みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2023年京大物理第1問」のメモ

現実逃避がてらに,今年もまずは京大さんのメモを書いていきます.

その前に,今年の大学入試物理問題というと,やはり東大第2問が注目だったのかなと思っています.わたしもツイッターで「ピタゴラ装置みたい」と書いていましたが,あそこまで組合せた装置が出てくると,以下のようなわずらわしい話が顔を出してきます.

  • 誤差の蓄積の考慮が不可欠になる.実際、誤差に関する問いがありました.
  • 「フィードバック」による効果・影響を無視できなくなる.簡単に言うと,ある装置からの出力がまたその装置の入力に影響を与えるという出力と入力が循環するようなことを言います.なので,入試問題のような話には向かないというのがあると思います.

東大物理は実は第3問の方が気になっているので,また書けたらなあとは思っています.

では,京大さん第1問に話を戻しましょう.第1問は万有引力の問題です.電気力のクーロンの法則と並んで「逆2乗の法則」と呼ばれるものですが,後半ではそれを崩した内容としています.過去の阪大さんなんかでも,こんな問題があったかと思います.

(1) 有効ポテンシャルと質点の運動

[ア]〜[ウ] 楕円軌道の運動方向を中心となる天体との動径方向( \overrightarrow{u}の方向)とそれに垂直な方向( \overrightarrow{v}の方向)に分けて考えています.それと面積速度一定の法則を組み合わせて,
  \displaystyle{ E = \underset{\textbf{[ ア ]}}{ \underline{ \frac{1}{2} m \left( u^2 + v^2 \right) } } \, \underset{\textbf{[ イ ]}}{ \underline{ - G \frac{Mm}{r} } }= \frac{1}{2} m u^2 +\underset{\textbf{[ ウ ]} \ V(r) }{ \underline{ \frac{2m S^2}{r^2} - G \frac{Mm}{r} } } }

そして,この  V(r)のことを有効ポテンシャルと呼びます.昨年の九大物理でもこれを問う問題がありましたし,昨年書いた同志社大物理の追記にも顔を出しています*1.この  V(r)のグラフを描き,その「谷底」で球が転がる様子を見ると,その質点の運動が閉じた軌道を取るのか,どこかへ飛び去ってしまうのかということを判定することができます*2

で、その様子を見るためのグラフを描いてくださいというのが問1です.

問1:有効ポテンシャルのグラフ

極値の点とか最小値,変曲点などの情報はいらないよ.」と言ってくれているので,お言葉に甘えましょう.とはいえ,次のようなことぐらいは導いていないといけません.

  •  V(r) = 0となる  rが存在する.
  •  r以外の定数をまとめて, \displaystyle{ V(r) = \frac{C}{r^2} - \frac{D}{r} }のように書くとき, \displaystyle{ V(r) = \begin{cases} \cfrac{C}{r^2} > 0 \ \ (r \rightarrow 0) \\  -\cfrac{D}{r} < 0 \ \ (r \rightarrow \infty) \end{cases} }

これだけの情報があれば,グラフの概形を描くことはできると思います*3

(2) 宇宙船の円軌道

円軌道を周回している宇宙船にイタズラ(外力)を加える問題になります.そして,ここからいつもの「近似大会」がはじまります.[エ]は略します.

[オ] ケプラーの第2法則こと面積速度一定の法則から
  \begin{align} \frac{1}{2} (v + \Delta v)(R - \Delta R) - \frac{1}{2} v R &= 0 \\ \frac{1}{2} (\cancel{vR} + R \Delta v - v \Delta R - \xcancel{\Delta v \Delta R}) - \cancel{\frac{1}{2} v R} &= 0 \\ \Delta v &= \frac{\Delta R}{R} v \end{align}

[カ] 次に,天体に近づいたことで変わる万有引力の変化を調べます.「変化前の式でくくる」ことを意識すればいいです*4
  \begin{align} G \frac{Mm}{(R - \Delta R)^2} - G \frac{Mm}{R^2} &= G \frac{Mm}{R^2} \left\{ \left( 1 - \frac{\Delta R}{R} \right)^{-2} - 1 \right\} \\ &= 2 \cdot \frac{GMm}{R^3} \times \Delta R \end{align}

[キ] また同様にして,遠心力の変化についても調べますが,最後に(オ)の結果を代入します.
  \begin{align}  m \frac{(v + \Delta v)^2}{R - \Delta R} - m \frac{v^2}{R} &= m \frac{v^2}{R} \left\{ \left( 1+ \frac{\Delta v}{v} \right)^2 \left( 1 - \frac{\Delta R}{R} \right)^{-1} - 1 \right\} \\ &= m \frac{v^2}{R} \left( \cancel{1} + 2 \cdot \frac{\Delta v}{v} + \frac{\Delta R}{R} - \xcancel{2 \cdot \frac{\Delta v}{v} \frac{\Delta R}{R}} - \cancel{1} \right) \\ &= 3 \cdot \frac{mv^2}{R^2}  \times \Delta R \end{align}

[ク] これらの差し引きからはたらく合力を調べるわけですが,もとの円軌道で成り立つ式: \displaystyle{ m \frac{v^2}{R} = G \frac{Mm}{R^2} }も用いることで,合力の増分が, \displaystyle{ - \frac{GMm}{R^3} \times \Delta R }と求まります.

