みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

ラグランジュポイントを求めて,その安定性とは?

ここ最近よく見ていただいている以下のネタの補足的な内容になります.補足的と言いながらも,結構長いです.

ポテンシャルと安定性

「安定性」という言葉は,高校物理ではあまり聞きなれない言葉かもしれませんが,こちらも以下のネタで過去に登場しています.
 「大学への物理」から「大学での物理」へ…(大学入試物理問題の数理) - みをつくしのひとりよがり

ここでの内容をおさらいしておくと,万有引力が  \displaystyle{ f = \frac{Am}{r^k} }と表されるときの(有効)ポテンシャルを考えて,グラフに表しました(下図左).そして,グラフが下に凸ならば安定(オレンジ色),上に凸ならば不安定(青色)という話をしました.その安定性をもう少し見やすくするために,2次元化(ここでは曲面という面で表すという意味でそう呼ぶことにします)したものを図示しました(下図右).このようにすると, k \geqq 4のときには頂点にいると,そこからすぐに転げ落ちそうなイメージがつくかと思います.
同じようなことをラグランジュポイントについても考えようというのが,ここでの話になります.

有効ポテンシャルの 2次元表現(2023年京大物理第1問より)

そもそもポテンシャルって

上で登場しているグラフは,1つの天体により与えられるポテンシャルを描いています.これは球対称なポテンシャルであり,1つの変数(中心からの距離: r)で与えられます.そのため, y = f(x)のような関数として表すことができます.
ところが,ラグランジュポイントのように 2つの天体が登場すると,一方の天体からの距離だけでなく,どの方向(角度)を向いているかによってもポテンシャルの大きさが変わります.結果,3変数の関数として与えられることになります.この 3変数は,

  • 3次元の極座標: (r, \ \theta, \ \phi)であったり,
  • 3次元の直交座標: (x, \ y, \ z)であったりします.

また,2つの天体から受けるポテンシャルは,それぞれの天体からのポテンシャルの和として与えられます(重ね合わせ).
3次元のポテンシャルを描くことは難しく,強いていえば「ガスの濃淡のようなイメージ」という表現になるかなと,わたし自身は思っています.また,ポテンシャルはスカラー量であり,向きがなく強さでしか表さないということも重要です.このイメージを絵に表そうと頑張ったのですが,いい絵ができていません.このあと,ラグランジュポイントに関するポテンシャルの絵をいくつか挙げますが,それらは何かしらの座標を固定したときの絵になっています.そのことを頭の片隅に置いていてください.

ロッシュ・ポテンシャル=ラグランジュポイントを与える有効ポテンシャル

Wikipediaの「ラグランジュ点」の項目にも挙げられているものになります.
 ラグランジュ点 - Wikipedia

ここで挙げられている以下の式を具体的に計算し,グラフにするときのポイントも記していきます.
  U_{total}(\overrightarrow{r}) = U_{GE}(\overrightarrow{r}) + U_{GM}(\overrightarrow{r}) + U_{w}(\overrightarrow{r})

左辺は求めたいポテンシャルを表しています.右辺の各項についてみてみると,

  •  U_{GE}(\overrightarrow{r}):公転の中心となる天体:Eにより与えられるポテンシャル
  •  U_{GM}(\overrightarrow{r}):公転している天体:Mにより与えられるポテンシャル
  •  U_{w}(\overrightarrow{r}):遠心力により与えられるポテンシャル

天体Eと天体Mは,公転中心となる地球(erath)と公転している月(moon)をイメージした添字になっています.冒頭のネタでは,太陽(sun)と地球に対するラグランジュポイントを考えていました.そこは,対応付けをして考えてもらえばと思います.
3つ目のポテンシャルについては,重心からの距離を半径とする円運動の速さを用いて運動エネルギーを計算します.これは運動エネルギーですが位置に依存した量として与えられ,結果  U_{total}は有効ポテンシャルとして与えられます.

まずは 1次元で

太陽と地球を結ぶ直線上での様子を調べていきます.太陽の位置を原点とし,位置: rにある質量: \muの物体にはたらくポテンシャルを調べます.
第1項と第2項については,それぞれ以下のようになります.

