みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

ドップラー効果~その2:入試問題から~

初級編と中級編(ぐらいと思われる)問題をそれぞれ 1題ずつ挙げていきます.すみません,ちょっと長いです.

初級編:平成26年度センター本試験 物理I 第3問

ベルトコンベアでドップラー効果を説明したちょっとややこしく見える問題です.

平成26年度センター本試験 物理I 第3問(ドップラー効果をベルトコンベアで)

前回までの内容を見てもらうと,以降の問いはそう悩まずに回答できるかと思います.特に問2の穴埋めは,ドップラー効果の本質である「音の速さは空気中を伝わる速さであって不変である」という点をついてきています.

中級編:2018年大阪市大後期物理 第3問

以前,2018年大阪市大前期の第3問(熱効率の問題)を挙げましたが,今回は後期の問題です.ドップラー効果の応用として,衝突防止システムを考えています.

2018年大阪市大後期物理第3問

問1と問2

Qで反射した音波を Pが観測したときの振動数(周波数): Fを導出しています.Qが受け取った振動数をそのまま音源として発するという誘導で,以下のように求められます.
  \displaystyle{ F = \frac{V+v_1}{V+v_2} \cdot \frac{V-v_2}{V-v_1} \ f = \frac{(V+v_1)(V-v_2)}{(V-v_1)(V+v_2)} \ f }

問3

上の結果から,Pが出した音波の振動数: f,Qで反射してきた音波の振動数: F,P自身の速度の大きさ: v_1,音速: Vを用いて,相手である Qの速度の大きさ: v_2を算出することができます.単に 1次方程式を解くだけです.
  \displaystyle{ v_2 = \cfrac{ \cfrac{V+v_1}{V-v_1} f - F }{ \cfrac{V+v_1}{V-v_1} f +F } \ V }

問2の結果の式で,一度  (V+v_1)/(V-v_1) \equiv \alphaとでも置いて計算をした方がいいかもしれません.書くのも面倒ですしね.


ここで,時刻に関する条件が加わります.

2018年大阪市大後期物理第3問 問4, 5

問4

衝突してしまうまでの時間: T T_0を用いて表します.
前回のキャッチボールのときと同様に,二体(PとQ)の位置関係を考えていきます.Pは Qに相対速度: v_1 - v_2で近づいていくので,時刻: t=0のときの PQ間の距離を  Lとすれば  L = (v_1 - v_2) \cdot Tとなります.また,音波が Qに届く時刻を  t = T_Qとすると, L = (V - v_2) \cdot T_Qとも表されます.これら 2つの式より
  \displaystyle{ T_Q = \frac{v_1 - v_2}{V - v_2} T }

問4:距離の関係を整理する

次に,Pが時刻: t=0 \sim T_0の間に進む距離,音波が時刻: t=0 \sim T_Qまで前方へ進み  t = T_Q \sim T_0の間に戻ってくる距離を考えて,
  \begin{align} v_1 \cdot T_0 &= V \cdot T_Q - V \cdot (T_0 - T_Q) \\ T_Q &= \frac{V+v_1}{2V} T_0 \end{align}

 T_Qを消去して,答えは
  \displaystyle{ T = \frac{(V+v_1)(V-v_2)}{2V(v_1-v_2)} T_0 }

問5

問4の結果から, v_2を消去して Pで知りうる変数を用いて衝突するまでの時間を算出します.
 v_2に問3の結果を代入して整理します.先に書いていたように一度  \alphaを用いて式変形をしてみます.
  \begin{align} T &= \frac{V+v_1}{2V} \frac{\left( 1 - \frac{\alpha f - F}{\alpha f + F} \right) V}{v_1 - \frac{\alpha f - F}{\alpha f + F} V} T_0 \\ &= \frac{V+v_1}{2V} \frac{2FV}{(\alpha f +F) v_1 - (\alpha f -F) V} T_0 \\ &= \frac{V+v_1}{2V} \frac{2FV}{-\alpha f (V - v_1)+(V+v_1)F} T_0 \\ &= \frac{F}{F-f} T_0 \end{align}


問5のおまけ
反射波を計測してから, \displaystyle{ T - T_0 = \frac{f}{F-f} T_0 }の時間ののちに衝突してしまうということが算出できます.これは問4の結果に対しても同じことで,具体的に

