みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

音叉の振動モード

大阪大の音波の問題の続きです.大阪大から 2018/01/12に公表された追加資料では,以下のような内容が書かれていました.
 「音叉の振動モードは複数存在し,それにより答えが変わる」
今回は,そのあたりを少し掘り下げておきたいと思います.

音叉の振動モード

追加資料中に記載があるページ
 Vibrational Modes of a Tuning Fork

を見てみると,以下のような振動モードがあると書かれています.

  1. 基本振動モード(音叉に書かれている振動数で振動するモード)
  2. クラングモード(音叉の歯を硬いものでガチーンと叩いたときのモード)
  3. 非対称モード(歯を含む平面内で振動する)
  4. 歯を含む平面をはみだして振動するモード
  5. 非対称モード(歯を含む平面をはみ出して振動する)

1.と2.については,「対称モード」であるとも書かれています.
どういう振動になるのかをアニメーションを載せてくれているので,わかりやすいです.このうち,1.と 3.の振動モードが大阪大の資料で取り上げられています.
1. 基本振動モード = 逆位相振動モード
3. 非対称モード = 同位相振動モード

つたない訳になりますが,少し言葉の補足をしておくと,

  • Tuning Forkは「音叉」.音のチューニングをするためのフォーク,なるほどって感じですね.
  • tine(s)は,フォークの歯という意味があります.フォークのわかれた部分という意味です.
  • stemは,直訳は「幹」という意味で,歯ではなく根本の部分を指しています.
  • clangは,ガチーンと叩くという意味があります.
  • clamped-free barですが,clampは(万力などで)固定したという意味です.「固定された自由な棒」=「一方が固定された自由に動くことができる棒」という感じの意味になります.
  • in-plane bending/Out-of-Plane Bendingは,bendingが「曲げ」という意味で,その曲げが平面内なのか平面からはみ出すのかということを表しています.

基本振動モード(逆位相振動モード)

もっともよく見られる振動の形であり,音叉に書かれている振動数で振動するモードです.
これは,大阪大の問題の問1で問われている内容になってきます.はじめに,この問1を見たとき選択肢を確認するまでは「点Aと点C(音叉の真横の位置)での疎密なんてわかるの?」と思っていました.点Bと点Dは密になることはわかるのですが,点Aと点Cは疎であるなんて言える材料は何もないからです.

ちょっと話がそれますが,「音叉を叩いてから根本の方を指で持ち耳の近くで音叉を回す」というのを小学校ぐらいでやったと思います.このとき,音の強弱が繰り返すように聞こえてきます.上の内容からすると,点Aと点Cで弱くなっているように思えますが,そうではありません.あとでまとめて説明するので,ちょっと頭に入れておいてください.

非対称モード(同位相振動モード)

音叉に書かれている振動数では振動しません.さらには,書かれている振動数よりも低い振動数で振動する場合もあります.音叉は一定の振動数(周波数)を出す装置ですが,音圧も一様であるかというとそうではありません.それを表したものが,下図(上記サイト内より抜粋)になります.
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歯を含む平面の方向で,もっとも音圧が大きくなっています.そして,

  • 基本振動モードの場合,おおよそななめ 45度の方向で音圧がゼロになり,
  • 非対称モードの場合,おおよそ 90度の方向で音圧がゼロになる.

ことが読み取れます.
先に挙げた「耳の近くで音叉を回す」ときに音が弱くなっているのは,このななめ 45度のとき or 90度のときだということになります.問1では疎密の様子が,点Aから順に疎→密→疎→密となりますが,この矢印のところにゼロとなっている箇所が必ずいるはずです*1.とすると,真ん中のおおよそ 45度の位置が音圧ゼロであると推測できます.

「同位相振動モード」は同位相だけ?

ここからが疑問点です.問1と同じ問題を「同位相振動モード」で出した場合,点Aと点Cでの疎密はどうなるの?という話です.先の音圧の分布を見れば,そもそも音圧ゼロなので干渉どころではないという話になります.
しかしこの事実(音圧の分布)を知らないとき,「点Aは密で点Cは疎(またはその逆)」なんて考えるでしょうか?音叉の(歯の)振動自体は直線BD方向ですから,それに直角な方向が非対称であるというのはおかしな話です.となると,「点Aと点Cはともに疎(または密)」と考えるのが自然で,音叉が同位相振動モードで振動していても音叉の角度によっては逆位相振動モード扱いになる可能性が出てきます.*2

「音叉」の問題点というか特徴

音圧の図にちょこっと書いていますが,音叉はちょうど電波のアンテナのように「四重極」や「二重極(ダイポール)」というふるまいをしています.これが「右と左で位相や疎密が同じ・異なる」という状況を生み出しています.また,指向性もこのふるまいにより生み出されるものとなっています.
逆に,あらゆる方向に一様な位相や音圧で発する「一重極(モノポール)」であれば,このような問題は起きなかったのでは?と思います.


音波は音波で「縦波」のトラップがあり,音叉は音叉で「重極」のトラップがある.そんな感じでしょうか.

*1:音圧が非連続になることはないから

*2:当然のことながら,音波は広がりをもっているので,音叉(音源)から広がって壁に反射したものの合成波を観測すると考えれば,この疑問点は解消されるのかもしれません.