みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2024年京大物理第3問」のメモ

京大さん第3問は,昨年に引き続きちょっと見たことのない波動シリーズ第2弾になっています.同じジャンルが 2年続くというのも珍しいですね.いまのインフラにはかかせない,光ファイバーを取り上げています.

(1) 全反射

[あ]~[う]
今年の共通テストにも出た全反射に関する内容です. n_{\mathrm{A}} \sin{\phi_{\mathrm{A}}} = n_{\mathrm{B}} \sin{\mathrm{\phi_{\mathrm{B}}}}の関係式があれば片付きますね.
miwotukusi.hatenablog.jp

(2) 光ファイバーの原理

光ファイバーは,全反射が仕組みの基本となっています.少し横道に逸れますが,通信ケーブルには伝送できる帯域が大きいことも重要ではありますが,信号強度の損失が小さいこと(長い距離を伝播できること)とノイズによる影響を受けにくいこと(エラーを起きなくすること)の 2点もその性能として求められます.光ケーブルは,特にノイズに強い(光が入らないようにケーブルをくるんでしまえさえすればよい)という特性があります.その代わり値段が高い,扱いが難しい(折れたら終わり)という弱点もあります*1

[え]は,共通テストのネタでも書いていた「全反射は屈折率の大きい方から小さい方に向かうときにしか起きない」ことを問うています.

[お]では,全反射の式を立てるのですが,入射角と屈折角の関係に注意です.図2(b)でわざわざ  \displaystyle{ \frac{\pi}{2} - \theta }と書いているところが入射角です.よって,全反射の条件式は  \displaystyle{ n_1 \sin{\left( \frac{\pi}{2} - \theta \right)} > n_2 }と与えられます.整理すると, \displaystyle{ \sin{\theta} < \sqrt{ 1 - \left( \frac{n_2}{n_1} \right)^2 } = \sin{\theta_0}  }となります.

[か]
さらに,全反射の条件を満たす空気中からの入射角を考えます.この 2段階で屈折をするところも共通テストと似てますね.空気とコアとの境界での屈折については, 1 \cdot \sin{\theta_{\mathrm{in}}} = n_1 \sin{\theta}となります.先に求めた関係式と組み合わせて, \sin{\theta_{\mathrm{in}}} < \sqrt{{n_1}^2 - {n_2}^2}となります.

ちなみに,実際の光ファイバーは,コアの屈折率が一様ではなく,軸から徐々に小さくなるように作られたりしています.

(3) 全反射した光が安定して伝播する条件

上の(2)のはじめに書いた通信ケーブルに求められる性能のひとつである信号強度の損失が小さいことに対して,干渉による減衰を防ぐことを考えなければいけません.その条件をここで考察しています.

[き]は,図3でちょうど「径方向」と書かれているところの点線の間隔を求めます.

[く]は,『コアの直径が  \lambda_{\mathrm{R}} \displaystyle{ \frac{N}{2} }倍であれば』をそのまま式に表します. \displaystyle{ 2 r_1 = \frac{N}{2} \lambda_{\mathrm{R}} }となります.これと[お]の式を組合せます.

ここまでは光ファイバー内部(コア内)での話を書いていますが,人が操作をするのは入射光になるので,改めて入射光に対する条件を考えます.

[け]~[こ]
少しここの説明文が長くて混乱するかもしれません. Nを固定して  \lambda_0に対する条件を求めなさい(その境界値を求めなさい)という内容になります.ここでは, \theta_0を用いるように指示があるので, \sin{\theta} < \sin{\theta_0}の条件を用います.光学的距離の式: \lambda_0 = n_1 \lambda_1と組合わせて,
  \begin{align} \sin{\theta} &< \sin{\theta_0} \\ \frac{N \lambda_1}{4 r_1} &< \sin{\theta_0} \\ \lambda_0 &< \frac{4 n_1 r_1 \sin{\theta_0}}{N} \end{align}

カットオフ波長: C_2 N = 2のときの値であり, \theta_0は用いられないので,[か]の内容を使います.

(4)「FBG」の仕組み

FBG; Fiber Bragg Gratingというキーワードが出てきます.Fiberは光ファイバー,Braggはブラッグ反射でも出てくる人名,Gratingは「格子」の意味で道路の側溝にあるグレーチング*2と同じ言葉です.要は,ブラッグ反射の垂直入射バージョンになっています.

[さ]
ですので,ブラッグの反射条件を書き出せばよいことになります.と言っても,一つ隣(図5でいうと一つ右)の格子との光路差は  2aとなるので, \lambda_0 = n_1 \lambda_1と組合わせて, \lambda_0 = 2 n_1 aとなります.

(5) FBGの応用

伸縮を検出するセンサーとして利用することを考えます.

[し]~[す]
全体の長さの伸縮に応じて,同じ割合で FBGの周期(格子の間隔)も伸縮するので, \displaystyle{ \frac{\Delta D}{D} = \frac{\Delta a}{a} }となります.この式と次に出てくる  \displaystyle{ \frac{\Delta \lambda_0}{\lambda_0} = A \frac{\Delta a}{a} }とを組合わせて,
  \displaystyle{ \frac{\Delta \lambda_0}{\lambda_0} = A\frac{\Delta D}{D} }

図6より, \lambda_0 = 1500 \ \mathrm{nm}, \ \Delta \lambda_0 = 3.5 \ \mathrm{nm}, \ D = 10.00 \ \mathrm{mm}, \ \Delta D = 0.030 \ \mathrm{mm} を代入します.上に書いた式は,両辺でそれぞれ同じ次元での割り算をしているので,各辺で単位が合っていればそのまま計算できます.

問1 熱膨張測定への応用

上の  \displaystyle{ \frac{\Delta D}{D} }を熱膨張率の式で置き換えます.
  \displaystyle{ \frac{\Delta D}{D} = \frac{L - L_0}{L_0} = \alpha (T - T_0) }

よって,
  \displaystyle{ \frac{\Delta \lambda_0}{\lambda_0} = A \alpha (T - T_0) }

図7(b)より  \lambda_0 = 1500 \ \mathrm{nm}, \ \Delta \lambda_0 = 0.35 \ \mathrm{nm}, \ T - T_0 = 10\  \mathrm{K} を代入します.ここは,[す]で立てた Aの計算式のまま代入した方が楽かもしれません( 35/1000が共通に現れる).


問題については,等式・不等式といった条件に関する式について変数が指定されているところがあるので,先に求めたどの式と組合せるのかを見極めるところがポイントになります.
物理に限らないと思いますが,事象を解析するようなときに「条件が不等式として与えられる」ことがしばしばあります.入試問題としては等号成立であったり,境界値が「答え」になりますが,なるだけ条件式として(不等式のまま)考えられるようにしておくことも大事かと思います.上のメモでは,このあたりを少し強めに意識して書いています.

通信用光ファイバーにおいては,実際にはレーザー(表現が雑ですが,非常に整えられた光)を用いてその伝送効率をさらに高めるようにしています.ですので,光ファイバーから出ている光は決して直接見ないようにしてください.光ファイバーをセンサーとして利用しているというのは知りませんでした.光ファイバーの開発技術には日本もいろいろと関わっていますし,量子コンピューティングへの利用も研究されているので,このような話に触れられるというのはいい機会だと思います.

*1:最近のLANケーブル(銅線ケーブル)も広帯域化をするために,どんどん固くなっています.

*2:ja.wikipedia.org