みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2023年京大物理第3問」のメモ

京大さん第3問は,波動に関する問題ですが,なかなか見かけないタイプの問題だと思います.下手をすると,初っ端から意味を捉えられずに全敗という可能性もある問題だと思います.

  • 電場の振動する方向を,偏光の方向と呼びます.これは一般的にもこのように定義されることが多いです.
  • その電場すなわち偏光の方向は,直交する方向の成分として分けて考えることができます.

で,偏光板の役割についてですが,たとえば図1において入射光が  (0,\ E,\ 0)という成分でもって入射したとき,そのベクトルを透過軸と透過軸に垂直な方向とで分解すると,透過軸方向の成分の大きさは  E \cos{\theta}として与えられます.そして,この方向の成分が透過していきます.図1はあくまでも「透過した後の図」になっているので.そこにも注意です.
まず,これがわからないと,初っ端からこけます...

そして,下線で強調されている文章ですが,光検出機は電場の振幅の2乗に比例するとしか書いていません.ただ,この「電場の振幅」が偏光板によって上で書いているように変わるという話になります.

(1) 2枚の偏光板

[あ] 上で書いている内容がほぼ答えにはなっているのですが,改めて書いておくと,

  • 仮に,偏光板AとBの間に光検出器を置いてみると,そのときの信号強度は  I_0になっています,(図1と同じだから)
  • そして,偏光板Bを通過すると,電場の振幅は  \cos{\theta_B}倍に減衰します.

ですので,光検出器の信号強度は,その2乗倍である  \cos^2{\theta_B} \times I_0となります.

[い]  \theta_A = \theta_Bにすると,Aを通過したものがそのままBも通過するので  1 \times I_0となります.

(2) 複数の偏光板

[う] (1)の後半でも見たように,偏光板の「相対的な角度」が通過後の振幅に関与することを頭にいれておけば,A→C,C→Bはそれぞれ同じ  \displaystyle{ \frac{\pi}{4} }だけズレているので,
  \displaystyle{ \cos^2{ \frac{\pi}{4} } \times \cos^2{ \frac{\pi}{4} } \times I_0 = \frac{1}{4} \times I_0 }

[え] 一気に  N枚まで増えますが,それぞれの偏光版のズレは同じ  \displaystyle{ \frac{\pi}{2N} }となっているので, \displaystyle{ \cos^{2N}{\frac{\pi}{2N}} = \left( \cos^2 {\frac{\pi}{2N}} \right)^N }となります.

[お]  N=3のときは,具体的に代入して,
  \displaystyle{ \left( \cos^2{\frac{\pi}{6}} \right)^3 = \frac{27}{64} }

[か]  N \rightarrow \inftyとするための近似大会が開催されます.与えられている近似式が微妙な形をしていますが,とりあえず変形をしていくことを考えてみると導けると思います.いったん, \displaystyle{ \theta \equiv \frac{\pi}{2N} }とおいて,
  \begin{align} \left( \cos^2{\theta} \right)^N &= \left( 1 - \sin^2{\theta} \right)^N \\ &\fallingdotseq \left( 1 - \theta^2 \right)^N \\ &= \left\{ 1 - \left( \frac{\pi}{2N} \right)^2 \right\}^N \\ &= \left\{ 1 + \frac{- \frac{\pi^2}{4}}{N^2} \right\}^N \\ &\fallingdotseq 1 - \frac{\pi^2}{4} \frac{1}{N} \end{align}

 N \rightarrow \inftyとすると,となり合う偏光板での減衰が 0になる( \cos{\theta} \rightarrow 1)ということからも,光強度を減衰することなく回転させることができるという話になります.

(3) 方向により屈折率が異なる媒質

[き]〜[こ] 光路差(光学的距離の差)と逆位相(弱め合う条件)の話を書いています.光学的距離は(屈折率)×(距離)で与えられ,弱め合う条件を書き下せば,
  \displaystyle{ | n_x - n_y |d = \frac{\lambda_1}{2} (2m+1) }

[さ] 上の式において, dが最小となるのは  m=0のときなので
  \displaystyle{ d_0 = \frac{\lambda_1}{2 | n_x - n_y |} }

以下で示す図でもなのですが,『このとき,電場の振幅ベクトルの x軸方向成分が,透明物体を通過する前と変わらず  E_xだとすれば』という条件が効いています.(x軸方向にも屈折率があるので,x軸方向成分も変わると考えるのが普通)

問1 角度を変えたときの変化

結局は,「2枚の偏光板の間で,どれだけ偏光の方向が変わるのか?」という話になります.図を見てもらえばわかるとおり, \pi - 2\thetaだけ変わることがわかります.よって,その余弦の2乗をとって, I (\theta)= I_0 \cos^2{(\pi - 2\theta)} = I_0 \cos^2{2\theta}と与えられます.

2023年京大物理第3問(3)

(4) 媒質の厚みをもたせたとき

[し] 光路差を計算すると, \displaystyle{ | n_x - n_y | \times 20 d_0 = \frac{\lambda_1}{2} \times 20 }となります.これは強め合う条件となっており,減衰しないので強度は変わりません.

問2 波長を変えたとき

今度は入射光の波長を変えてみます.光路差は上のとおりで,それが  \lambda_2の半波長の奇数倍になるのですから, kを 0以上の整数として,
  \begin{align} \frac{\lambda_1}{2} \times 20 &= \frac{\lambda_2}{2} \times (2k+1) \\ \lambda_2 &= \frac{20}{2k+1} \lambda_1 \end{align}

よって,波長の差は,
  \begin{align} \Delta \lambda &= | \lambda_2 - \lambda_2 | \\ &= \left| \frac{20}{2k+1} - 1 \right| \lambda_1 \\ &= \frac{| 19-2k |}{2k+1} 
 \lambda_1 \end{align}

これの最小値を求めさせるって絶妙な難しさがありますね.分母にも  kがあるのですが, k \leqq 9までは単調減少, k \geqq 10では単調増加であることがわかります.よって,最小値の候補は  k = 9, \ 10となります.分子は同じ値になりますが, k = 10の方が分母が大きい値となるので, \displaystyle{ \Delta \lambda = \frac{1}{21} \lambda_1 }が最小値となります.


長い状況説明の文章から,何が起きているのかを可視化できるかがポイントだと思います.最後の最小値の評価は,ちょっとクセありかなと.こういう式を用いた内容を読み込めば,現象への理解も深まると思います.