みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2023年京大物理第2問」のメモ

京大さん第2問です.ガウスの法則から球形コンデンサーの電場を考え,それを光電子のエネルギー測定をする装置として利用することを考えていきます.

(1) ガウスの法則

[イ] 共通テストでも出てきていたお約束な問いです.書かれているとおりに,電気力線の本数を  Nとして式を書き下せば,
  \displaystyle{ k \frac{Q}{r^2} = \frac{N}{4 \pi r^2} }

(2) 導体球の帯電

[ハ]~[ニ] 電荷は導体表面に分布し,導体球の外側から見れば点電荷と同じ扱いとなります.
逆説的な表現になりますが,導体内の電場がなくなることで,導体表面の電荷分布が一様となり静的な状態になります.ですので,電場の強さは 0となります.電位については,無限遠へ +1 Cの電荷を運んでくることを考えれば,
  \displaystyle{ \int_r^{\infty} E(R) dR = \int_r^a 0 \ dR + \int_a^{\infty} k \frac{Q}{R^2} dR = k \frac{Q}{a} }

(3) 中空導体球

(2)の導体球を『中空の導体球』で囲い込みます.この中空の導体球を球殻と呼ぶこともあります.少し文章が長いですが,

  • 中空導体球Bは,静電誘導により内側の面に  -Q,外側の面に  +Q電荷が一様に分布するようになります.
  •  b < r < b+dすなわち Bの内部は導体の内部ですので,電場の強さは 0に変化し,
  •  r \geqq b+dすなわち Bの外側では,(2)のときと同様に点電荷と同じ扱いになります.

[ホ] そして,『導体球Aと中空導体球Bに挟まれた領域  a < r < b においても,(2)の状態から電場が変化していない』ということなので,この区間の電位差は,
  \displaystyle{ V(a) - V(b) = k \frac{Q}{a} - k \frac{Q}{b} = kQ \left( \frac{1}{a} - \frac{1}{b} \right) }

問1 電位のグラフ

外側から順に考えていく方が,わかりやすいかと思います.

  1.  b+d \leqq rでの電位は,上でも求めているとおり  \displaystyle{ V(r) = k \frac{Q}{r} }
  2.  r = b+dでの電位は,上の式から  \displaystyle{ V(b+d) = k \frac{Q}{b+d} }
  3.  b < r < b+dでは電場の強さは 0なので, V(r) = V(b+d) = V(b)となります.
  4. そして, a < r < bでは \displaystyle{ V(r) = V(b) + \int_r^b k \frac{Q}{R^2} dR = k \frac{Q}{b+d} + kQ \left( \frac{1}{r} - \frac{1}{b} \right) = kQ \left( \frac{1}{b+d} + \frac{1}{r} - \frac{1}{b} \right) }
  5.  r < aでは,また電場の強さが 0になるので, V(r) = V(a)となります.

(4) 球形コンデンサ

[ヘ] 中空導体球Bを接地(アース)すると,外側の表面にあった電荷  Qが地表に流れます.
[ト] 接地しただけで,AとBの電位差が変わるわけではないので,電位は[ホ]で与えられます.
[チ]コンデンサーとみなしたときの電気容量は, Q = CVの式より,
  \displaystyle{ C = \frac{1}{k \left( \cfrac{1}{a} - \cfrac{1}{b} \right) } = \frac{ab}{k(b-a)} }

(5) 円形の電場中を運動する電子

[リ] (4)で求めた球形コンデンサーの電気容量から,逆算をしていきます.電荷 Qが与えられたときの電位差が[ホ]だったので,電位差: V_0を与える電荷はどうなるのかを考えてみると, \displaystyle{ Q' = C V_0 = \frac{ab}{k(b-a)} V_0 }となるので,電場の強さは,
  \displaystyle{ E'(r) = k \frac{Q'}{r^2} = \frac{ab}{(b-a) r^2} }

[ヌ] その電場の中で等速円運動をして,スリット  S_2を通過する電子を考えます.電場と磁場の違いはありますが,今年の東大第1問の冒頭と似たような話になっています.向心力が電場により与えられる力となるので,
  \displaystyle{ m \frac{{v_0}^2}{r_0} = e \frac{ab}{(b-a) {r_0}^2} V_0 }

左辺に  m {v_0}^2があるので,そこを利用して,
  \displaystyle{ \frac{1}{2} m {v_0}^2 = \frac{1}{2} \frac{ab}{(b-a) r_0} e V_0 =\frac{ab}{b^2-a^2} e V_0 }

(6) 光電効果について

(5)の仕組みで電位差: V_0を変えると,いろいろな運動エネルギーの光電子を抽出することができます.そこから,そのエネルギーの分布を与えることができるという話(光電子分光法)が書かれています.
[ル] 金属内部においてあるエネルギーをもった電子が飛び出すことを考えています.文章に忠実にエネルギー準位の図を描いていけば,足し算・引き算の世界です.
  \begin{align} h \nu &= K_S + W + (E_M - E_1) \\ K_S &= h \nu - W - (E_M - E_1) \end{align}

 \nuは振動数ですので,波長の式に戻してあげます.

問2 光電子のエネルギー分布と最大エネルギー

まず,上で書いた  K_Sの式で何が「変数」なのかをきちんと理解しなければなりません.逆に,それがきちんとわかれば難しい話ではないです.

  •  h \nuは,波長: \lambdaの単色光のエネルギーなので定数
  •  Wは,仕事関数であり,その金属固有の値なので定数
  •  E_Mは,エネルギー準位の最大値なので定数
  •  E_1は,自由電子のもつエネルギーであり可変

上の式でも, (E_M - E_1)と括弧をつけていますが,これを  \Delta Eとエネルギーの最大値からの差と見てもいいと思います.
仕事関数の上面を地面に見立てて,そこに長さ一定( h \nu)の棒を突き刺してみます.地面から出ている長さが光電子の運動エネルギーに相当することになります.そんな感じでエネルギー準位の図を見ていけば,その運動エネルギーに上限(棒が  E_Mまで差し込んでいるとき)があることがわかります.
その上限が,
  \displaystyle{ K_C = h \nu -W = \frac{hc}{\lambda} - W }

として与えられます.分布の中身がわからなくとも,このような上限を与えているグラフは[3]しかありません.
逆に,[3]のグラフから,金属内部での自由電子のエネルギー分布は一様(詰まっている)ということがわかるわけです.

2023年京大物理第2問(光電効果)


球形コンデンサーは,あちこちで出されている感じですね.なので,その応用に入るまでは確実にとっておきたいところです.ちなみに,大学物理の電磁気学でも,初っ端の方で出てくる内容でもあります.