国公立大2次試験を受験された方,お疲れ様でした.まだ終わったわけではないですが,まずは一度緊張を解いてもらえればと思っています.といいつつ,先に書いていたネタ*1を落としておきます(笑).
前回の物理[III]に続いて,電磁気の問題も取り上げておきます.といっても,運動をともなっているので力学の要素も強い問題です.ポイントは,ちょっとたいそうな言い方にはなりますが,以下のようなところだと思います.
話の便宜上,以下のようにパートに分けて,それぞれに名前をつけておきます.
(II-1) 小球が点Pで静止するとき
(ア) 点電荷Bの電気量
これは力のつり合いを考えるだけです.とはいえ,すでに「斜め方向の力」が加わっているので,x軸方向に分解してあげる必要があります.点電荷Bの電気量を として,ここではあえてベクトルとして表記しておきます.
x成分の和がゼロとなることから を求めます.
(イ) 点Pに作られる電位
これはスカラー量(向きのない量)ですね.そのまま和を考えて,
(ウ) 点Pにおける電場の強さ
電場(電界)とそこに置かれた電荷にはたらく力の関係は,として与えられます.いま,x軸方向は力がつり合ってるのでゼロであり,y軸方向の成分だけを考えればよいことになります.
あとは,y成分の絶対値をとるだけです.
ここまでは確実にとっておきたいところですね.
(II-2) 点電荷Bの電気量を変化させ,小球を往復運動させるとき
ここから少しややこしくなってきます.x軸上の点は図で描いておいた方が良いでしょうね.以下では,小球と点電荷Bとの距離を と表して使います(答えとなるところでは,戻すようにしてます.).決して,定数ではないことに注意してください.
また,(II-1)と重複する物理量については,ダッシュ(')をつけておきます.
(エ) 合力のx成分
上で と置きましたが,と置いて考える手もあります(ここでのXは小球の位置を表す点).とはいえ,結局は になるので...
ここでは,x成分だけを抜き出して書いておきます.
(オ) 小球の静電気力による位置エネルギー
そのままですね.
(カ) 速さが最大となったとき
ここぐらいからが分かれ目なのでしょうか?この小球の運動は,単振動ではありません.が,速さが最大となるのは力が加わっていないとき,すなわち合力がゼロのときとなります*2.合力がゼロなので,はつり合いの位置になっています.
よって,「(エ)で求めた合力が,のときにゼロになる.」という条件式を解いてあげることになります.
(キ) 小球の速さの最大値
これもなかなか考えにくい問題かもしれません.しかし,力学的エネルギー保存則を使うだけです.
(における力学的エネルギー)と(点Pにおける位置エネルギー)とが等しいとして,
(は求めたい速さの最大値)
この式へ(カ)で求めた を代入します.
(II-3) 点電荷Bの電気量を(II-1)のときに戻し,点電荷Aの電気量を変えたとき
このようにしたところ,『同じ区間を往復運動した』というのです.この運動をイメージするときに注意すべきことは,運動の速度(速さ)は違うということです.
(ク) 点電荷Aの電気量
直感的にもわかるかもしれませんが,点電荷Aと点電荷Bの電気量の比が(II-2)のときと変わらないことが条件となります.
点電荷Bの電気量は と 1/8になっているので,点電荷Aの電気量も 1/8にすればよいことになります.
式でいじる前に,もう少し直感的な話をしておくと,点電荷から小球にはたらく電磁気力はそれぞれ,点電荷がもっている電気量に比例しています.ですので,その力の比が同じになっていれば「同じような」運動をすることがイメージできるかと思います*3.「同じような」と言っているのは,上でも書いているように運動の速度は違うという意味を踏まえてのことです.
少し式をいじっても示しておきます.点電荷A,Bの電気量をそれぞれ任意の量である とおいて,力学的エネルギー保存則の式を書き下すと,
(は位置:における小球の速度を表しています.)
往復運動する区間が同じということは,としたときの の方程式が同じ解をもつ.ということになります.を代入して整理すると,
両辺を で割ると(別に割らなくてもいいといえばいいのですが),
この方程式(の解)が (II-2)のときと (II-3)のときとで同じになって欲しいと言っているので,電気量の比である が同じ値になってくれということになります.
ちなみに,この方程式は (II-2)のときの値を代入して整理すると,
と因数分解されます(は自明な解).さすがに,後ろの項から与えられる 3次方程式は簡単には解けず,となります(他の2解は負の数).
√が消えるところがあるとはいえ,問題の構成の割には面倒な計算が続く問題だったかと思います.ちなみに,最後の(ク)というか(II-3)ですが,わたしは「相似」のイメージをもっています.
2022/04/03追記
(II-2)以降で出てくる「往復運動」について,少しおまけを書いておきます.
[ク]点電荷Aの電気量 のところで記している力学的エネルギー保存則の式を変形すると,
この式の右辺を とおいて,グラフを描いてみると以下のようになります.
青色の点線で記されているグラフは,を解に持つ 2次関数のグラフになります.つまりは,今回の往復運動が単振動であれば,このようになっていたというわけです.今回の問題では,赤線のグラフのように最小値をとる位置が左にずれたものとなっています.
ところで,このグラフは右辺にマイナスをかけて(あえて とおいて)上下反転(x軸に対して対称移動)したものになっています.このように反転させて描くと,この曲線に沿って球が転がる様子を考えることで,その質点(小球)の運動をイメージしやすくなります.たとえば,以下のようなことが読み取れます.
- 最小値をとる点がずれていることにより,最小値よりも左側の方が,右側よりも運動が速くなることがイメージできると思います.(ずれている分だけ,傾斜が急になっている.)
- (II-2)と(II-3)との違いは,グラフの「深さ」の違い(赤色の実線と波線の違い)となって現れます.これは右辺の先頭に付いている に依存しています.そして,深さが浅くなると,それだけ運動の速さが小さくなることになります.