みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2022年同志社大(全学部理系)物理[III]」のメモ

物理[I]については,以下のネタに軽く補足を入れています.
miwotukusi.hatenablog.jp

で,今回取り上げる問題も,ぱっと見では「なんか過程や条件が複雑になるだけの問題かな?それで,やや難評価?」と思っていたのですが,解いてみるとなかなか面白い内容でした.
問題文中で与えられる物理量についての補足も入れながら,後半部分(図2のフラスコみたいなやつ)を中心にメモを書いていきます.
問題文中では単位([m], [Pa]など)が記されていますが,以下では略します.


2022/02/20 もろもろ修正
いろいろ誤植や読みづらいところがあったので,直しました.すみません.

といいつつ,冒頭の「音速」について

『音速は  \displaystyle{ \left( \frac{\gamma p}{\rho} \right)^{\frac{1}{2}} }と与えられる』とありますが,まずは,ここに補足を入れておきます.次元解析*1をしておきましょう.

  • 音速(速さ)の次元は, [ c ] = \mathrm{[ L T^{-1} ]}
  • 比熱比: \gamma = C_p/C_Vは無次元(同じ物理量の比なので当たり前)
  • 圧力の次元は,力を面積で割るので, [ p ] = \mathrm{[ M L T^{-2} ]} / \mathrm{[ L^2 ]} = \mathrm{[ M L^{-1} T^{-2} ]}
  • 密度の次元は,重さを体積で割るので, [ \rho ] = \mathrm{[ M L^{-3} ]}

 [ c ] = [ p ]^x [ \rho ]^y より, \mathrm{[ L T^{-1} ]} = \mathrm{[ M^{x+y} L^{-x-3y} T^{-2x} ]} となり,簡単な連立方程式を解けば, \displaystyle{ x = \frac{1}{2}, \ y = -\frac{1}{2} }と求まります.

前半の「気柱の共鳴」

3倍振動,5倍振動がどういう定常波として表されるかが描ければいいだけですね.書くことはこれぐらいかと.

後半の「フラスコ」

[エ]は,体積に密度をかけるだけなので簡単です.

『円筒の部分の体積は球状容器の体積に比べて十分に小さく,円筒の部分の気体はひとかたまりとして鉛直方向に  dに比べて十分に小さい変位で運動する.』
フラスコの口となる長さ: dの部分が,栓のようなかたまりとなって小さく動くというイメージが書かれています.すると,栓が下に押し込まれれれば球状の部分(厳密には球状ではなくなってますが)の体積が小さくなり,栓が上に上がればその体積は大きくなります.そして,球状の気体からの復元力(もとの球状に戻ろうとする力)がはたらきます.これが,単振動の運動を与えると考えていきます.

[オ] 復元力の大きさ
「圧力の微小変化」については,後で導出を記しておきます.その圧力の微小変化の式にある  \Delta V \Delta V = a \Delta yとなり,そこへ断面積をかければ,力の大きさとなります.力のつり合いを考えるのであれば,圧力を  \displaystyle{ p + \Delta p = p - \frac{\gamma p}{V} \Delta V }として考えなければなりませんが, pの部分は結局は相殺されることになります.

[カ] 振動数
上の  kを用いて,振動している部分の質量が  \rho a d([エ]の答え)と与えられていることに注意して,加速度を  \alpha とおいて運動方程式を書けば,
  \begin{align} \rho a d  \cdot \alpha &= - \frac{\gamma p a^2}{V} \cdot \Delta y \\ \alpha &= - \color{red}{\frac{\gamma p a}{\rho d V}} \cdot \Delta y  \end{align}

 \Delta yの係数部分(赤字部分)が角振動数: \omegaの2乗となるので,
  \displaystyle{ \frac{\omega}{2 \pi} = \frac{1}{2 \pi} \sqrt{ \frac{\gamma p a}{\rho d V} }}

が求める振動数となります.

[キ] 音速の変化
実は,ここの解き方が好きで取り上げたという話もあったりします.
以下のように考えます.

  • 冒頭の内容と圧力が変わらないということから,音速: cは密度の平方根に反比例します.比例の記号( \propto)*2を用いると, \displaystyle{ c \propto \frac{1}{\sqrt{\rho}} \propto \sqrt{V} }と体積の平方根に比例することが示されます.
  • こちらも圧力が変わらないことを用いると,気体の状態方程式より  V \propto Tとなることがわかります.

これらを組み合わせれば, c \propto \sqrt{T}となり,音速は温度比の平方根 \displaystyle{ \sqrt{\frac{T'}{T}} }倍になると与えられます.

[ク] 埋めた水の量
体積をどれだけに減らしたかという話になります*3
ここは温度を上げる前までの話の中で体積を変えるだけなので,
  \displaystyle{ \frac{\omega}{2 \pi} \propto \frac{1}{\sqrt{V}} }

振動数を  k倍にするには,体積を  \displaystyle{ \frac{1}{k^2} }倍にする必要があります.そのために水は  \displaystyle{ V - \frac{1}{k^2} V = \left( 1 - \frac{1}{k^2} \right) V }だけ入れることになります.


穴埋めの周辺にある式をそのままいじれば,答えは出てくるような形になっていますが,いろいろと言葉の裏に隠れている内容もあったりして,記述式な解答を作ろうと思うと結構苦労する問題だと思います.
[キ]と[ク]のところは,何が変数(変化する物理量)で何が定数扱いになるのかを見極める必要があり,そこが難しい点のひとつかもしれません.

「圧力の微小変化」の導出

以前にも何回か登場しているポアソンの式の導出*4になります.必要な材料を以下に買い出して...書き出しておきます.

これらの材料を下ごしらえをした上で,調理していきます.

  1. 熱力学第1法則の式を立てます.この過程は断熱過程( \Delta Q = 0)であるとします.あと,気体の内部エネルギーは  U = n C_V T( nは物質量)で与えられるとして, 0 = n C_V \Delta T + p \Delta Vとなります.結果, \displaystyle{ \Delta T = - \frac{p}{n C_V} \Delta V }となります.
  2. 次に,状態方程式を変形します.これは,「2020年京大物理第3問」のメモ - みをつくしのひとりよがりの[さ]のところでも書いている内容になります.圧力,体積,温度の微小変化に関する関係式です. \displaystyle{ \frac{\Delta p}{p} + \frac{\Delta V}{V} = \frac{\Delta T}{T} }
  3. これらより, \displaystyle{ \frac{\Delta p}{p} }を計算します.

計算の様子を以下に記します.
  \begin{align} \frac{\Delta p}{p} &= -\frac{p \Delta V}{n C_V T} - \frac{\Delta V}{V} \\ &= - \frac{(pV+n C_V T) }{n C_V T} \cdot \frac{\Delta V}{V} \\ &= - \frac{(nRT+n C_V T) }{n C_V T} \cdot \frac{\Delta V}{V} \\ &= - \frac{\cancel{n}(R +C_V)\cancel{T}}{\cancel{n} C_V \cancel{T}} \cdot \frac{\Delta V}{V} \\ &= - \gamma \cdot \frac{\Delta V}{V}  \end{align}

体積の項を右辺へ移項して,あとは通分して,状態方程式を代入して,約分したら比熱比が残ってた.という計算内容です.

*1:次元を超えた世界へ?(次元解析) - みをつくしのひとりよがり

*2: y = k x( kは比例定数)と表されるときに, y \propto xと表します.

*3:水は復元力には影響しないのか?という点への言及はないですが...

*4:大気の物理~その3(2年越し)~ - みをつくしのひとりよがり