みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2023年東大物理第3問」のメモ

気になっていた東大さん第3問です(東大さんの物理の問題は初めて書きます).最近流行り(?)の風船の問題になっています.で,正直言って,IIIの(1)まで解ければ十分じゃないかと...

I 風船を少しだけ膨らませたときの仕事と風船内部の圧力

ここの内容は,聞いてくる順番は違いますが,昨年書いた同志社大の問題と一緒です.( K \sigmaに置き換えただけ)
miwotukusi.hatenablog.jp

II つながれた 2つの風船

よく科学クイズでも出てくる「このあとどうなる?」的な問題です.

(1) このあとどうなる?

圧力の関係を考えるだけです.Iの結果から風船の半径が小さいほど圧力は高くなるので , p_{\mathrm{A}} > p_{\mathrm{B}}より
 『弁を開くと期待は管を通り,半径の[小さい]風船からもう一方の風船に移る.十分時間が経った後の風船は,片方が半径  r_{\mathrm{C}}で,[他方はしぼみきっている].』

(2) 十分時間が経った後の風船

気体の物質量が変わらないことを利用します.
  \begin{align} n_{\mathrm{A}} + n_{\mathrm{B}} &= n_{\mathrm{C}} \\ n_{\mathrm{A}} RT + n_{\mathrm{B}} RT &= n_{\mathrm{C}} RT \\ p_{\mathrm{A}} V_{\mathrm{A}} + p_{\mathrm{B}} V_{\mathrm{B}} &= p_{\mathrm{C}} V_{\mathrm{C}} \\ \left( p_0 + \frac{2 \sigma}{r_{\mathrm{A}}} \right) \cdot \frac{4}{3} \pi {r_{\mathrm{A}}}^3 + \left( p_0 + \frac{2 \sigma}{r_{\mathrm{B}}} \right) \cdot \frac{4}{3} \pi {r_{\mathrm{B}}}^3 &= \left( p_0 + \frac{2 \sigma}{r_{\mathrm{C}}} \right) \cdot \frac{4}{3} \pi {r_{\mathrm{C}}}^3 \end{align}

ここから, \sigmaを導きます.
上で挙げている同志社大の問題の追記にもある 「2019年東京慈恵会医科大医学部物理問題1」のメモ - みをつくしのひとりよがりにも,同様な考え方でこのような複雑な形をした解答がありました.

III 係数も風船の半径に依存する場合

係数の式から圧力は以下の式に従うことになります.
  \displaystyle{ p(r) = p_0 + 2a \frac{r - r_0}{r^3} \ (r \geqq r_0 > 0) }

この関数のグラフぐらいは描いておいてあげてもよかったのでは?と思ったりしています...

(1) このあとどうなる?リターンズ

IIの内容と照らし合わせると,少ししぼませた後,しぼまされた方の風船からもう一方の風船に気体が移るようになればいいことがわかります.(逆に,しぼまされた方の風船に気体が移るようになると,もとに戻ってしまう.)
これを端的に式に表せば*1
  p(r_{\mathrm{D}} - \Delta r) > p(r_{\mathrm{D}})

( \Delta r > 0は微小な半径の変化)となります.
  \begin{align} p_0 + 2a \frac{(r_{\mathrm{D}} - \Delta r) - r_0}{(r_{\mathrm{D}} - \Delta r)^3} &> p_0 + 2a \frac{r_{\mathrm{D}} - r_0}{{r_{\mathrm{D}}}^3} \\ \cdots \\ (2 r_{\mathrm{D}} - 3 r_0) {r_{\mathrm{D}}}^2 \Delta r &> 0 \end{align}

 \cdotsの部分は, p_0を消去して,分母を払って,2次以上の微小量を無視して変形をします.結果, \displaystyle{ r_{\mathrm{D}} > \frac{3}{2} r_0 }となります.

グラフで考えると,単純に言えば「スタート( r = r_{\mathrm{D}})となる点が山(最大値)の右側にあるのか,左側にあるのか」という話になっています.それは,「半径が小さくなる方が圧力が上がり,半径が大きくなる方が圧力が下がるのは,どこからスタートしたとき?」という問いに言い換えられます.
そして,圧力が等しくなるまでその変化が続き(図中の白抜の丸印からスタートしている様子を見てください),最終的には,図の緑色の線のように 2点を結ぶ直線が水平になるようになります(圧力平衡).今度の風船は,IIのようにはしぼみきりません.

2023年東大物理第3問 III 圧力と半径のグラフ
(2) 平衡状態になった後,暖めると?

順を追って書いていきます.

