みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2019年センター試験物理第2問B」の補足

問4の終端速度の大きさに関する補足です.前回のネタの最後で,2次試験でも使えそうと書きました.ここではそのあたりの詳細を書き出して時間発展の様子を調べ,導体棒の速さが一定になることと導体棒に電流が流れなくなることを見ていきます.

図はもとの図の方がわかりよいかと思います

前回のメモで一度回路図を描き直していましたが,もとの図の方が見やすいので,そこへいろいろと物理量を定義して調べていきます.

  • 抵抗 rについて,流れる電流を  i_r(t)
  • 抵抗 Rについて,流れる電流を  i_R(t)
  • 導体棒を b(barの頭文字で)と呼ぶこととし,ここに流れる電流を  i(t),速さを  v(t)

とおきます.また,図のように,点 Pと点 Qを決めます.

「2019年センター試験物理第2問B」の補足

ここからは,キルヒホッフの法則(Kirchhoff's Law)を使います.

  1. 回路網の交点に流れ込む電流の代数和は 0である.
  2. 回路網の任意の閉じた回路に沿って 1周するとき,起電力の代数和は各部の電圧降下の代数和に等しい.(ただし,1周する向きに流れる電流を正とし,その向きに電流を流そうとする起電力を正とする.)
P→b→Q→r→Pの閉回路(右側のループ)

導体棒における誘導起電力は  B \ell vで与えられ,向きは逆(P→Qの向き)となっているので,キルヒホッフの第2法則より
  \begin{align} V - B \ell v &= i_r \cdot r \\ i_r &= \frac{V - B \ell v}{r} \end{align}

P→R→Q→r→Pの閉回路(左側のループ)

上での結果を用いて,
  \begin{align} V &= i_r \cdot r + i_R \cdot R \\ i_R &= \frac{B \ell v}{R} \end{align}

点Pにおけるキルヒホッフの第1法則

 i_r = i_R+ iとなるので,
  \displaystyle{ i = i_r - i_R = \frac{V}{r} - B \ell v \left( \frac{1}{r} + \frac{1}{R} \right) \ \cdots (式\mathrm{A})}
 

運動方程式を立てます

導体棒の質量を  mとして,運動方程式を立てます.時刻: tの瞬間において導体棒は  f = B \cdot i(t) \cdot \ellの力を進む方向に受けるとして,
  \displaystyle{ m \frac{dv}{dt} = B \cdot \left\{ \frac{V}{r} - B \ell v \left( \frac{1}{r} + \frac{1}{R} \right) \right\} \cdot \ell }

終端速度の大きさを求めるだけであれば,加速度を 0とすればいいので,(左辺)=0として次のように求められます.
  \displaystyle{ v(\infty) = \frac{VR}{B \ell (r+R)} }

これを(式A)に当てはめれば,
  \displaystyle{ i(\infty) = \frac{V}{r} - B \ell \cdot \frac{VR}{B \ell (r+R)} \cdot\left( \frac{1}{r} + \frac{1}{R} \right) = 0 }

も導かれます.

運動方程式の解

ちょっと文字が多いので, B \ell \equiv \alpha, \ 1/r + 1/R \equiv \betaとおいて書き換えます.
  \displaystyle{ m \frac{dv}{dt} = \alpha \left( \frac{V}{r} - \alpha \beta \cdot v \right) }

さらに, \displaystyle{ u \equiv \frac{V}{r} - \alpha \beta \cdot v }と置くと, \displaystyle{ dv = - \frac{du}{\alpha \beta} }となるので,
  \begin{align} \cfrac{dv}{ \cfrac{V}{r} - \alpha \beta v} &= \frac{\alpha}{m} \cdot dt \\ \frac{du}{u} &= - \, \frac{\alpha^2 \beta}{m} \cdot dt \\ \log{u} &= - \,  \frac{\alpha^2 \beta}{m} \, \cdot t  + \mathrm{Const.} \\ u &= C \cdot e^{ - \, \displaystyle{ \frac{\alpha^2 \beta}{m} \cdot t }}\end{align}

