みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2024年京大物理第2問」のメモ

京大さん第2問です.電磁場というよりも,おもに磁場中の荷電粒子の運動を扱います.その中でドリフトという宇宙空間などで起こる事象について触れています.

(1) 直線電流のまわりの磁場

[イ]は,教科書どおりですね.求めるものが磁界の強さではなく磁束密度なので,そこだけ注意です(真空の透磁率をわざわざ書いてくれているので気づくかとは思いますが).
[ロ]〜[ハ]は,1巻きコイルに生じる誘導電流についてです.[イ]の結果から.x軸に沿って遠ざかると徐々に磁束密度は小さくなっていきます.そのような縦縞のグラデーションのイメージがついていれば,

  • y軸方向に移動しても,コイル内を貫く磁束は変化しないので誘導電流も発生しません.
  • x軸方向に移動した場合は,コイル内を貫く磁束は小さくなるので,それを打ち消すように誘導電流が流れます.

たとえば,コイルの一辺の長さを  2 \ell,コイルの x軸方向の中心の位置を  x = R \ (R > \ell)とすると,コイル内を貫く磁束: \phi(R)は,
  \displaystyle{ \phi(R) = \int_{R - \ell}^{R + \ell} \frac{\mu I}{2 \pi r} \cdot 2 \ell \ dr = \frac{\mu I \ell}{\pi} \log{\left( \frac{R + \ell}{R - \ell} \right)} }

x軸方向へ移動する速さを  vで一定とすると, R = R_0 + vtと表され,誘導起電力を与える磁束の変化は,以下のように与えられます.積分して微分してるので,もとの形に帰るだけですね(苦笑).
  \displaystyle{ \frac{d \phi(R)}{dt} = \frac{d \phi(R)}{dR} \cdot \frac{dR}{dt} = - \frac{\mu I \ell v}{\pi} \left( \frac{1}{R - \ell} - \frac{1}{R + \ell} \right) < 0 }

(2) 非一様な磁場中での荷電粒子の運動

『次に』として話が変わっていますが,(1)の直線電流まわりの磁場も x軸方向に沿ってみれば,非一様な磁場になっています.中学理科の教科書などで地球のまわりに磁力線が描かれたイメージ図を見たことがあると思いますが,その至極単純なモデルが(1)になっていると思ってもらえばいいです.つまり,以降で出てくるドリフトは,地球のまわりの空間で起きている事象になっているわけです.こういう話のつながりは後々のためにも書いておいて欲しいなあとも思ったりします.
ですので,図2も図1からの続きになっていると思って見てもらうと,なんとなくスッと話も飲み込めるかと思います.

磁場中を荷電粒子が運動をすると,はたらくのはローレンツ力ですね.

[ニ]〜[ホ]では, まず半周分について調べます.

  • ローレンツ力が等速円運動の向心力となるので, \displaystyle{ m \frac{{v_0}^2}{r_2} = B_2 q v_0 }
  • 求めた  r_2より,半周分の時間は  \displaystyle{ T_2 = \frac{1}{2} \times \frac{2 \pi r_2}{v_0} }

で, x < x_0の領域での運動は, r_2 \rightarrow r_1と置き換えるだけですので, T_1 + T_2はすぐに求まります.

問1 ドリフトを求める.

ドリフト(移動したベクトル)の大きさは,等速円運動の直径の差として与えられます.

[ヘ]〜[ト]では,ドリフトの平均の速さを計算します.ここで与えられている 2つの磁場の大きさですが,位置の変数の1次の式が分母に入っています.これは,まさに(1)の磁場を再現していることになります.
計算上は,磁場の大きさが分母に入っているので,逆数になってラッキーぐらいな感じだと思います.

  •  T_1 + T_2は,逆数になってプラスマイナスで  dが消えてラッキーです.
  • ドリフトの大きさでは, x_0が消えます.

