前回の二階建てバージョンの部分に関する補足です.ここではエネルギー保存則ではなく,単純にスイッチを閉じていないとき・閉じたときの違いを時間発展で見ていくことにします.
微分方程式の解ふたたび
たまに,つぶやいていることなのですが,高校物理では力学以外時間が陽に現れないことが多いです.微分方程式を用いることで時間の関数として表すことができるようになるわけです.前回も簡単に記していましたが,その部分にもう少し補足を入れておきます*1.
前回は簡単にした形として,
,初期条件:
の解が,と与えられることを記しました.この指数関数(の減少関数)の緩和時間は,として与えられます.この時間までは大きく が変化していくという目安になっています.
グラフの概形を考える際にも,この時間はキーになってきます.そして,この時間はときに「回路の時定数」や「半減期」として与えられることもあります.
少し関数の形を変えていますが,グラフと緩和時間の関係を以下に示しておきます*2.
あと,この緩和時間は,もとの微分方程式の の係数(の絶対値)として与えられています.もとの微分方程式も で括り出した形にはなっていますが,所詮右辺を展開したときの第1項は定数項なので変化自体への影響はなく,その関数自身についている係数(そのときの変化量に対する割合)が影響しているとみることができます.
以降では,スイッチを閉じていないとき・閉じたときのそれぞれについて,導体棒Qの速度に関する微分方程式を書き下し,運動の様子を比較することを見ていきます.
スイッチを閉じていないとき
問9の終端速度を求める手前を考えることになります.すでに,速度:のときに流れる電流の大きさを与えているので,運動方程式は以下のようになります.
スイッチを閉じたとき
問11のところで記している「も含めた式を立てて連立方程式を解き」を具体的に実行します.ですので,キルヒホッフの法則を書き直すと,
上と同じように,を を用いて表します.直接,を求めるのは難しいですが,一度 と の関係式を出すことで導出できます.一度,それらの式を書いておくと,
これらから
すると,運動方程式は以下のようになります.
少し見やすくするために,として書き換えてみると,
さらに右辺を変形をして,としてみると,
と上のスイッチを閉じていないときと同じ形の方程式になります.まあ,というのは,電流を流さない=スイッチを閉じていないことと同じなので,同じ結果になるということです.逆に,としてしまうと,どうなるかは想像がつく(説明もできる)と思います.
このように部分的にある・なしがあるようなモデルでは,その箇所に関連するパラメーターを 0にするか,無限大に飛ばせば,同じような状況を作れることがままあります.モデルに対する立式が正しいかの確認をするという(モデルの検算的)意味でも大事なことかと思います.
2つの方程式の解を比較
グラフの概形は,問4の(く)の形になります.あとは,緩和時間と終端速度の違いを見ることになります.結果を表にすると*3,
終端速度 | 緩和時間 | |
スイッチを閉じていないとき | ||
スイッチを閉じたとき |
最後にグラフを描きやすくするために,とします.すると,緩和時間の比は,となります.
この比の大小関係についてですが,先日旧Twitterに以下のような書き込みをしました.
なるほど・ザ・ワールド https://t.co/ptkwbOgPwD pic.twitter.com/ohH1SX85RY
— みをつくし@もののことわり (@miwotukusi137) 2024年2月21日
もとは名古屋大の谷村氏の書き込みだったものを図にしたものです,もとの 2つの坂道(黄色)の傾きに対して,「平均の傾き(桃色)」が片方の坂道より傾きが大きく,他方の坂道よりは傾きが小さくなるということを表しています.
これに従うと,より,となることがわかります.終端速度が小さくなる代わりに,緩和時間は短くなるという結果がわかります.
以下に速度変化のグラフを出しておきます.
を大きくすると,青線のグラフは赤線に近づいていくように動いていきます.また,原点を通る直線のグラフは,緩和時間を与えるグラフです.
最後のグラフを描くところは,微分方程式の解を求めて(具体的に関数の形を入力して)描いていますが.概形を見るだけであれば上の表に書いた値を比較するだけで様子は掴めるのではないかと思います.