  1. 管でつながれた風船を暖めると(物理的な言い方だと「系全体を考えると」),全体として体積が大きくなります.
  2. また温度を上げた後も,新たな等しい圧力となる平衡状態すなわち別の(高さの)水平な直線をとるようになります.
  3. つまりは,その水平な直線が,もとの場所よりも上に動くのか(内圧が上がるのか)?下に動くのか(内圧が下がるのか)?という話になります.
  4. そこで,上に動かすとき,下に動かすときのどちらで全体の体積を大きくできるのか?を考えます.
  5. 水平な直線を動かすとき,半径が大きい方と半径が小さい方の増減は逆になっています(水平な直線を上に動かすと,半径が大きい方はその半径が小さくなり,半径が小さい方はその半径が大きくなる.下に動かすときはその逆).なので,その差し引きでの変化を考える必要があります.
  6. で,グラフを見てみると,圧力の変化に対する半径の変化は,山の右側 \displaystyle{ \left( r > \frac{3}{2}r_0 \right) }の方が山の左側 \displaystyle{ \left( r < \frac{3}{2}r_0 \right) }よりも大きな変化をします(グラフの傾きが緩やかだから).
  7. そこから,水平な直線は下に動く方が体積が大きくできることがわかります.結果,内圧は下がるということになります.

いろいろな解説が書かれていますが,結局は半径が大きい方と半径が小さい方での変化の割合の違い(から差し引きを考えること)を把握しないと結果が導けない内容になっています.

2023/03/13追記
(2)でも出てきた式を考えて,小さい方の風船を添字  _1,大きい方の風船を添字  _2で表すことにすると,
  p_1 V_1 + p_2 V_2 = nRT

右辺の  Tの増加に対して,双方の  V_i \ (i=1, \ 2)が増加するのであれば,双方の  p_iも減少するで話は終わるのですが,そうではない話になっています.
また,ここでは  p_1, \ p_2を異なる値のように書いていますが,これは暖めた直後は平衡状態ではないことを表しています.グラフで言えば,(2つの風船の状態を表す点を結んだ直線という意味での)緑色の線が少し傾くということです.大きい方の風船がさらに大きくなるので,一時的に緑色の線は右下がりになります.その後,小さい風船から気体が移りつつ,圧力が下がり平衡状態となります.
平衡状態になった後の式を考えると,
  p' (V_1 + V_2) = nRT

となり,こちらの式の方が  V_i \ (i=1, \ 2)がどのように振る舞うのかという話を見通しやすいのかもしれません.

(3) 今度は温度を下げます.

(2)と逆になるので,温度を下げると水平な直線は上に動きます.そのまま, \displaystyle{ r = \frac{3}{2} r_0 }で等しくなります(グラフに接する状態).この時点で [4]か [6]に絞り込まれます.
そして,その等しくなる様子は緩やかに変化していくので,[6]のグラフとなります(だいぶ曖昧な...).
ここで圧力は等しくなるので,そこからは同じ圧力で  r = r_0に向かっていきます(グラフの山の左側を  r_0に向かって動いてくる) .


グラフを描かないといけないというのは,微分を使うということになるので,なかなかハードルの高い話になると思います.用いて議論をしてもいいのか?という判断にも迷うところです.上では,微分は出さないような形にはしていますが,「傾きが緩やか」などところどころに顔を出しています.
冒頭にも書いていますが,III (1)までは素直に解ける問題だと思います.


2023/03/16追記
完全に蛇足なオマケです.
平衡状態のときの  r_1, \ r_2 \ (r_1 < r_2)の関係は以下のように導くことができます. p(r_1) = p(r_2)より
  \begin{align} p_0 + 2a \frac{r_1 - r_0}{{r_1}^3} &= p_0 + 2a \frac{r_2 - r_0}{{r_2}^3} \\ (r_1 - r_0) {r_2}^3 - {r_1}^3 r_2 + r_0 {r_1}^3 &= 0 \\ (r_2 - r_1) \left\{ (r_1 - r_0) {r_2}^2 +(r_1 - r_0) r_1 r_2 - r_0 {r_1}^2 \right\} &= 0  \end{align}

中括弧の中の2次方程式を解けば, r_i > r_0 > 0より
  \displaystyle{ r_2 = \frac{r_1}{2} \left( -1 + \sqrt{ 1 + \frac{4 r_0}{r_1 - r_0} } \right) }

上の3次方程式には自明な解( r_1 = r_2)が含まれているので,その因数を括り出せば2次方程式が現れるという流れです.
この結果を2023/03/13で追記した式に代入すれば,温度: Tを小さい方の風船の半径: r_1のみで表すことができます.って,これ以上は計算したくないですね...
と思ったのですが,グラフを描くぐらいはできました.

2023年東大物理第3問 III(3) 温度と半径のグラフ

*1:2023/04/12追記:いろいろな方の解説を見ましたが,ほとんどの方が「 p(r)のグラフを描いて傾きが負の位置」となっていました.わたし自身は,ここで書いている式が IIの流れも踏まえていて,物理的な意味からの立式にもなっていると思っています.ということもあって,ここまではできるんじゃないの?と冒頭に書いている次第です.III (2)以降の流れを考えると,結局はグラフの話はせざるを得ないのですが.また,この式については,以下のネタにもう少し追加の内容を書きました. 「大学への物理」から「大学での物理」へ…(大学入試物理問題の数理) - みをつくしのひとりよがり