  • 第1項: \displaystyle{ U_{S} = - G \frac{M \mu}{r} }
  • 第2項: \displaystyle{ U_{E} = - G \frac{m \mu}{| r-R |} }

第2項については,地球からの距離に対してポテンシャルが決まるので分母は絶対値をとる形になります.なお,第1項の分母は明らかに非負ですので,絶対値記号は付していません.このあたりは,後で出てくる次元を上げた式を見てもらった方ががわかりやすいかもしれません.

第3項についてですが,これは「重心まわりの回転運動に対する運動エネルギー」を計算します.1/2×(質量)×(速さの2乗)において,速さは重心まわりの円運動の速さで与えられることを踏まえて,以下のように求められます.
  \displaystyle{ \frac{1}{2} \mu \left( | r - R_G | \omega \right)^2 = \frac{1}{2} \mu (r - R_G)^2 \omega^2 }

さらに,冒頭に挙げている以前のネタの内容から, \displaystyle{ R_G = \frac{m}{M + m} R, \ \omega = \sqrt{ \frac{G(M + m)}{R^3}} }と与えられるので,それらを代入すると
  \displaystyle{ \frac{1}{2} \mu \left( r - \frac{m}{M + m} R \right)^2 \frac{G(M + m)}{R^2} = \frac{1}{2} \cdot  \frac{G(M + m) \mu}{R} \left( \frac{r}{R} - \frac{m}{M + m} \right)^2 }

3つの項を組み合わせると,1次元のロッシュ・ポテンシャルは以下のように求まります.
  \displaystyle{ U(r) = - G \frac{M \mu}{r} - G \frac{m \mu}{| r - R |} - \frac{1}{2} \cdot \frac{G(M+m) \mu}{R} \left( \frac{r}{R} - \frac{m}{M+m} \right)^2 }

ポテンシャルと力の関係

個人の感想にはなるのですが,高校物理では「力とポテンシャルの関係が間接的な関係」として捉えられているように感じています.中学理科でも出てくる「重力に対してある高さだけ持ち上げる仕事をすれば,その分位置エネルギー(というポテンシャルエネルギー)を得る」という感じで,仕事という物理量を介してつながっているように見えているということです.
この仕事とポテンシャルエネルギーの関係を微積物理として書き下すと,「重力に逆らって仕事をする」ので,
  \displaystyle{ \int_{r_0}^{r} \{-F(r)\} dr = U(r) }

積分区間については,「基準点である  r_0の位置から, rの位置まで仕事をした」と解釈してもらえばと思います.厳密には,3次元のベクトルとして表すところですが,いまは 1次元で考えているところなので,ここでも 1次元での表記としています.これらの両辺を  rで微分して整理すると,力とポテンシャルの関係が以下のように導かれます*1
  \displaystyle{ F(r) = - \frac{dU(r)}{dr} }

つまりは,「力はポテンシャルの傾きにマイナスをつけたもの」という関係があります.
もう一つ大事な点を挙げておくと,上の「そもそもポテンシャルって」にも記していますが,ポテンシャルはスカラーで,力はベクトルです.ですので,向きのないものから向きのあるものがうみだされているイメージになっています.力の向きにも決まりがあり,これは「勾配」とよばれるもので表されます.ざっくり言えば,その位置から見て一番急なところに向かっていくということになります*2

ここで,上の第3項の話に戻ります.第3項は遠心力により与えられるポテンシャルとのことでしたので,遠心力: f_wとポテンシャルの間には,
  \displaystyle{ f_w = - \frac{dU_w(r)}{dr} }

の関係が成り立ちます.遠心力は, rが大きくなる方向へはたらく力ですから, f_w > 0となります.それを満たすように, U_w(r)を考えると,
  \displaystyle{ U_w(r) = - \frac{1}{2} \cdot \frac{G(M+m) \mu}{R} \left( \frac{r}{R} - \frac{m}{M+m} \right)^2 }

のように,負号がつく形になります.

