みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

ラグランジュポイントを求めて〜その2〜

L4とL5を求めていきます.L5はL4と線対称の位置関係にあるだけで,計算内容は同じになります.前回とはまた違ったアプローチの仕方をします.

L4を求める.

まず,図を記しておきます.

L4を求める.
力のはたらき方

図を見ながら考えてみると,

  1. 地球の公転軌道の外側へ向かってはたらく力は遠心力ですが,これは重心と L4を結んだ直線に沿ってはたらくことになります.
  2. となると,地球の公転軌道の内側へ向かってはたらく力(合力)は,この直線に沿ったものでなければなりません.

2つ目のポイントで「合力」と記しているのは,当然のことながら「太陽との間にはたらく重力」と「地球との間にはたらく重力」の合力となります.それらの大きさを表してみると,

  • 太陽との間にはたらく重力の大きさ: \displaystyle{ F_4 = G \frac{M \mu}{{R_S}^2} }
  • 地球との間にはたらく重力の大きさ: \displaystyle{ f_4 = G \frac{m \mu}{{R_E}^2} }

 R_S, \ R_Eは.それぞれ太陽との距離,地球との距離を表しています.
そして,この  R_S, \ R_Eが最終的に  Rとなることがわかればいいわけです*1

ここからはベクトルを使います.

共通テストレベルの知識があれば,理解できるかと...思います*2
太陽がある点を S,地球がある点を E,L4となる点を一度 J,太陽と地球の重心を Gと表しておきます.

点Jにはたらいている重力のそれぞれは直線JS,直線JEに沿ってはたらき,その大きさはそれぞれ  F_4, f_4で与えられるので,合力は次のように表されます.
  \displaystyle{ \overrightarrow{F_4} + \overrightarrow{f_4} = F_4 \cdot \frac{\overrightarrow{\mathrm{JS}}}{\mathrm{JS}} + f_4 \cdot \frac{\overrightarrow{\mathrm{JE}}}{\mathrm{JE}} = G \frac{M \mu}{{R_S}^3} \cdot \overrightarrow{\mathrm{JS}} + G \frac{m \mu}{{R_E}^3} \cdot \overrightarrow{\mathrm{JE}} \ \ \ \cdots \mathrm{(1)} }

たとえば, \displaystyle{ \frac{\overrightarrow{\mathrm{JS}}}{\mathrm{JS}}  = \frac{\overrightarrow{\mathrm{JS}}}{| \overrightarrow{\mathrm{JS}} |} }は直線JSに沿った長さ 1のベクトル(単位ベクトル)を表していることに注意してください.また, \displaystyle{ \mathrm{JS} = R_S, \ \mathrm{JE} = R_E }です.

遠心力とのつり合い

一見ややこしそうに見えますが,あっさりと解決します.

点Gは,線分SEを  \displaystyle{ m : M }に内分している点となるので,以下のように表されます.
  \begin{align} \overrightarrow{\mathrm{JG}} &= \overrightarrow{\mathrm{JS}} + \frac{m}{M + m} \cdot \overrightarrow{\mathrm{SE}} \\ &= \frac{M}{M + m} \cdot \overrightarrow{\mathrm{JS}} + \frac{m}{M + m} \cdot \overrightarrow{\mathrm{JE}} \ \ \ \cdots \mathrm{(2)} \end{align}

また,遠心力の大きさ: T_4は,重心との距離に注意すれば以下のように表されます.
  \displaystyle{ T_4 = \mu \omega^2 \cdot \mathrm{JG} }

先ほどと同様に,これに直線JGの単位ベクトルをつければ(向きに気をつけて),
  \displaystyle{ \overrightarrow{T_4} = - T_4 \cdot \frac{\overrightarrow{\mathrm{JG}}}{\mathrm{JG}} = - \mu \omega^2 \cdot \cancel{\mathrm{JG}} \cdot \frac{\overrightarrow{\mathrm{JG}}}{\cancel{\mathrm{JG}}} = - \mu \omega^2 \cdot \overrightarrow{\mathrm{JG}} \ \ \ \cdots \mathrm{(3)}}

