理系男子の独り善がり

仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2020年京大物理第3問」のメモ

京大さん第3問は,気体分子運動論の「壁動きますバージョン」になっています.粒子の衝突という形で単原子分子気体を扱い,その後二原子分子気体の場合に拡張しています.相変わらずの問題文の長さではありますが,一番素直に解ける問題なのでは?と思いました.「微小量の扱いに慣れていれば」という条件付きになるかもしれませんが.

図2:粒子が壁B→壁A→壁Bと動くとき( t_1 \leqq t \leqq t_2)

前半で問われていることは,物理というよりは算数(速さ/時間/距離)の話になっています.*1距離に関する式を立てていけばいいわけです.

[あ]については,粒子の移動距離に関する式: -v t_1 = L_1,時刻  t_1 \leqq t \leqq 0の間における壁の移動距離に関する式: L_1 - w t_1 = Lを組合せます.
[い]についても,同様です.

[え]は,第1回近似大会です.微小であるとされている  w/vの項をいかに作り出すかがポイントです.[う]と合わせて,少していねいに計算過程を書いておくと,
  \begin{align} T_{12} = t_2 - t_1 &= L \left( \frac{1}{v - w} + \frac{1}{v + w} \right) \\ &= \frac{L}{v} \left( \frac{1}{1 - w/v} + \frac{1}{1 + w/v} \right) \\ & \fallingdotseq \frac{L}{v} \left\{ 1 - \left( - \frac{w}{v} \right) + 1 - \frac{w}{v} \right\} \\ &= \frac{2L}{v} \end{align}

[お]は,運動量の変化量と力積の関係式を書き下すと,
  \begin{align} - \overline{F}_x T_{12} &= mv - (-mv) \\ | \overline{F}_x | &= \frac{m v^2}{L} \end{align}

よって,圧力は
  \displaystyle{ P = \frac{ | \overline{F}_x |}{L^2} = \frac{m v^2}{L^3} }


図3:図2の続きの運動( t_2 \leqq t \leqq t_3)

壁Bが動いているので,粒子の速さはその壁との衝突のたびに小さくなっていきます.その様子を調べていきます.
[か]は,弾性衝突の式を立ててあげれば  a = 2と導かれます.
[き]も図2のときと同様にして, \displaystyle{ L_3 = \left( 1 + \frac{w}{v'} \right) \frac{v}{v - w} L }となります.

圧力と体積の微小変化からポアソンの式の導出

[く]は第2回"大"近似大会です.先ほどと同様に, w/vの項をくくり出すことに注力をし,分母から分子へ上げてくるときの指数に注意して,
  \begin{align} P' = \frac{m {v'}^2}{{L_3}^3} &= \cfrac{ m (v - aw)^2 }{ \left( 1 + \cfrac{w}{v'} \right)^3 \left( \cfrac{v}{v - w} \right)^3 L^3} \\ &= \cfrac{ m v^2 \left(1 - \cfrac{aw}{v} \right)^2 }{ \left( 1 + \cfrac{w}{v - aw} \right)^3 \left( \cfrac{1}{1 - w/v} \right)^3 L^3} \\ &= \color{blue}{\frac{m v^2}{L^3}} \left( 1 -a \color{red}{\frac{w}{v}} \right)^2 \left( 1 + \cfrac{\color{red}{\cfrac{w}{v}}}{1 - a \cdot \color{red}{\cfrac{w}{v}}} \right)^{-3} \left( 1 - \color{red}{\frac{w}{v}} \right)^3 \\ & \fallingdotseq \color{blue}{\frac{m v^2}{L^3}} \left\{ 1 + (-2a -3 -3) \color{red}{\frac{w}{v}} \right\} \\ &= \color{blue}{P} \left\{ 1 - 2(a+3) \color{red}{\frac{w}{v}} \right\} \end{align}

目がチカチカしますね.先に,答えまで行ってしまうと,
  \displaystyle{ \frac{\Delta P}{P} = \frac{P' - P}{P} = \frac{P'}{P} - 1 = -2(a+3) \times \frac{w}{v} }

昨年の第1問で出た「第2回近似大会」が 2段階で近似式を使うというものだったので,その反省からか今年はバシッと当てはまる形が記されていました.ちなみに,「ややこしい項」のところに  (1 + \alpha x)^{\beta} \fallingdotseq 1 + \alpha \beta xの近似式をくり返し適用してみると,
  \begin{align} \left( 1 + \frac{a_3 x}{1 + c x} \right)^{b_3} &\fallingdotseq \left\{ 1 + a_3 x (1 - cx) \right\}^{b_3} \\ &= (1 + a_3 x - a_3 c x^2)^{b_3} \\ &\fallingdotseq 1 + a_3 b_3 x  \end{align}

他の項も  1 + a_1 b_1 x, \ 1 + a_2 b_2 xと近似されるので,それらを掛け合わせて  xの 2次以上の項を無視すれば,与えられている近似式を得ることはできます.