冒頭のネタではラグランジュポイントを力のつり合いから求めていましたが,上の内容からは「ポテンシャルの傾きが 0のところを探す」という話になります.そして,ポテンシャルを微分したもの(にマイナスをつけたもの)が力になると言っているので,ポテンシャルの式を微分すれば力のつり合いの式になるということも理解できるかと思います.
さらに,ただつり合っているといっても,ポテンシャルが上に凸か下に凸かで安定か不安定かが変わってきます.これは,ちょっと雑な表現ですが,ポテンシャルを 2階微分すればわかることになります.1階微分すれば力なので,さらに 1階微分してマイナスをつけるでも大丈夫です*3

1次元版のグラフ化

ロッシュ・ポテンシャルの式をもう少しいじります.いじり方としてはちょくちょく登場している「無次元化」を意識しておこないます.
  \begin{align} U(r) &= - G \frac{M \mu}{r} - G \frac{m \mu}{| r - R |} - \frac{1}{2} \cdot \frac{G(M+m) \mu}{R} \left( \frac{r}{R} - \frac{m}{M+m} \right)^2 \\ &= -\frac{G \mu}{R} \left\{ \frac{M}{r/R} + \frac{m}{| r/R - 1 |} + \frac{1}{2} (M + m) \left( \frac{r}{R} - \frac{m}{M + m} \right)^2 \right\} \\ &= -\frac{GM \mu}{R} \left\{ \frac{1}{r/R} + \frac{m/M}{| r/R - 1 |} + \frac{1}{2} (1 + m/M) \left( \frac{r}{R} - \frac{m/M}{1 + m/M} \right)^2 \right\} \end{align}

ここで, \displaystyle{ \frac{r}{R} = x, \ \frac{m}{M} = \gamma , \ U(x) = \frac{GM \mu}{R} \cdot u(x) }とすると,
  \displaystyle{ u(x) = - \left\{ \frac{1}{x} + \frac{\gamma}{| x - 1 |} + \frac{1}{2} (1 + \gamma) \left( x - \frac{\gamma}{1 + \gamma} \right)^2 \right\} }

と表されます.
 \gammaは太陽と地球の質量比を表していて,グラフの形状はこの質量比によって与えられることになります.具体的に値を求めてみると,
  \displaystyle{ \gamma = \frac{6.0 \times 10^{24}}{2.0 \times 10^{30}} = 3.0 \times 10^{-6} }

と非常に小さな値となります.ただ,この値をそのまま適用すると,グラフの起伏がわかりにくいので, \gamma = 0.1ぐらいとして描くのがいいと思います.
さらに, xについては, x = 0が太陽の位置, x = 1が地球の位置を表していることもおさえておいてください.

で,グラフを描くのですが,実はこのまま描いてはいけません(笑).以下のようにしてください.
  \displaystyle{ u(x) = - \left\{ \frac{1}{|x|} + \frac{\gamma}{| x - 1 |} + \frac{1}{2} (1 + \gamma) \left( x - \frac{\gamma}{1 + \gamma} \right)^2 \right\} }

第1項にも絶対値記号をつけています.これは,2つの天体からの影響を考えていることで,全体の系としては球対称でないことによります.そして, x < 0の領域に現れることとなる 3番目のラグランジュポイントである L3のために必要なものとなります.
このようにして描いたグラフは,以下のようになります.

ロッシュ・ポテンシャル1次元版 ( \gamma = 0.1)

図について,補足を以下に記しておきます.

  • 緑色の太い曲線が,ロッシュ・ポテンシャルを表しています.
  • 太陽と地球の位置に紫色の直線を入れています.
  • ラグランジュポイントの L1, L2, L3の位置に赤色破線の直線を書き入れています.それぞれの位置は,おおよそ  x = 0.72, \ 1.35, \ -0.95となっています.
  • 薄い緑色の曲線が複数ありますが,これらは太陽によるポテンシャルを表す  \displaystyle{ y = -\frac{1}{|x|} },地球によるポテンシャルを表す  \displaystyle{ y = -\frac{\gamma}{|x-1|} }となります.

このグラフは,L1〜L3を表す点で極大(上に凸)になっています.ということは,それぞれの点では不安定であることを示しています.力はつり合っている点ではあるが,ちょっとでもずれたら,そこから遠ざかってしまう点でもあるということになります.ラグランジュポイントは,実は「安住の地」のようなところではなかったのです.

