みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2019年京大物理第2問」のメモ

磁場(磁束密度)が位置や時間によって変化する装置が問題になっています.後半の設定は,ベータトロンと呼ばれる加速器の仕組みになっています.
この問題も計算量が多いですね.その計算に積分の内容が入ってきて,これがまたボリューム感増し増しな感じにしています.積分自体は計算しなくてもいいようにはしてくれていますが,その説明を読むだけでも時間が取られてしまう感じです.こういうときって,問題の前提に従った回答とすべきか(与えられた式を用いた変形に徹するのか),計算さえ合っていれば無視していいのか,判断に迷いそうな気もします.

(1)位置によって磁場が異なる装置内における導体棒の運動

まあまあ,これもややこしいですね.

磁束密度の大きさ

横軸を  r,縦軸を  Bとして,2点  (0, B_0),\ (R, 0)を通る直線の方程式を考えるイメージでよいかと思います.傾きの大きさが  1/Rになるとかは慣れてくると直感的にわかるようになるかもしれません.
  \displaystyle{ B(r) = \left( 1 - \frac{r}{R} \right) B_0 }

導体棒中の電子に働くローレンツ

等速円運動としては速さ: v(r) = r \omegaで運動しているので,
  \displaystyle{ F(r) = e \, v(r) \, B(r) = r \left( 1 - \frac{r}{R} \right) e B_0 \omega }

この力と電場による力: e \, E(r)がつり合っているので,
  \displaystyle{ E(r) = \frac{F(r)}{e} = r \left( 1 - \frac{r}{R} \right) B_0 \omega }

導体棒の両端間の電位差

上に凸な放物線が囲む面積だ~と言ってますが,要は上の電場を端から端まで積み上げたものが電位差だということです.もう敢えて積分で書きます(笑).
  \begin{align} \int_0^R E(r) \, dr &= \frac{B_0 \omega}{R} \int_0^R r(R-r) \, dr \\ &= \frac{B_0 \omega}{R} \cdot \frac{R^3}{6} \\ &= \frac{B_0 \omega R^2}{6} \end{align}
 

(2)半径  Rの円を貫く磁束

これは何も難しくないです.
  \displaystyle{ \Delta \Phi = B(r) \, \Delta S = \left( 1 - \frac{r}{R} \right) B_0 \Delta S }
 

問1:半径  aの円内を貫く磁束

計算のもととなる  \Phi_Rの式と問われている  \Phi_aの式については,バウムクーヘンの日に書いておきました.
3月4日はバウムクーヘンの日なので,積分します(?) - 理系男子の独り善がり

少し補足しておくと,厳密な計算という点では  \Delta Sをどのように表すかという話になります.答えを書いてしまうと, \Delta S = r \, dr \, d\thetaという形に表すことができ,これを  0 \leqq \theta \leqq 2 \pi, \ 0 \leqq r \leqq R \, \mathrm{or} \,  aの範囲で積分(重積分といいます)することになります.
 

(3)時間変化をする磁場内における電子の運動(ベータトロン)

 B_0 = btと置かれているので,(2)で求めた  \Phi_aについても,
  \displaystyle{ \Phi_a(t) = \pi b a^2 \left( 1 - \frac{2a}{3R} \right) t }

と与えられます.この磁束の時間変化が誘導起電力: Vとなるので,
  \displaystyle{ V = \frac{\Delta \Phi_a(t)}{\Delta t} = \pi b a^2 \left( 1 - \frac{2a}{3R} \right) }

この次がポイントで,この誘導起電力が円周に沿って生じているので,電場: E
  \displaystyle{ E = \frac{V}{2 \pi a} = \frac{ba}{2} \left( 1 - \frac{2a}{3R} \right) }

となります.これができれば,接線方向の運動方程式を立てて,その方向の加速度: \alpha
  \begin{align} m \alpha &= e E \\ \alpha &= \frac{e}{m} E = \frac{e b a}{2m} \left( 1 - \frac{2a}{3R} \right) \end{align}

加速度の大きさが一定となる運動なので,電子の速さは  v(t) = \alpha tとして与えられます.

問2:半径を一定に保つための条件

半径を一定に保ったまま円運動をする条件なので,ローレンツ力と遠心力のつり合いを考えて,
  \displaystyle{ m \frac{{v(t)}^2}{a} = e \, v(t) \, B(a,t) }

この式の  v(t)が上で与えられているものだとして,一次方程式を解くだけです.

問2のオマケ: \displaystyle{ a = \frac{3}{4}R } ではないときのふるまい

中心から  a'の位置が, \displaystyle{ \frac{a'}{R} = \frac{3}{4} \pm \delta }と与えられるとして考えてみます.
上で求めた加速度にあたるものは,
  \displaystyle{ \alpha' = \frac{eba'}{2m} \left( 1 - \frac{2}{3} \cdot \frac{a'}{R} \right) }

となります.
ふるまいを調べたいので,遠心力とローレンツ力の大小関係を調べてみます.
  \begin{align} m \frac{(\alpha' t)^2}{a'} - e \, (\alpha' t) \, \left( 1 - \frac{a'}{R} \right) bt &= \alpha' t^2 eb \left( -\frac{1}{2} + \frac{2}{3} \cdot \frac{a'}{R} \right) \\ &= \alpha' t^2 eb \left( \pm \frac{2}{3} \delta \right) \end{align}

 \displaystyle{ a' > \frac{3}{4}R } のときは遠心力の方がが大きく, \displaystyle{ a' < \frac{3}{4}R } のときは遠心力の方が小さくなることがわかります.つまり, \displaystyle{ r = \frac{3}{4}R }からは遠ざかるような動きになることがわかります.最後の結果が  \mpであれば,「すべての電子が  \displaystyle{ r = \frac{3}{4}R }に集まる」という面白い結果だったのですが,そうはならないみたいです(笑).


ひとつひとつは言われれば,「あ,そうか」と思うような内容がポロポロと出てくるのですが,いざそれをスラスラと出せるかというと難しいですね.でも,今年の 3問の中では一番素直な問題だったかもしれません.個人的には,次の第3問が一番面白い問題だったのでは?と思っています.