この合力により得られる加速度から,動径方向(問題文では『半径方向』)の運動方程式を考えます.
 \displaystyle{ m a_R = - \underset{\Omega^2とおく}{ \underline{ \frac{GMm}{R^3} } } \times \Delta R }

[ケ] この運動方程式は単振動の形となっていて,その周期は上のように角速度の 2乗を与えて,
  \displaystyle{ t = \frac{2 \pi}{\Omega} = 2 \pi \sqrt{ \frac{R^3}{GM} } }

と円軌道の周期に一致する結果となります.

さきに(1)の補足を見た人は「あ!」となるかもしれませんが,このイタズラはまさに  V(r)の谷底にある点をチョイとずらして,その後谷底を中心にユラユラしている様子を表していることになります.

(3) 違う世界の天体Xへの訪問

引力が  \displaystyle{ f = \frac{Am}{r^k} }と表されるような天体Xのまわりで円運動することを考えます. A = GM, \ k = 2を代入すれば,先の回答に一致するはずなので,不安ならそれを検算代わりに使うこともできるわけです.

[コ] 円運動の速さについては,『遠心力を表す式は変わらない』ので,
  \begin{align} m \frac{{v'}^2}{R} &= \frac{Am}{R^k} \\ v' &= \sqrt{ \frac{A}{R^{k-1}} } \end{align}

[ケ] (2)のときと同様にイタズラをされますが,ここは同様な式変形をして,引力の大きさの増分は,
  \begin{align} \frac{Am}{(R - \Delta R)^k} - \frac{Am}{R^k} &= \frac{Am}{R^k} \left\{ \left( 1 - \frac{\Delta R}{R} \right)^{-k} - 1 \right\} \\ &= k \cdot \frac{Am}{R^{k+1}} \times \Delta R \end{align}

[サ] 遠心力の大きさの増分の式自体は,(2)と同じですが,最後に代入する[オ]に相当する式が変わります.
  \begin{align}  m \frac{(v' + \Delta v')^2}{R - \Delta R} - m \frac{v'^2}{R} &= 3 \cdot \frac{mv'^2}{R^2} \\ &= 3 \cdot \frac{Am}{R^{k+1}} \times \Delta R \end{align}

結果,運動方程式が以下のようになります.
  \displaystyle{ m a'_R = - \underline{ (3-k) \cdot \frac{Am}{R^{k+1}} } \times \Delta R }

[ス] 振動となるためには「変位と逆向きの力」がはたらかなければいけないので, 3-k>0が条件になります.

[セ] このとき,単振動の周期は  \displaystyle{ t_X = 2 \pi \sqrt{ \frac{R^{k+1}}{(3-k)Am} } },軌道周回の周期は  \displaystyle{ T_X = 2 \pi \sqrt{ \frac{R^{k+1}}{Am} } }となるので,その比は  \displaystyle{ \frac{t_X}{T_X} = \frac{1}{\sqrt{3-k}} }となります.

問2 宇宙船の行く末...

下線を引いた部分が正か負かで運動の様子が変わってしまいます.正の場合は単振動の式となるので単振動をおこないますが,負の場合は合力がつねに正となり天体Xに向かっていくこととなります.しかも,ズレればズレるほど( \Delta Rが大きくなるほど),合力の大きさは大きくなります.ということで,どんどん天体Xに引き込まれていくという結果になります.
この結果も,有効ポテンシャルのグラフを考えることで,その様子を見ることができます.たとえば, k = 4のときならば,有効ポテンシャルは  \displaystyle{ V(r) = \frac{C}{r^2} - \frac{D}{r^3} }の形で与えられます.

(2)と(3)は,ほぼ同じ流れを繰り返しているので,難しい話ではないと思います.最後の宇宙船の運動に対する記述は,式に含まれている項をきちんと物理的な視点で評価できることが求められています.

*1:参考物件 miwotukusi.hatenablog.jp

*2:2023/04/12追記:有効ポテンシャルの意味などについて,以下のネタに追加の内容を書きました.「大学への物理」から「大学での物理」へ…(大学入試物理問題の数理) - みをつくしのひとりよがり

*3:ここで置いた  C, \ Dを用いると, \displaystyle{ r = \frac{C}{D} }のとき, V(r) = 0となります.また, \displaystyle{ r = \frac{2C}{D} }のとき  V(r)は最小値を持つことが示せます.この  rは「谷底」になるので,ここから運動を始めた質点は  rが一定,すなわち円運動をおこなうこととなります.

*4:参考物件miwotukusi.hatenablog.jp