 C積分定数の名残です. uをもとに戻して,
  \begin{align} \frac{V}{r} - \alpha \beta \cdot v &= C \cdot e^{- \, \displaystyle{ \frac{\alpha^2 \beta}{m} \cdot t }} \\ v(t) &= \cfrac{\cfrac{V}{r} - C \cdot e^{- \, \displaystyle{ \frac{\alpha^2 \beta}{m} \cdot t }}}{\alpha \beta} \end{align}

 v(0) = v_0として  Cを求め,さらに置いていた文字をもとに戻すと,
  \displaystyle{ v(t) = \cfrac{\cfrac{V}{r} - \left\{ \cfrac{V}{r} - B \ell \left( \cfrac{1}{r} + \cfrac{1}{R} \right) \cdot v_0 \right\} \cdot e^{- \, \displaystyle{ \frac{(B \ell)^2 \left( \frac{1}{r} + \frac{1}{R} \right)}{m} \cdot t } }}{B \ell \left( \cfrac{1}{r} + \cfrac{1}{R} \right)} }

これを(式A)に代入すると,
  \displaystyle{ i(t) = \left\{ \frac{V}{r} - B \ell \left( \frac{1}{r} + \frac{1}{R} \right) \cdot v_0 \right\} \cdot e^{- \, \displaystyle{ \frac{(B \ell)^2 \left( \frac{1}{r} + \frac{1}{R} \right)}{m} \cdot t } }}

指数部分(eの肩の部分)の絶対値が大きくなれば早く収束するので,磁束密度が大きくなる/導体棒が長くなる/導体棒が軽くなる/2つの抵抗が小さくなるといったことで,終端に達する時間を短くすることができます.*1


最後の解を求めるまではないにしても,キルヒホッフの法則を使い,終端速度の大きさやそのときの電流の大きさなど( i_r(\infty), \ i_R(\infty)など)を求める問題はあってもよいと思います.キルヒホッフの法則を使う練習問題としてはなかなかよいものかとも思います.
ただし,前回のネタ中にも書いていましたが,センター試験本番の中でこれをやってると間に合わないと思います.「電流が流れなくなった」という記述をうまく使いこなすしかないかと.

2019/01/31追記

もう少し考察を進めたものを以下にあげました。
「2019年センター試験物理第2問B」の補足~その2~ - 理系男子の独り善がり
 

2019/01/28追記

記事公開後も式の修正などをしていますが,回路図の見方として,次のようなことを考えることもできます.
 「導体棒において誘導起電力: B \ell vが生じていること」を「電圧: B \ell vの電源が,もとからある直流電源 Vと並列に接続されている」とみなす.

このように電圧の異なる 2つの電源が並列接続されたときの PQ間の電位差がどうなるかを考えてみます.P→b→Q→r→Pの閉回路(右側のループ)において,

  • 起電力の代数和は, -B \ell v + V
  • 電圧降下の代数和は, i_r \cdot r

よって, -B \ell v + V = i_r \cdot r.これは先に書いている内容に同じです.この結果を用いて,P~r~Qの経路における電位差(起電力と電圧降下の「差」)を計算すると,
  V - i_r \cdot r = B \ell v

となっています.
この並列接続の電源を 1つの電源と見立てて,そこへ抵抗 Rがつなげられているというように見てあげれば,
  i_R \cdot R = B \ell v

という式が立てられます.これも,先の内容(P→R→Q→r→Pの閉回路(左側のループ)の場合)と同じになっています.
異なる起電力の電源(電池)が並列接続されているというのは,あまり見かけないかと思います.このような考え方も知っておいていいかということで追記しました.

*1: tの係数の絶対値の逆数は,昨年の京大物理第1問で登場した緩和時間っぽいものに相当します.