時間が空いたのですが,おまけの第3弾を書いていきます.たまたま,最近見かけたある問題をきっかけにしています.
問題
次の式を満たす実数 をすべて求めよ.
この問題は,次の数学オリンピック2009年予選問題を改題したものです.
実数 についての方程式
の解の総和を求めよ.
この予選問題を見ての所感(最初に考えたこと)をいろいろと書いてみると,
- 右辺の""という数字は,左辺の"係数の和":となんか関係がありそう.
- 左辺が整数なのだから,当然右辺も整数にならなければならない.よって,の形になることはわかる.
- 整数部分と小数部分に分ける()ことを考えた方がいいだろう.
- この"方程式"の解には,「負の場合」も存在するのだろうか?もし負の解が存在した場合,ちょうど になって「総和は 」なんてこともありえるかも.
- それとも,解は無限にあるのだろうか?それでも,総和が0となることは,まだ考えられる.
- 最後に,考えるまでもなく,は自明な解
こんなところでしょうか.
1.から,自明ではない解をまず1つは見つけることができます.そして,曲者なのは,4.です.結果,負の解は存在しないのですが,存在しないことを示しておかないとダメ.というか気持ち悪いですよね.
いま挙げている問題(改題)も,という関係から作っている問題です.そして,考え方は予選問題と同じです.これら「自明ではない解」「負の解」について,改題に沿ってまずは考えていくことにします.
自明ではない解
を代入してみると,左辺,右辺となってしまいます.でも,ちょっとぐらい の値を大きくしても,左辺の値は のままキープできます.なので右辺が補えるだけ大きくしてあげます.
ということで,という自明ではない解の1つが見つかりました.
ここで,をもとの式に代入してみると,
という と の関係式が導かれます.以降,この式が問題を解くキーになります.
のとき,(1式)の左辺にあるガウス記号の和は になっています.しかし,を大きくしていくと,の項から順に整数が生み出されていきます.その様子を調べていくことが,直接解を求めることになっていきます.
負の解
これが「ない」ことを示すわけですが,まずは「ないだろうなあ」と検討を付けられるところをちょっと書いておきます.過去のネタでガウス記号の性質というものを 3つほど挙げました.それらとは別に,次のような関係式も得ることができます.
(ただし,xは整数ではない.すなわち小数部分が0ではない数)
この式から,のグラフは原点対称ではないことがわかります.のグラフは,のグラフを原点を中心として 180度ぐるっと回したものよりもちょっと下になっているということです.一方,方程式の右辺は比例関数なので,グラフにすると原点対称になります.これらの情報を突き合わせると,負の部分ではグラフの共有点は存在しない,すなわち解が存在しないだろうということになります.
といっても,これでは論証に弱いので,ちゃんと示すことを考えます.と の関係式の(2式)を使います.(2式)の右辺をみたとき,の項はつねに になっています.改めて,右辺を書き直すと,
ここでガウス記号がもつ基本の性質 を適用すると,この式が 以上であることが示されます.よって,は 以上の整数であることが確定し,負の解は存在しないことが示されます.ここにも所感の1.で挙げた数のカラクリが効いてくることになります*1.
解を求める
あとは,の値ごとに の値を求めていくだけです.上の内容で,は必ず正の数として求まることがわかっているので,解は の個数だけ存在することになります.ガウス記号は不規則(それぞれの項は規則的になるが,それらの和は不規則になってしまう)になるので,表にまとめてあげるのがいいと思います.
結果,の組合せは となり,
が解となります.
数学オリンピックの予選問題も解き方は同じ
自明ではない解も,負の解も考え方は同じです.ということは,の個数だけ解が存在します.改題と違うのは「総和」さえ求まればいいので,の総和と の総和を足し合わせることを考えればよいことになります.しかも,の総和は単に ~の和を で割るだけなので,
と暗算でも計算できそうなものになります.を求めるところは力技になってしまいますね...
参考として,先に書いていたものと同じような「表」を載せておきます.
の項から順にどんどんと整数が生み出されるので,縦の並びは から書いています.が大きくなるに従って生み出される整数自体は大きくなります.最大の解は であり,総和は となります.
正直,改題の方はグラフを描けば,それでも求められてしまうかもしれません.ただ,予選問題はそういうわけにもいきません.最後は力技ではありますが,ある程度道筋をつけて整理する必要があります.
2015/11/1 補足
予選問題の最後ですが,別々に を求める必要はありませんでした.次の式から,そのことがわかります.
の総和は,の総和と先の表に書かれている整数部分の総和から求められます.の場合であれば,といった具合です.これがわかれば,表自体書かなくとも計算で求められそうです.記号の添字は でいいのですが、明示的にするために別の文字にしています.
*1:の係数がうまく合うようになっている