この  dを小さくしていくと,(1)のように連続して変化する磁場での運動の様子を考えられるようになります.

問2 侵入角度が異なった場合

それぞれの領域での「円運動」が連結されるわけです.侵入角度が変わったくらいで運動の本質は変わらないので,(3)となることは自然にわかるかな?と思います.いちおう,根拠づけをして書いてみると,

  • いずれの領域でも,運動の方向は反時計回り(フレミングの左手の法則より)となるので,(1)と(3)に絞り込まれます.
  • そして,左の領域の方が円運動の半径が小さいので.(3)に絞り込まれます.

(3) 一様な磁場中でのドリフト

円運動の半径のズレがドリフトという現象を起こすので,円運動の速さを変えることでズレを起こしましょうというのが,(3)になります.領域で運動の速さが変わるような外力を加えることを考えていきます.
この外力は保存力と書かれていますが,この力に対する仕事が経路に依存せず始点と終点の位置だけで決まるものを指します.具体的には,重力やクーロン力が挙げられます.そして,これが[チ]の回答を与えます.始点と終点が同じならば,保存力は仕事をしないので,速さ(運動エネルギー)はもとに戻ります.

[リ]〜[ヌ]
上でもおこなった計算の変数を置き換えるだけです.[ヌ]の文章がちょっと注意です.『時刻  t > 0で 2回目に  x = x_0に達するまでの時間』は.「時刻 0よりも後で 2回目」ということですので,左の領域もぐるっと回ってもどってきたタイミングを述べています.[ホ]の回答にもあるとおり,円運動の周期には速さは入らないので,右の領域での時刻を倍するだけです.

[ル]
運動の速さの大小も(2)と変わらないので,同じく y軸の正の向きにドリフトします.

[ヲ]
ここも先の計算と同じ方法です.比較的シンプルな答えになります.

[ワ]
「外力がした仕事が粒子の運動エネルギーの差になっている」と言っているので,
  \begin{align} F(\rho_1 + \rho_2) &= \frac{1}{2} m {v_2}^2 - \frac{1}{2} m {v_1}^2 \\ F(\rho_1 + \rho_2) &= \frac{1}{2} m \left( \frac{B_0 q}{m} \right)^2 ({\rho_2}^2 - {\rho_1}^2)  \end{align}

また,[ヲ]の結果について,等速円運動の速さの式を用いて  \displaystyle{ T = \frac{v_2 - v_1}{\pi} = \frac{B_0 q}{\pi m} (\rho_2 - \rho_1) }と書き換え,上の関係式を代入します.

問3 保存力が電場による力であるとき

[ワ]の結果より,ドリフトの平均の速さは  \displaystyle{ \frac{2F}{\pi B_0 q} = \frac{2 E}{\pi B_0} }となり,軌跡はいままでさんざん見てきたものになります.
そして,電荷 2qとしたときの軌跡ですが,ここはきちんと下線の注釈を読み込んでおく必要があります.『外力により  v_1 v_2の差が生じ,それ以外には外力による運動のへの影響はないと仮定する.』あくまでも外力の影響は,領域の境界をまたぐタイミングだけであり,それぞれの領域内での円運動については影響しないという意味です.すると,ドリフトの平均の速さは上に記している式で分母の  qだけを  2qに置き換えることになります.また,電荷が倍になっているので,はたらくローレンツ力も倍と強くなり,円運動の半径は半分になります.ですので,x軸方向の振動の幅も半分になっています.
少し細かく位置を記入した図を記しておきます.

2024年京大物理第2問問3(赤色実線は電荷  qのとき,青色点線は電荷  2qのとき)

問題文の最後に,簡単なモデルでもドリフトの特性が得られるとのことで,逆にドリフトの軌跡を観測すれば,その領域での磁場や電場の様子を調べることができることを示唆しています.電磁気の問題といいつつ,粒子の軌跡を追う内容なので,力学の色が濃い問題でした.