読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

理系男子の独り善がり

仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

ヘリコプターの物理

Phys-Dyn

以前,気球に関するネタを挙げましたが,今回はヘリコプターです.どちらも「浮かぶ」ものですが,ちょっと考え方が違います.

 

なぜ,ヘリコプターは浮かぶのか?

気球は,浮力(アルキメデスの原理)を利用して浮かんでいます.気球の重さ(気球内の空気の重さ+荷台の重さ)を浮力が上回ればよいという条件でした.ヘリコプターは,ローター(メインローター)により空気を下に押し出すことで浮力を得ます.これが基本原理です.ヘリコプターにはもう一つ「テールローター」と呼ばれるものがありますが,これはメインローターが回転することにより,機体がその反作用でメインローターとは反対方向に回転してしまうのを抑える役割を持っています.

f:id:miwotukusi:20141005205403p:plain

 

これを式にして表すわけですが,以前に挙げた運動方程式のとらえ方を使います.つまり,運動量の時間変化が力になるということです.これは力積と運動量の式からも得ることができます.

f:id:miwotukusi:20141006012904j:plain
気体(物質)を噴き出して進むという機構は,ロケットと同じです.ロケットの問題でも運動量保存則を考えますよね.ロケットは燃焼させた物質を直接噴き出すことで推進力を得ますが,ヘリコプターの場合には燃焼によりエンジンを動かし,それがローターを回転させて空気を押し出すことで推進力を得ています.
 

ここからいろいろと式をこねくり回します.そこで用いる変数を先に列記しておきます.

  • ヘリコプターの重さ:M
  • 空気の平均分子量:μ
  • 空気の平均分子量を持った(仮想的な)粒の単位体積あたりの数:N
  • ローターにより生じる鉛直下向きの「風」の速さ:v
  • ローターの回転面の面積:S

運動量の時間変化ですが,ここは少し細かくやっておきます.

まず,空気分子1個がローターによって速さ:v(鉛直下向き)で押し出されるとすると,空気分子1個にはμvだけの運動量が与えられることになります.単位体積あたりでは,N・μvとなります.

ローターの真上の高さ:vの部分が単位時間あたりに押し出されることになるので,単位時間あたりに押し出される空気の体積はSvとなります.

よって,単位時間あたりの運動量の変化量=与えられる力は,以下のようになります.

f:id:miwotukusi:20141006012919j:plain

よって,つり合いの式は,空気の単位体積あたりの質量密度をρ=μNと置いて

f:id:miwotukusi:20141006012934j:plain

となります.

 

ここまでじゃ面白くない

というわけで,もう少し突っ込んでみます.ちょっとした問題にします.

【問題】

とある企業がヘリコプターの開発に成功し,試作機を作成しました.売り込もうとしたところ,倍の大きさのものが欲しいとリクエストが入りました.機体を倍の大きさで作成し,重量が2^3=8倍(体積が8倍になったことより)になったのでエンジンも出力を8倍に上げたものを搭載しましたが,飛び上がることもできませんでした.どのくらいの出力のエンジンが必要なのでしょうか?

 

エンジンの出力とは,エンジンが単位時間あたりにする仕事(仕事率)です.そこで,ローターにより空気を押し出すためのエネルギーを計算します.そこから必要なエンジンの出力を算出します.

先の力の計算と同様に,空気分子1個から考えてみます.空気分子1個に速さ:vを与えるには,1/2・μv^2だけのエネルギーを要します.単位体積あたりでは1/2・μNv^2であり,単位時間あたりに押し出される空気の体積はSvですから,エンジンの出力:Pは,

f:id:miwotukusi:20141006013022j:plain

となります.

vをPを用いて書き直し,浮上する条件(浮力が上回る条件)に代入すると

f:id:miwotukusi:20141006013250j:plain

重量は長さの3乗,ローターの回転面の面積は長さの2乗に比例するので,エンジン出力:Pは長さの7/2乗に比例することがわかります.ですので,大きさが倍になると,2^(7/2)=8√2≒11.3倍以上の出力が必要だったということになります.

 

エネルギーや重さ,面積が長さの次元の何乗になっているのかを理解していないと,このような計算間違いが起きるというわけです.

 

限界高度

出力:Pに対する関係式は,上昇できる高度限界を与える式にもなっています.というのは,空気の密度:ρは以前に書いた大気の物理から高度の関数として与えられるからです.当然,重力加速度も高度の関数として与えられます

f:id:miwotukusi:20141006013233j:plain

ただし,gは分子に含まれているので,単にg0とした式が満たされていれば最低の条件は満たされることになります.そこで,単にg0とおいてhの条件を書き下すと,

f:id:miwotukusi:20141006013440j:plain 

回転数を限界まで上げても,空気が薄ければ浮力が足りなくなることがあるということです.また,ヘリコプターはガスが存在すれば,ほかの天体でも飛べるということです.そのときには,重力加速度や平均分子量や密度などのデータをきちんと確認しておく必要があることを示しています.

 

気球もヘリコプターも飛行機も空気の存在を利用した乗り物です.一方,ロケットは空気がなくとも飛べる機構を持っています.かの「はやぶさ」もイオンロケットという機構を使って飛んでいましたね.「飛ぶ」といっても本質的に違うものだということも理解しておくとよいでしょう.