みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2020年京大物理第1問」のメモ

だいぶ時間が経ってしまいましたが,今年も京大さん物理のメモを書いていきます.メモというよりは,問題文で書かれていることの意味なんかを自分なりに書いていく感じです.昨年に引き続き「難」「やや難」祭りです.とにかく問題が長く場面転換が多いので,引き継ぐところと切り替えるところをうまくやらないと時間内に解ききれないようなセットですね.

では,第1問の「ばねとひも」の問題から.

問題の構成

こんなことから書くのもちょっと変なんですが,全体の流れを書いておくと,こんな感じです.
(1)は,天井から糸→ばねの順でつるされた小球の運動を扱い,

  • 前半:下の小球(小球2)が上の小球(小球1)にぶつからないように,ばねを引き下げたときの運動の様子
  • 後半:小球2が小球1にぶつかるように,ばねを引き下げたときの運動の様子

ちなみに,この糸とばねのつなぎ方は今年のセンター物理第4問Bと同じですね.

(2)は,天井からばね→糸の順でつるされ,下の小球を手で支えた状態からはじまる小球の運動を扱い,

  • 前半:下の小球(小球2)が上の小球(小球1)にぶつからないように,小球2を投げ上げたときの運動の様子
  • 後半:小球2が小球1にぶつかるように,小球2を投げ上げたときの運動の様子

操作をしたその後の運動のイメージとそれを式に表現できるかがポイントですね.

(1)の前半

2020年京大物理第1問 図1

糸がたるまない限りは小球2が単独で運動しているだけなので,シンプルな単振動を考えるだけです.
糸がたるむのは小球1がばねから上向きに押されているときになるので,そのときのばねの縮みを  \Delta X',糸の張力を  N*1とすると,つり合いの式は,
  mg + k \Delta X' - N = 0

この  Nが負となるのは, \displaystyle{ \Delta X' < - \frac{mg}{k} }のときとなります.

[エ]の解答だけを求めるのであれば,次のように考えることもできます.
「糸には 2つの小球を合わせた重力: 2mgが張力としてかかっており,これを打ち消すだけのばねの力がはたらけば糸はたるむ.よって,つり合いの位置から  kd = 2mgとなるだけばねを引けばよい.」

この考え方は,ばねでつながれたものを床の上に置いて,床から飛び上がらせる場合(垂直抗力がゼロ)でも同じです.これは「ビックリ箱」みたいなケースになります.

(1)の後半

ここについては,たとえば 2020年大阪市大前期物理第1問が参考になると思います.こちらの問題は水平面上の運動なので,重力のことを無視してシンプルに考えることができます.
2つの小球は,ばねを介して互いに力を及ぼしあっており,これは「内力」になっています.なので,この後の運動は重心は鉛直投げ上げ運動をし,2つの小球はその重心を中心とした単振動をおこなうことになります.

[オ]:重心の速さ

問題文で重心の位置が  \displaystyle{ \frac{x_1 + x_2}{2} }と与えられているので,重心の速度は  \displaystyle{ \frac{d}{dt} \left( \frac{x_1 + x_2}{2} \right) = \frac{v_1 + v_2}{2}}と与えることができます.糸がたるみ始めたときは  v_1 = 0ですから,小球2の速さ  v_2を求めて半分にすればよいわけです.
 v_2は,[ウ]を求めたときの小球2の位置における速さになるので,次の力学的エネルギー保存則より求められます.
 (小球2の速さ: v_2における運動エネルギー)+(ばねが  \Delta X'だけ縮んだときの弾性エネルギー)=(ばねが  dだけ縮められたときの弾性エネルギー)

[カ]:単振動の周期

2つの小球の運動方程式をそれぞれ書き下してみると,ばねの伸びは  x = x_2 - x_1の位置から自然長: \ellを引いたものとなるので,
 小球1: m a_1 = mg + k(x - \ell)
 小球2: m a_1 = mg - k(x - \ell)

辺々差し引くと,
  m(a_2 - a_1) = -2k (x - \ell)

となります.さきほどと同様に相対加速度は  \displaystyle{ \frac{d^2}{dt^2} \left( x_2 - x_1 \right) = a_2 - a_1}と与えられるので,この相対運動は,ばね定数: 2kの単振動をおこなうことになります.

[キ]:相対速度の最大値

『小球1の速度が最小値をとる瞬間』は相対運動において小球1が鉛直上向きに速さが最大となるときであり,このとき小球2は鉛直下向きに同じ速さで運動しています.また相対位置の式から, \displaystyle{ \frac{d}{dt} \left( x_2 - x_1 \right) = v_2 - v_1}として与えることもできます.ですので,上にも書いたように相対速度の最大値が[オ]の答えの何倍になるかという問題になります.

と細かく書きましたが,答えを出すのはそんなに厳密に考えなくても求まります.
『相対位置  xは重力の影響を受けずにばねの力で単振動をおこない』とあり,この運動がはじまったときは  v_1 = 0 v_2[オ]のときに求めたものになっています.このときの相対速度は  -v_2であり,これが相対速度の最小値になります.これが最小値であれば,最大値は  v_2であり,これは[オ]の答えの 2倍になっています.

相対「速度」を問われているので,「向き」も含まれていることには注意しておくべきですね.

(2)の前半

2020年京大物理第1問 図3

手で支えて,こんなにピターっと静止させられるか!というツッコミもあるかもしれませんが,座標の原点がばねの自然長の位置であることに注意して解いていきます.

