みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

ドップラー効果~その3:応用と発展~

キャッチボールからドップラー効果の話へときましたが,この話をするきっかけと,ちょっと考え方を広げた内容を書いていきます.

まわりには聞こえない音

先日,高速道路を 280 km/hで爆走したというニュースがありました.大阪と奈良を結ぶ道路なので,わたしも走ったことがあるところです.このように飛ばしている車だけに知らせるような仕組みってないのかな?というときにドップラー効果のことを思い出したというのがきっかけです.高校以来,公式の導出とかいろいろ考えたことがなかったので,頭の中の整理もしつつ書いた次第です.

もうちょっと裏話をすると,まさに高速道路を運転しているとき,前を走っていく車を見ながら「あの車にクラクション鳴らしたら,音波と追いかけっこになるなあ」と想像し,「時間間隔は広がるから...」と思考してました.

(2020/06/07修正:下記「装置」の話の文章がわかりずらかったので,内容を少し整理したものに書き換えました)
話を戻して,高速で走っている人に「だけ」警告音のような音が聞こえるようにすることを考えます。人が聞くことのできる音の周波数の上限は一般に 20,000ヘルツだと言われています.ですので,

  • 地上に静止した装置から 20,000ヘルツ以上(周波数: f_{\rm{dev}})の音を発し,
  • 高速で走っている車に乗っている人には 20,000ヘルツ以下(周波数: f_{\rm{car}})の音として聞こえるようにする.
  • 警告音は車を追いかけるように発せられる.つまり,車の移動方向と音の方向は同じとします.(装置の前を車が通り過ぎてから警告音を発するイメージ)

とするには,装置からどのくらいの周波数で発すればよいかを考えます.立てる式は単純なもので,
  \displaystyle{ f_{\rm{car}} = \cfrac{340 - \cfrac{120 \cdot 1000}{3600}}{340} \cdot f_{\rm{dev}} }

となります.ここで,音速は 340 m/s,車の時速は 120 km/hとしています.で,分数のところだけ計算をすれば,約 0.9となるので周波数が 1割減された音が聞こえていることになります*1.逆に装置の立場で考えれば,この条件を満たすために発する音の周波数は 20,000~22,000ヘルツ程度となるわけです.
ただ,これだけの高い周波数の音はそうとう若い人でないと聞こえないので,実現は難しいですね.装置が移動すると,さらに効果は低くなってしまいますし.

先の衝突防止システムの問題へ  v_1=0としてこの話を当てはめると,スピードを計測することができます.いわゆる「ネズミ捕り」です.近づいてくる場合もあるので,それを考えてみるのもいい練習問題になると思います.
実際のネズミ捕りでは,マイクロ波すなわち電磁波を用います*2

2018/12/03追記:衝突防止システムについて

前回の「問5のおまけ」で,
  \displaystyle{ T_0 = \frac{2V(v_1-v_2)}{(V+v_1)(V-v_2)} \ T }

としましたが,音速が意外と大きいのでちょっとざっくりすぎますが,
  \displaystyle{ T_0 \simeq \frac{2(v_1-v_2)}{V} \ T }

と近似することができます.音速が大きければ,衝突検知に要する時間はさらに短くなるわけです.それならば音速→光速すなわち電磁波で検知するようにすれば,もっと短くすることができるはずです.しかし,「電磁波を出す」というのは電波法に従い免許を必要とします.電磁波というエネルギーの大きい波動を出すという点でも,車に搭載するのは無意味(装置自体が高価で大型化してしまうため車両価格が高くなるし,重量が重くなる)だと思います.

光のドップラー効果

光(電磁波)も波なので,光でもドップラー効果を観測することができます.ただ,光速があまりにも高速(!)なので,ふだんの生活では感じることはできません.たとえば,音波の場合だと音速:340m/sと車:120km/hとの速さの比は 10:1となっています.同じように光でもドップラー効果を感じ取れるようにしようと思えば,光速の 1/10ぐらいで移動しないとダメなわけです.ですが,そのとき別の効果が影響してくるのです.
それは,相対論的な効果です.高速で移動すると「時計が遅れる」という事象で,速度: vで移動する物体の時間は,静止している系に対して
  \displaystyle{ \frac{1}{\sqrt{1 - (v/c)^2}} }

になるというものです.音波のように波動として起きているドップラー効果にこの相対論的効果が加わるので,静止している観測者に対して速さ: vで近づいてくる星から出された振動数: \nuの光を考えると,
時間間隔のずれは
  \displaystyle{ \Delta t' = \frac{c-v}{c} \cdot \frac{1}{\sqrt{1-(v/c)^2}} \cdot \Delta t }

となり,波数は変わらないという条件から
  \displaystyle{ \nu' = \frac{\sqrt{1-(v/c)^2}}{1-v/c} \ \nu }

となります.遠ざかるとき( v \rightarrow -vと置き換えればよい)は,分母が  1+v/cに変わります.

光速の 10%で移動しているときを考えると, v/c = 1/10を代入して
  \begin{align} \nu' = \frac{\sqrt{1-(1/10)^2}}{1-1/10} \ \nu &= \frac{10}{9} \cdot \left( 1 - \frac{1}{100} \right)^{\frac{1}{2}} \ \nu \\ &\simeq \frac{10}{9} \cdot \left( 1 - \frac{1}{2} \cdot \frac{1}{100} \right) \ \nu \\ &\fallingdotseq 1.106 \ \nu \end{align}

遠ざかる場合には, \nu' \fallingdotseq 0.905 \ \nuとなります.このときの相対論的効果の影響は 0.5%しかありません.
しかし計算しやすいところで,光速の 60%まで上げてみると,近づく場合は周波数が 2倍,遠ざかる場合には周波数が 1/2倍となります.
このように近づくときはもとの光より高い周波数,つまりもとの光より青っぽくなるので,この現象を青方偏移(blue shift),遠ざかる場合にはもとの光より赤っぽくなるので赤方偏移(red shift)と呼びます.
音のドップラー効果では音源が真横を通り過ぎる(=移動方向が音源~観測者の方向と直交している)ときには,周波数の変化は起きません.しかし,光のドップラー効果の場合は上で述べたように「時計が遅れる」という現象があるために,真横であっても
  \displaystyle{ \nu' = \sqrt{1-(v/c)^2} \ \nu}

という効果が現れます.これを「横ドップラー効果*3と呼んだりします.
時間間隔の変化によりドップラー効果が起こるということを理解していれば,この説明(時間が遅れる根本的な話は抜きにしても)は難しくはないのではと思います.

上の裏話の続きですが,今回ドップラー効果の説明をするにあたり,「時間間隔」に着目したのは,この相対論的効果のことが頭をよぎったのもあってのことでした.


といつもながらのダラダラですが,ドップラー効果の話を書いてみました.困ったときは「距離」とか「波数」に注目してみるといいかと思います.

*1:式を見ればわかるとおり,この割合はおもに車の速さに依存します.

*2:それ以外の方式もあるので,すべてのネズミ捕りがこの方式ではない

*3:対して,青方偏移赤方偏移は「縦ドップラー効果」と呼ばれる