熱気球の問題についていろいろ書いてきましたが,もうちょっと突っ込んだ内容を書いてみようと思います.熱気球が浮く仕組みでも書いたように,気球内外の大気の重さのギャップによって気球は浮くことになります.もうちょっと整理して書いてみると,
- 気球にはたらく浮力は,その高度での大気の密度によって決まり,
- そのときの気球内の空気の質量+荷台の質量を上回っていれば浮く.
- ただし,気球内外の圧力は,その高度での大気の圧力に等しくなっている.
ということでした.高度によって,気球のまわりにある大気の密度や圧力が変わるところがポイントとなります.ここでは,そのあたりをいろいろと掘り下げていきます.この内容は,気象予報士を目指す人が必ず勉強するところみたいです.
静水圧平衡
言葉からすると「水圧」を求めるための考え方なのですが,同じ流体である大気に応用して大気圧と高度の関係を求めるものです.「カメ」が,親ガメ、子ガメ、孫ガメ・・・と乗っかっていくと,当然下にいるカメに大きな力がかかりますし,下にいるカメほど大きくないと平衡が保てません.カメを大気に置き換えたとき,「大きさ」は一定体積内の重さ=密度として表されることになります.
ここでは,高度:にある大気に対するそれぞれの量が高度の関数になっているとします.
- 圧力:
- 温度:
- 密度:
また,重力加速度も高度に依存するとして,と表すことにしておきます.このについては,重力加速度の話で近似式を以下のように導出しています.
ここで,は地表における重力加速度,は地球の半径を表しています.
さて,立てるべき式は簡単なものです.薄い板状(厚さ:Δh)の空気が,その高度を保つための力のつり合いを考えます.
これは熱気球が浮く仕組みリターンズでもおこなっている計算です.
は後で具体的な数値を計算しますが,は非常に小さな数となります.つまり,の2次の項は影響が小さいと判断されます.
結果,大気の温度は高度の一次関数(高度が上がるにつれて,温度は下がる)ということになります.そして,その「下がり具合」が として与えられています.具体的に計算してみると,
となります.1mあたり約0.01度⇒100mで約1度下がるというわけです.ところで,理科や社会の授業では「100mで約0.6度下がる」と聞いたかと思います.この違いはなんでしょうか?
乾いていれば1度下がる
の式に (比熱比)が含まれていることがポイントです.空気の比熱比として,上の式では「7/5=1.4」という値を代入しています.まず,このことについて説明しておきます.
(:定圧モル比熱、:定積モル比熱)より,2原子分子については
となります.大気において「2原子分子」とは酸素と窒素のことです.平均分子量:も酸素と窒素が1:4の割合で混合しているとして計算をしていました.つまり,空気は酸素と窒素でその大部分を占めているという前提の上で計算していたということです.
ところが,日本は「温暖湿潤気候」と呼ばれるように,比較的湿気の高い地域です.湿気とは水蒸気,すなわち水分子が凝縮した水滴が混合することです.たとえば,水分子の定積モル比熱は6R/2,定圧モル比熱は8R/2となります.空気と水蒸気が(1-α):αの割合で混合したとすると,
となり,は単調減少の関数となります(や のとき値はどうなっていますか?).水蒸気が混ざるほど,比熱比は小さくなるということです.ただし,上にも書いているように水蒸気は水分子が凝縮した塊であり,理想気体からは,かけ離れている存在ともいえます.ですので,比熱比にしても,にしても,この計算だけで値が決まるものではなくなってしまいます.
結果論的になりますが,水蒸気が混合することでΓの値は小さくなり,そのとき導かれる値が「100mで約0.6度下がる(Γ≒0.0065)」ということになります.
このように大気の湿度によって温度変化の度合いが変わることから,ある気象現象が説明できます.それについては,また後ほど.
大気の圧力と密度
上では静水圧平衡の考え方から,温度と高度の関係を求めました.それを途中の式に代入すれば,圧力と高度,密度と高度の関係も導き出すことができます.
こうやって見ると,温度の式だけやたらと簡単ですね.
ちょっと検索してみると,「標高から気圧を求める」や「気圧から標高を求める」といった公式が書かれているところがいくつか見つかります.それらの公式と上の式を見比べてみるのも,一つの考察だと思います.
そして,これらの式を用いれば,気球の問題もより厳密に考えることができるということになります.
次回では,上でも少し書いている「大気の湿度によるΓの違い」から説明される気象現象とそれに関連した熱力学的な内容を書きたいと思います.