[ケ][コ]:小球2がもとの位置に戻ってきたときに起きること

『小球2が小球1に衝突せず落下に転じる』ので,糸のたるみがなくなるまで(小球2がもとの位置に戻ってくるまで)小球1は動きません.
そして,この問題の一番の勘所が訪れます.
 『たるみがなくなる前後で小球1,2の力学的エネルギーの和は保存されるものとする』

そのまま式を立てて使えばいいのですが,ちょっと工夫をすると「あ,そういうこと」という事柄が見えてきます.
工夫のために,もう一つの事実を見つけ出します.
糸のたるみがなくなったとき(=糸がピン!と張ったとき),2つの小球には糸を介した内力しかはたらきません(外力がはたらいていない).つまり,このとき運動量保存則が成り立ちます.

運動量保存則と力学的エネルギー保存則が成り立つと,その衝突は弾性衝突になります.これは簡単に示すことができ,その内容は
反発係数 - Wikipediaに記されています.衝突が弾性衝突であれば,力学的エネルギーが保存するというのはよくでてくる話ですが,その逆も成り立つというのが一つポイントになっています.

2つの小球の質量は同じなので,糸を介した衝突のときには,速度が入れ替わります.小球1は速度: vで単振動を始めるので,その振幅を  Aとすれば, \displaystyle{ \frac{1}{2} k A^2 = \frac{1}{2} m v^2 }となります.

(2)の後半

投げ上げた小球2が小球1に衝突する場合です.

[サ]:衝突後の運動

上でも述べているように,2つの小球の質量が同じで弾性衝突をおこなうと速度が入れ替わります.ビリヤード球の衝突のイメージですね.ここは[サ]の解答も大事なのですが,衝突直後の小球2の速さは 0となり,その後自由落下をすることも大事なところです.

その後,時刻: Tに糸のたるみがなくなり,しばらくの間糸のたるみがないまま運動が続く条件というものを考えます.

[シ]:時刻: Tの直後の相対速度

小球1が上にあるので,「糸がたるまない」には,相対速度が 0以上でなければなりません.
問題文を見ると,

  • 『たるみがなくなる前後で小球1,2の力学的エネルギーの和は保存される』
  • 『時刻  T直後に糸がたるまないため』

と書かれています.一つ目の文章は先に見ていますよね.これは「糸を介した衝突は弾性衝突ですよ」と言い換えられ,さらに「時刻  Tの直後には 2つの小球の速度は入れ替わりますよ」と言い換えられます.
もし,時刻: Tの直前の相対速度が正,すなわち  v_2 > v_1であると,直後には  v_2 < v_1と入れ替わり糸がたるんでしまいます.というわけで,直前の相対速度は 0でなければなりません.

[ス]:小球1の位置

何か禅問答のような文章が続きます.意味がよくわらかなくても,

  1.  F \geqq 0でなければならず,
  2.  F > 0ではない.

なので, F = 0である.ということは導けると思います.少していねいに見ておくと,

  1. 小球2は自由落下をしており,かつ時刻: Tの直前の相対速度が 0であるためには,小球1も鉛直下向きの運動をしていなければならず,ばねの力ははたらいていない or 鉛直下向きにはたらいていなければなりません.
  2. 小球1にはたらく力は,糸の張力を  Nとして  mg + F + Nと表されます. F > 0であると,この力は正となり,小球1は重力加速度よりも大きな加速度で加速されることになり,この直後糸がたるんでしまいます(小球2は自由落下運動なので, v_2 > v_1となってしまう).

ということで, F = 0でなければならないと結論付けられます.そして,ばねの力が 0になるのは,自然長の位置すなわち原点ということになります.

[セ]:糸がたるまないための速さ: vの条件

『2つの小球の力学的エネルギーが,衝突後から時刻  Tの間はそれぞれ保存する』と書かれているので,時刻: Tにおける小球の速さを  uとでも置けば,それぞれの力学的エネルギー保存則は以下のように書き下されます.

  • 小球1: \displaystyle{ \frac{1}{2} m u^2 + \frac{1}{2} k \left( \frac{mg}{k} \right)^2 = \frac{1}{2} m {v'}^2 }
  • 小球2: \displaystyle{ \frac{1}{2} m u^2 = mg \left( L - \frac{mg}{k} \right) }

あとは, uを消去して整理するだけです.

問1:2つの小球の速度を表すグラフ

ここまで無事にたどり着ければ,このグラフを描くことはそんなに難しくないかもしれません.

  • 小球1:時刻: T'までは静止,それ以降は「単振動」をしている.
  • 小球2:時刻: T'までは鉛直投げ上げ,それ以降は自由落下をする.

問題では『示されている値以外に,速度や時間の値を書き加える必要はない』と,あまり細かいことは気にしなくていいように書かれています.が,小球2の加速度はつねに  gで一定であることがわかっていますので,小球2の運動を表す直線の傾きはつねに一定であることは適切に表しておいた方がよいかもしれません.
ということを意識すると,下図のようになります.

2020年京大物理第1問 図4

これは「v-tグラフ」というやつですから,囲む面積が変位になるわけです.

だいぶ疲れる問題ですね.ほかの問題に移っても「あそこ,大丈夫かな?」と引きづってしまうような問題だと思います.

*1:あとの問題(2)で時刻として  Tが登場するので混同しないように文字を与えました.