼っておきます.

*1:回転楕円体もまた近似的な形ではあります

*2:この部分について、以下のネタに少し補足を書いています。 miwotukusi.hatenablog.jp

*3:実際には地殻の構造や鉱物の分布などによっても重力が変わります