京大さん第2問,電気回路の問題です.全体を通して,キルヒホッフの法則を使います.単純な LC回路から出発し,直流電源,ダイオード,抵抗を付け加えながら,拡張していく形で問題は展開されます.
キルヒホッフの法則については,昨年のセンター試験の補足で書いてました.
(1):LC回路(図1)
電気振動を扱い,その振動の様子を時系列で追っていく内容になっています.
[イ]は,キルヒホッフの電圧則(第二法則)を使います.
[ロ]は,問題文に出てくる 2つの関係式を組み合わせるだけです.ですが,流れ込んだ(流れ出した)電気量は,次の 2とおりで表されることがあることをおさえておかなければなりません.
[ハ]は,『スイッチを閉じた後,電流 が負方向に流れはじめるので,電圧は初期値 から減少し始める』という文章から,のとき,は上記値を最大値として減少し始めるとなり,ちょうど と の関係になっていることから位相の遅れがわかります.
[二]については,「スイッチを閉じる前にコンデンサーに蓄えられていたエネルギー」が「コイルに蓄えられているエネルギー」にすべて変わるときに電流が最大となるので,より与えられます.
問1:エネルギー保存則
ここでは,の任意の時刻:におけるエネルギー保存則の式を考えてみます.(解答として問われている電圧は,のときについて)
『コイルに蓄えられていた初期のエネルギー』
これは素直に,
と表されます.
(3):図4
今度は,電源から見て抵抗がダイオードの向こう側に移動しています.そして,スイッチの開閉を繰り返すという操作をおこないます.
変化する量については,先の問題と同様に以下のようにおいています.
- スイッチを閉じたときの微小変化は,添字に 1
- スイッチを開いたときの微小変化は,添字に 2
「定常状態」へ
このスイッチ開閉操作を繰り返していき,定常状態になったときを考えます.物理で定常状態というと「時間的に変化しない」という意味で使われることが多いですが、ここでは「同じ状態が繰り返される」という意味で使われています.電流も電圧も同じ状態に戻ってくるので,スイッチを開いたときと閉じたときのそれぞれの微小変化はプラスマイナスゼロということで,
という式が与えられます.
問2
先に導出している([リ][ヌ])と([ル][ヲ])の式から,微小変化を与え,上に書いた条件式と を放り込みます.
- [リ]の式 ⇒
- [ヌ]の式 ⇒
- [ル]の式 ⇒
- [ヲ]の式 ⇒
と として,を導きます.
そして,のときについては,上から となるので,そこへもろもろの値を代入するだけです.
問3
問題文に『図4の回路は電源の電圧 よりも大きな電圧 を作り出すことができる』と書かれています.その比率は によって与えられます.ちょっと自信ないですが,ここにツッコミを入れておくと,
2022/02/26 以下の内容を修正しました.
- そもそも とはスイッチ開閉の時間比であり,その値が大きいほど作り出される電圧は大きくなります*2.
- スイッチを閉じているときは,電源という「ポンプ」から一度コイルにエネルギーを貯めるフェーズになっています.
- スイッチを開いているときは,コイルに貯められたエネルギーを図4右側の回路にエネルギーを送り込むフェーズになっています.ここには,ダイオードという「弁」が備えられているので,このエネルギーが漏れる(逆流するという言い方は微妙ですが,イメージ的には)ことは防がれています.
- では,「なんでスイッチを開閉させる必要があるの?ずっと開きっぱなしでもいいんじゃないの?」という話が出てくるかもしれません.上で書いているように,エネルギーを貯めるフェーズと送り込むフェーズを切り替えていることになります.電源以上のエネルギーを送り込むために,コイルを使っていると考えるのがわかりやすいと思います.
この仕組みは「昇圧コンバーター(昇圧チョッパー)」と呼ばれています*3.
で,ここで問われていることは難しくありません.
- 図5の回路での消費電力は,
- 図4の回路での消費電力は,
となり,倍となります.
実は,ダイオードが結構重要な役割をしているという問題だと思います.
『電源から供給されるエネルギー』のところが一つのポイントかなあと.あとは,微小量など何個も出てくる物理量をきちんと整理できれば,(時間的なところを無視して)まだ難しくはないのかな?という感じだと思います.
追記(2020/05/05)
いまさらな話ですが,今年の阪大物理第2問が,この問題のサブセットみたいな内容になっていました.