2次元に拡張します

そうしないと,残っている L4と L5を見ることができないからです.
この「2次元」というのは,言い換えると「地球の公転面上の点におけるポテンシャルを調べる」ということになります.xy平面を公転面とし,公転面上の点におけるポテンシャルを  z = f(x, \ y)の形で表すことを考えます.
なんか難しそうに聞こえますが,平面上の点と太陽や地球,重心との距離のそれぞれを 2次元の形に置き換えていくだけです.
  \begin{align} U(x, \ y) &= - G \frac{M \mu}{\sqrt{x^2+y^2}} - G \frac{m \mu}{\sqrt{(x-R)^2+y^2}} - \frac{1}{2} \mu \left\{ \sqrt{ \left( x - \frac{m}{M + m} R \right)^2 + y^2 } \right\}^2 \cdot \frac{G(M + m)}{R^2} \\ &= - G \frac{M \mu}{\sqrt{x^2+y^2}} - G \frac{m \mu}{\sqrt{(x-R)^2+y^2}} - \frac{1}{2} \cdot \frac{G(M+m) \mu}{R} \left\{ \left( x - \frac{m}{M + m} R \right)^2 + y^2  \right\} \end{align}

1次元のときと同様に,「無次元化」の処理をおこない, x/R = x, \ y/R = yと改めて置き直して,
  \displaystyle{ u(x, \ y) = - \left[ \frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}} + \frac{\gamma}{\sqrt{(x-1)^2+y^2}} + \frac{1}{2} (1 + \gamma) \left\{ \left( x - \frac{\gamma}{1 + \gamma} \right)^2 + y^2 \right\} \right] }

こちらの式から,y座標を消したものが先の 1次元に対する表現になっていると見てもらえば,絶対値記号のわけも理解できると思います.この節のタイトルは「2次元に拡張」と書いていますが,ほんとうは「1次元に縮小していた」という方が正しい.もっと言えば,「そもそもは 3次元」なので,2次元も縮小された表現だと言えます.

ロッシュ・ポテンシャル2次元版 ( \gamma = 0.1)

緑色の面がロッシュ・ポテンシャルを表しています.また,いくつかポールのようなものがありますが,紫色は太陽と地球,赤色はラグランジュポイント×5を表しています.そして,2次元で見ると,全体的に上に凸になっている様子がわかります.よって,L4と L5も不安定な点であることが読み取れます.上記の Wikipediaでも,同じような図(ロッシュ・ローブとも呼ばれています)が登場していますが,それを自分で描くことができるというわけです.

さらに,3次元へ拡張するのですが,

以下のようになります.
  \displaystyle{ u(x, \ y, \ z) = - \left[ \frac{1}{\sqrt{x^2+y^2+z^2}} + \frac{\gamma}{\sqrt{(x-1)^2+y^2+z^2}} + \frac{1}{2} (1 + \gamma) \left\{ \left( x - \frac{\gamma}{1 + \gamma} \right)^2 + y^2 \right\} \right] }

z座標が追加されましたが,第1項と第2項にのみ追加されることになります. z = 0は公転面上(xy平面上)を表しているので,2次元版と同じになります.そして,この公転面からの「高さ」に応じてポテンシャル面の様相が変わっていきます. zがある程度大きくなると,第1項と第2項の効果は非常に小さくなり,遠心力で振り飛ばされるだけのポテンシャルになります*4


結果的に,ラグランジュポイントは 5点とも不安定という結論になりました.ただ,この「不安定」というのは,何も工夫をしないで,ポンとその点に物体を置いたときの運動についての話になります.上記の Wikipediaでも「狭義の安定性」として書かれています.逆に工夫をして,この点の近辺で特定の運動をおこなうことで,安定性を保つことができます(広義の安定性).
そして,このネタでは「ポテンシャルの傾き(勾配)が力を与える」ということにも触れました*5

グラフはいずれも Desmos | Graphing Calculatorを用いていますので,2次元版のグラフなんかは実際に描いて,見る角度を変えたりして曲面の様子を観察してもらえばと思います.

*1:さらに,厳密には力が保存力とよばれるものであることも触れなければなりません.基本的には,摩擦力が働かなければ力は保存力であると考えてもらえばよいかと思います.

*2:2次元,3次元になると,どの方向を向くかで傾きが変わってきます.「ポテンシャルと安定性」のところで示している図であれば,青色の有効ポテンシャルの「山」から少しズレた点を考えると,「 rが一定」=円周に沿って進むよりも,中心か無限遠に向かって進む方がより傾いていることが見えると思います.

*3:力の方向もきちんと意識した形で表現をした上での話です.

*4:第3項で表される上に凸の放物面が, z \to \inftyの極限として現れる.

*5:たとえば,静電気力による位置エネルギーすなわち静電ポテンシャルの傾きから与えられる静電気力(クーロン力)であったり,等圧線に対して空気が移動する.つまりは風が起きることにも,この考え方が当てはまります.