みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

2024年大学共通テスト「物理」のメモ

久しぶりに共通テスト(旧センター試験)の解説を書いてみます.今年の問題は,それぞれの大問の長さも長すぎることもなく,見やすかったんではないかなと思ってます.

第1問(小問集合)

問1(トルクの問題)

いつもの「回す」問題です.点Aからの距離と力の積を比較します.

  • 重力のトルクは, \displaystyle{ \frac{2}{3} L \times Mg }
  • 力: Fのトルクは, \displaystyle{ L \times F } または  \displaystyle{ \sqrt{2} L \times \frac{F}{\sqrt{2}} = LF }

力のトルクの方が大きくなるとと回転するので, \displaystyle{ \frac{2}{3} L Mg \geqq LF }となり,最大値は  \displaystyle{ \frac{2Mg}{3} }となります.

問2(太陽中心部での熱力学)

理想気体では,内部エネルギーは運動エネルギーの総和となるので,単純に原子数で割れば 1個あたりの運動エネルギーが与えられます.内部エネルギーは絶対温度に比例するので, 15000000 \div 300 = 50000倍となります.そして,同じ中心部にあれば温度は同じなので,運動エネルギーの平均値は水素でもヘリウムでも同じになります.

問3(全反射)

屈折の法則(スネルの法則)の式が与えられているので,その式をごにょごにょすればいいわけです.先に,どの境界面で全反射が起こるのか?が問われていますが,式を変形すればわかります.

  • もし水とガラスの境界面で起こるのであれば, n \sin{\theta_{\mathrm{C}}} = n' \sin{90^{\circ}} より  \displaystyle{ \sin{\theta_{\mathrm{C}}} = \frac{n'}{n} > 1}となります.このような式は成立しないので.この境界面では全反射はおこらないことになります. n' < nでなければ成り立たないことからも,屈折率の大きい方から小さい方に向かうときにしか起きないことがわかります.
  • ガラスと空気の境界面で起こるとすると,先に水とガラスで屈折した入射角で境界面に入るので, n \sin{\theta_{\mathrm{C}}} = n' \sin{\theta'}  n’ \sin{\theta’} = n'’ \sin{90^{\circ}} より  \displaystyle{ \sin{\theta_{\mathrm{C}}} = \frac{1}{n} }となります.
問4(磁場中の荷電粒子の運動)
  • 荷電粒子が xy平面内で円運動しているときは,ローレンツ力がはたらく問題としてもよく出てくるものなので,磁場の方向はその面に垂直な z軸方向となることは気づきやすいかと思います.
  • 2つ目の荷電粒子が x軸に平行に直線運動しているときは,ローレンツ力がはたらかないときとなるので,磁場の方向は x軸方向に平行となります.これがちょっと盲点かもしれません.たとえば,x軸からみれば,y軸も z軸も同じ位置付けになるので,y軸だけで起きるとか,z軸だけで起きるという選択肢はありえないことになります.このような消去法でも答えを導くことはできます.
問5(原子核反応)
  • 陽子と炭素の原子核の質量を足すと, 1.0073 + 11.0067 = 13.0040 > 13.0019となるので,欠損した質量がエネルギーとして放出されたことになります.
  • 半減期 \tauについては,計算式で書けば  \displaystyle{ \left( \frac{1}{2} \right)^{40/\tau} = \frac{1}{16} }より求められます.

第2問(ペットボトルロケット)

ロケットから水や燃焼による噴出を推進力として重力に逆らうことで上昇していきます.このとき,ロケット自体の質量は減少していくところが一つのポイントとなります.今回の問題では質量の減少は考えないこととしているので,難しくはありません.

問1(水の量の変化)

たとえをするまででもないかと思いますが,歯磨きチューブを一定の力でニュッと押し出したときを想像してもらうと,そこで出てきた歯磨き粉の量は (断面積)×(出る速さ)×(押した時間)となります.出た水の量だけ中身は減るので. \Delta V = su \Delta t = S_0 u_0 \Delta tとなります.

問2(微小時間における変化)
  • 噴出した水の質量は,水の体積に密度をかけるだけです.
  • 圧縮空気がした仕事は,熱力学でよく出てくる (力)×(距離) = (圧力)×(面積)×(距離) = (圧力)×(体積) を用いています.気体が外部に押しているので,符号は正です.
問3(微小時間における仕事)

噴出した水のかたまりが速さ: uを与えられるわけですから,運動エネルギー: \displaystyle{ \frac{1}{2} \Delta m u^2 }が仕事: W'に等しいとして考えます.

ここからはロケットが飛び出す状況を考えていきます.上にも書いているように,厳密にはロケットの質量は減少しますし,ペットボトル内の空気の圧力も減少し,それにともなって噴出する水の勢いも弱くなっていきます.が,それらは無視します.ということがちょっと長々と書かれています.

問4(運動量の変化)

どちらが正の方向とは書かれていませんが,ロケットと噴出した水は逆方向に進むことを考慮すればよいです.

問5(飛び出す条件)

重力に打ち勝つための条件を導きます.(推進力) = (質量)×(加速度)ということがわかれば, \displaystyle{ M \frac{\Delta v}{\Delta t} > Mg }より条件を導けます.