  • Pの速さ: v_1 = 100 \ \mathrm{ km/h }
  • Qの速さ: v_2 = 80 \ \mathrm{ km/h }
  • 時刻: t=0での車間距離: L = 100 \ \mathrm{ m } = 0.1 \ \mathrm{ km }
  • 音速: V = 340 \ \mathrm{ m/s } = 1224 \ \mathrm{ km/h }

を用いると,
  \displaystyle{ T_0 = \frac{2V(v_1-v_2)}{(V+v_1)(V-v_2)} \ T \fallingdotseq 0.58 \ \mathrm{ s } }

となり衝突までの想定時間(=18秒)に対して,0.6秒ほどでその時間(残り約17.4秒で衝突)を検出してくれることになります.
上の式を  T_0 \fallingdotseq 0.03 \cdot Tと書き換えれば,車間距離に関わらず衝突時間の約3%でその時間を算出してくれるとみることもできます.このように短い時間で検出することができるのは,音速が非常に速い(または人の移動する速さが案外遅い?)からと言えます.

衝突防止システムとしては,たとえばここで求めた時間と人間の反応時間との大小関係によって,自動的にブレーキを作動させるといったことを考えることができます.運転している人にとっては,「あと何秒で衝突します」と言われるよりは「いま車間距離は何メートルです」と言われた方がいいのかもしれません.上の式をいろいろといじっていけば,そのあたりも示すことができます.


さらに,風が吹くシチュエーションが追加されます.

2018年大阪市大後期物理第3問 問6

問6

問5と同様に, F'を求める内容です.スマートな解答の前に,ベタな計算をしていきます.
 F'は,P→Qと Q→Pで風向きが逆になることを考慮して,
  \displaystyle{ F' = \frac{(V-w)+v_1}{(V-w)+v_2} \cdot \frac{(V+w)-v_2}{(V+w)-v_1} f }

ここで, \color{red}{v_1' = v_1 - w, \ v_2' = v_2 - w}とおいてみると,
  \displaystyle{ F' = \frac{V+v_1'}{V+v_2'} \cdot \frac{V-v_2'}{V-v_1'} f }

と問2と同じ形になります.
 T' T_0'の関係については,上の問4の図を参考にして,

  •  L = (v_1 - v_2) \cdot T' = \{ (V+w) - v_2 \} \cdot T_Q'より  \displaystyle{ T_Q' = \frac{v_1 - v_2}{(V+w)-v_2} T' = \frac{v_1' - v_2'}{V-v_2'} T'}
  •  v_1 \cdot T_Q' = (V+w) \cdot T_Q' - (V-w) \cdot (T_0' - T_Q')より  \displaystyle{ T_Q' = \frac{(V-w)+v_1}{2V} T_0' = \frac{V-v_1'}{2V} T_0'}

結果,これも問4と同じ形となり,
  \displaystyle{ T' = \frac{(V+v_1')(V-v_2')}{2V(v_1'-v_2')} T_0' }

ここまで来れば,この問いの答えも同じ形となり,以下のようになります.
  \displaystyle{ T' = \frac{F'}{F'-f} T_0' }

風が吹いても式の形が変わらず,出した音波と戻ってきた音波の振動数と戻ってくるまでの時間だけで衝突するまでの時間を算出することができることがわかりました.

問6のスマートな解答

前回書いた公式の導出では,「時間間隔の変化」から「波数は同じ」という条件を当てはめることで公式を導出しました.
そこで波数に注目すると,

  • Pが Qに衝突するまで(!)に出した波数は, f \cdot T
  • Pに戻ってきた波数は,振動数: Fで時間: T-T_0に受けた数であるから, F \cdot (T-T_0)

問5の結果は,この内容をまわり道をして導出したことになります.ここの考え方だけで,問5は導けるわけです.
少し言い換えると,Pが音波を出すときの時間間隔と戻ってきた音波を受けるときの時間間隔が  T:(T-T_0)となっているわけです.これは,実際に  \displaystyle{ \frac{1}{f}:\frac{1}{F} } T:(T-T_0)が等しくなることで確認できます.


次回は,いまさらドップラー効果について書いたきっかけとちょっと発展させた内容を書いてみます.