(1)〜(3)式を組み合わせて,力のつり合いの式を立てれば,
  \begin{align} \overrightarrow{F_4} + \overrightarrow{f_4} &= - \overrightarrow{T_4} \\ G \frac{M \mu}{{R_S}^3} \cdot \overrightarrow{\mathrm{JS}} + G \frac{m \mu}{{R_E}^3} \cdot \overrightarrow{\mathrm{JE}} &= \mu \frac{G(M + m)}{R^3} \left( \frac{M}{M + m} \cdot \overrightarrow{\mathrm{JS}} + \frac{m}{M + m} \cdot \overrightarrow{\mathrm{JE}} \right) \\ \frac{M}{{R_S}^3} \cdot \overrightarrow{\mathrm{JS}} + \frac{m}{{R_E}^3} \cdot \overrightarrow{\mathrm{JE}} &= \frac{M}{R^3} \cdot \overrightarrow{\mathrm{JS}} + \frac{m}{R^3} \cdot \overrightarrow{\mathrm{JE}} \ \ \ \cdots \mathrm{(4)} \end{align}

1次独立性を用いて係数比較をすると, R_S = R_E = Rの結果が得られます.

冒頭で,「前回とはまた違ったアプローチの仕方をします.」と書いていましたが,実は(4)式を立てるところまでは L1〜L3に対しても成り立つ式になっています.ただし,このときは  \overrightarrow{\mathrm{JS}}, \ \overrightarrow{\mathrm{JE}}が 1次独立ではない(平行である)ので,係数比較ではなく,具体的な大きさを含めた式(係数がゼロとなる式)を立てなければならないことになります.最初から上の議論をしておいて,(i)平行になるときと (ii)平行にならないときで場合分けをして求めるようにすることもできます*3


結果論みたいな言い方になりますが,重心の位置に関する比  m : Mと重力の式に現れる太陽と地球の質量比  M : mを見比べてると,初等幾何のレベルで  R_S = R_E = Rは導けそうな気もします.
というわけで,高校物理・数学の範囲でラグランジュポイントを考えてみました.L2を求める問題はどっかで出てきてもおかしくないかなあ?なんて思ったりしてます.最近,3乗根の計算ぐらいは平気で出してきますしね...

2022/02/07追記

同志社大学でさっそく出たようですね.まさか,L4について論じてくるとは思いませんでした(苦笑).
(ク)(ケ)を求めるところは,計算というよりも作図です.正三角形  \mathrm{ABL_4(ABQ)}について,辺ABの中点をMとでもおいて, \displaystyle{ \mathrm{L_4M} = \frac{\sqrt{3}}{2}R, \  \mathrm{CM} = \frac{1}{2}R - \frac{M_B}{M_A+M_B}R=\frac{M_A - M_B}{2(M_A + M_B)}R }を用いて,線分 \mathrm{L_4C}の長さとその線分が直線ABとなす角について求める感じです.上で述べているように,万有引力の合力が遠心力とつり合っている(または,万有引力の合力が向心力となっている)ことから出てくる作図です.
(ク)の別解として,あくまでも合力の大きさとして計算する方法もあります.上の内容で言うと,(1)式の右辺の大きさを求めることと同じです.2つのベクトルのなす角が 60°であることを用いれば,計算できます.答えの√の中身をみると,この計算で出てくる様子が見えてくるかと思います.

*1:ちなみに,合力の向きが重心を向くという条件だけで, R_S = R_Eであることを導くことができます.

*2:参考物件です. miwotukusi.hatenablog.jp

*3:ちょっと雑すぎた評価なので,取り消し線を入れておきます.2022/02/07追記:じゃあ(i)の場合には,他にもこのような点が存在するのでは?という話になりそうですが, \overrightarrow{F_i} + \overrightarrow{f_i} = - \overrightarrow{T_i} の式を考えるとき,太陽や地球から遠くなると,左辺の大きさは小さくなり,逆に右辺の大きさは大きくなります.ですので,少なくともこれらよりも離れた場所が解になることはないことがわかります.