第3問(弦の固有振動の実験)

弦の固有振動について,実験で調べていきます.
先に次元解析をしてしまうと*1

  • 速さの次元: [ v ] = [ L T^{-1} ]
  • 力の大きさの次元: [ S ] = [ M L T^{-2} ]
  • 線密度の次元: [ \rho ] = [ M L^{-1} ]

 [ v ] = [ S ]^x [ \rho ]^y として連立方程式を解くことで, \displaystyle{ v \propto \sqrt{ \frac{S}{\rho} } \propto \frac{\sqrt{S}}{d} }となります.
なお,線密度: \rhoは単位長さあたりの弦の質量であり,断面積: \pi d^2には比例します.

問1(振動の方向と定在波の波形)
  • 電流は x軸方向,電場の向きは y軸方向となるので,力(運動)の方向は z軸方向となります.
  • U字型磁石によって振動するので,そこが節(動かない点)ということはありえないので腹になります.あとの実験結果を見れば,腹の数が奇数のときしかないことからも読み取れるかと思います.
問2(定在波の波長)

OOOと腹が3つできたときの2つ分OOが1波長になるので,全体の3分の2となります.

問3(腹の数と周波数)

腹の数と波長の関係: \displaystyle{ \lambda_n = \frac{2L}{n} }(OOで1波長)から,比例の式は  \displaystyle{ f_n = k \cdot \frac{2L}{\lambda_n} }と与えられます.直線の傾き: kについて整理すると, \displaystyle{ k = \frac{f_n \lambda_n}{2L} }となり,右辺の分子は波の速さになっています.
とは書いていますが,腹の数が波長を表すものだとわかれば,「周波数と波長から求めるものは波の速さ」で答えは出ますよね.

問4(グラフの読み取り問題)

「比例しているグラフ」はどれかを問う問題です.「直線上に並んでいる」かつ「その直線が原点を通る」ものを探せばよいです.

問5(数値の読み取り問題)

 f_1なら左からだいたい 30, 15, 10, f_2ならだいたい 90, 45, 30という感じで比がわかればよいと思います.

第4問(電場と電流)

導体紙上の等電位線という,あまり見かけないものが登場します.もしかすると,この問題が分かれ目なのかもしれません.

問1(等電位線)

1, 5, 6が問題外であることはわかると思います.4は同じ符号の2つの点電荷が作るものになります.となると,2か 3かということになります.2つの点電荷から等距離となる垂直二等分線上が電位ゼロで等しくなるという点からも,ここまでは絞り込めると思います.立体的にイメージできればいいのですが,正電荷負電荷の間では一気に電位が落ち込む形となるので,外側の傾斜よりも傾斜がきつく(電気力線の間隔が狭く)なります.

(2024/01/24追記)
物理基礎のメモでも使った Desmos3Dで立体表示を作ってみました.
www.desmos.com

問2(等電位線と電気力線)

最近,電気力線に触れる問題が多いように思います.ある種知識問題みたいなところにもなりますが,それでおとすのももったいないので,改めてチェックすることをおすすめします.等電位線が地図で言うところの等高線であれば,電気力線はその斜面に沿った傾斜の方向を表していると捉えてもらえればよいかと思います.ここの選択肢はわかりやすいと思います.

問3(導体紙の等電位線)

導体(紙)の辺という境界について考えています.なかなかこのような境界を考える問題はないように思います.ただ,先の選択問題で出てきている『等電位線と電気力線は直交する.』が選べていれば難しくはないです.

  • 等電位線が垂直ならば,電気力線すなわち電場の向きは辺に平行になります.
  • 「正電荷の流れる向きが電流の向き」ですから,電場の向きと同じです.
  • 結果,辺の近くの電流は,その辺に沿って平行に流れることになります.
問4(グラフの読み取り問題)

電場の大きさは,単位を見てもわかるように, (電圧)÷(距離)です.よって,原点付近の「傾き」がわかればいいわけです.計算式は以下のようになります.
  \displaystyle{ \frac{\Delta V}{\Delta x} = \frac{0.2 \  \mathrm{mV}}{30 \ \mathrm{mm}} = \frac{0.2 \times 10^{-3}}{30 \times 10^{-3}} \mathrm{V/m} =6.6\cdots \times 10^{-3} \ \mathrm{V/m} }

問5(導体紙の抵抗率)

抵抗率を求めることがあまり問われないので,戸惑った人も多かったのではないかと思います.あまり問われない問題といえば,熱効率もそうだなあという感覚です.
導体の単位長さ・単位断面積あたりの抵抗を抵抗率と呼ぶので,抵抗: Rと抵抗率: \rhoの関係は,導体の長さ: \Delta \ell,導体の断面積: Sを用いて,次のように表されます.
  \displaystyle{ R = \rho \frac{\Delta \ell}{S} }

これとオームの法則の式: V = IRを組み合わせます.ただし,電圧(電位差)は電場と導体の長さを用いて  V = E \Delta \ellとなります.すると,
  \begin{align} V &= IR \\ E \cancel{\Delta \ell} &= I \cdot \rho \frac{\cancel{\Delta \ell}}{S} \\ \rho &= \frac{SE}{I} \end{align}

抵抗率の定義と電圧を電位差として求めるところが導き出せれば,計算は単なる分数計算になります.


屈折の問題,ペットロケットボトルの問題の最後(推進力の条件),あまり見かけない導体紙の問題.このあたりが面白みのある問いだったかなという印象です.

*1:参考物件:miwotukusi.hatenablog.jp