[け]も同様の近似大会です.題意に沿った言い方をすれば,「近似式において, a_2 = 0とした」形になります.感覚的には,積の第 2項を無視した形です.実際に解くときは,上で書いた計算から必要なところだけ抜き出す感じでいいと思います.
  \displaystyle{ \frac{\Delta V}{V} = 6 \times \frac{w}{v} }

これらの結果を組合せると,[こ]ポアソンの式が得られます.ここで出てくる  \gammaは比熱比です.
  \displaystyle{  \frac{\Delta P}{P} + \frac{a+3}{3} \cdot \frac{\Delta V}{V} = 0 }

[さ]については,大学の熱力学で絶対に使うやり方なので覚えておいてください.2つの状態方程式を書き並べます
  \begin{cases} PV = nRT \\ (P + \Delta P)(V + \Delta V) = nR (T + \Delta T) \end{cases}

そして,これらの式の両辺を割って,微小量の 2次以上を無視すれば,
  \begin{align} \left( 1 + \frac{\Delta P}{P} \right) \left( 1 + \frac{\Delta V}{V} \right) &= 1 + \frac{\Delta T}{T} \\ \frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} &= \frac{\Delta T}{T} \end{align}

理想気体の微小変化に関する関係式として,大学の熱力学でちょくちょく登場する関係式になります.
[さ]の式は,ポアソンの式の  T V^{\gamma - 1} = \mathrm{Const.}と同等の式です.*2


図4:二原子分子気体への拡張

二原子分子には,単原子分子にはない回転という「自由度」を持つようになります.その自由度に対するエネルギーもあるんだよということを書いていますが,ここでは気体分子のエネルギーが  \displaystyle{ E = \left( 1 + \frac{2}{3} \right) K_x }と与えられることだけをおさえておけばいいです.

問1:二原子分子と重い物体との衝突

問題文のとおりに書き下していきます.重心の並進運動エネルギーは  \displaystyle{ K_x = \frac{1}{2} m v^2 }で与えられることを頭に入れておいて,

  • エネルギー保存:\displaystyle{ \left( 1 + \frac{2}{3} \right) \cdot \frac{1}{2} m {v'}^2 + \frac{1}{2} M {w'}^2 = \left( 1 + \frac{2}{3} \right) \cdot \frac{1}{2} m {v}^2 + \frac{1}{2} M {w}^2 }
  • 運動量保存: -m v' + M w' = mv + Mw

で,この計算嫌ですねー(苦笑)
おそらく普通の解説では書いてくれないと思うので,こんな感じというところをつらつらと書いてみましょう.

問1の計算過程

まず, m/M \equiv \muとでも置いてしまいましょう.すると,上の 2式はそれぞれ以下のように変形されます.

  • エネルギー保存: 5 \mu {v'}^2 + 3 {w'}^2 = 5 \mu v^2 + 3 w^2
  • 運動量保存: w' = \mu (v + v') + w

で, w'に代入します.
  5 \mu {v'}^2 + 3 (\mu v + \mu v' + w)^2 = 5 \mu v^2 + 3 w^2

左辺の 2乗を展開し, v'の降べきの順に整理して,
  (3 \mu + 5) {v'}^2 + 6(\mu v + w) v' + (3 \mu - 5) v^2 + 6vw = 0

結果的に,この左辺は因数分解できることになるのですが,そんなんわかるかいってことで判別式部分の計算をします.(青字のところが相殺されます)
  \begin{align} D/4 &= 9 (\mu v + w)^2 - (3 \mu + 5) \left\{ (3 \mu - 5) v^2 + 6vw \right\} \\ &= \color{blue}{9 \mu^2 v^2} + \color{blue}{18 \mu v w} + 9 w^2 - (\color{blue}{9 \mu^2} - 25) v^2 - \color{blue}{18 \mu v w} - 30 v w \\ &= 25 v^2 - 30 vw + 9 w^2 \\ &= (5v - 3w)^2 \end{align}

 v' >0 v \gg w(上の近似大会でさんざん使っている大小関係)であることから,
  \displaystyle{ v' = \frac{-3(\mu v + w) + (5v - 3w)}{3 \mu + 5} = \frac{-3 \mu + 5}{3 \mu +5} v- \frac{6}{3 \mu + 5} w }

最後に, \muを元に戻します.

問2:「壁」になるように極限をとる

 Mを非常に大きく(重たく)することで,衝突の対象を「壁」に仕立て上げます.*3上の式で言えば, \mu \rightarrow 0という極限をとるだけです.
  \displaystyle{ v' \rightarrow v - \frac{6}{5} w }

二原子分子気体に対する  aの値は  \displaystyle{ \frac{6}{5} }となるので,それを[こ]の式に代入して,
  \displaystyle{ \gamma = \cfrac{\cfrac{6}{5} + 3}{3} = \frac{7}{5} }

となり,二原子分子気体の比熱比が得られました.
もしかすると,極限をとった式と[か]で与えられていた等式を比較し, aの値を定めるというのは思いつかないというか違和感をもつ人もいるかもしれませんね.


「壁が動く」ことは「膨張する」ことを表している→その結果粒子の速さが衝突のたびに小さくなる→内部エネルギーが小さくなる→気体の温度が下がるという仕組みになっています.その衝突前後の様子を見ることで,比熱比を知ることができるという問題でした.
ちょっと変型とは言え,気体分子運動論の問題なので,ほとんど力学の問題ですね.熱力学がそんなに得意でなくても,ある程度は得点できる問題かもしれません.ただ近似大会と 2次方程式で計算量が複雑(量が多いというよりは要領の良さで解く感じ)なので,時間が足りないとは思います.

*1:ドップラー効果のときも同じようなやり方をしていましたね.キャッチボールの問題 - 理系男子の独り善がりドップラー効果~その1:公式の導出~ - 理系男子の独り善がりあたりが参考物件です.

*2:このあたりの展開は, 大気の物理~その3(2年越し)~ - 理系男子の独り善がりに書いてたりします.

*3:式の評価~その2~ - 理系男子の独り善がりでも同じような話をしています.