みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

「2019年京大物理第1問」のメモ

遅ればせながら,今年も京大さんの問題をメモしていこうと思います.なんか今年は全体的に量が多いように感じたのですが,気のせいでしょうか?
第1問からして,大問が 2個あるようなものになっています.

(1)小物体がひもづけられた人工衛星

下の図2のように,小物体をひもでつなげられた人工衛星が同じ角速度で地球の周りをまわるという設定です.

2019年京大物理第1問の図2

まず,それぞれの小物体に対する力のつり合いの式を立てています.ここは難しくないと思います.小物体Aについての式:(i)式,小物体Bについての式:(ii)式と合わせて,次の人工衛星についての式も立てておけばいいと思います.
  \displaystyle{ G \frac{M m_Z}{R^2} = m_Z R \omega^2 - N_A + N_B } \ \cdots (\mathrm{iii})

そして,「人工衛星Zは小物体AとBを取り付ける前と同じ円軌道上を角速度  \omegaで運動した」と書いてあるので, - N_A+ N_B = 0すなわち  N_A = N_Bであることが導かれます.
大きな質量のまわりを回る物体には,その物体から見て外側へ(円軌道の内側であろうが外側だろうが)膨らもうとする力が同じ大きさで発生しています.これを潮汐力といいます.

次から,第1回近似大会のはじまりです.過去のネタ(重力加速度のネタ)でも同様の近似式を使っているので,これが参考物件になります.とりあえず,「 1/Rをくくり出す」ことからはじめていけばいいです.
計算量はあるものの最初のつり合いの式を変形しているだけなので,難しくはないと思います.最初,この図2を見たときに「古くなった人工衛星にアンテナをつけて落下させるやつかな?」と思ってしまいました.そういう問題に発展することも考えてもいいのかもしれません.次の問題はそこそこヘビーだと思います.

(2)人工衛星に追いつきたい宇宙船

先行している人工衛星に宇宙船が追いつく,たとえば国際宇宙ステーションに追いつく補給船(こうのとり)なんてシチュエーションでしょうか?で,通常「追いつく」というと加速することを想像しますが,ここでは減速して追いつく(追いつかれる?)ことを考えています.まず両者ともに非常に高速で移動(時速約28,000km)しており,それ以上に加速するには燃料が必要,その燃料の分を残しておく(その分の重量を運ぶ)だけの燃料が必要,さらに追いついてから減速するだけの燃料も必要・・・となってしまいます.それよりは減速するだけの方が楽なわけです.

2019年京大物理第1問の図4

それぞれ問われていることは,つり合いの式だったり,ケプラーの法則と力学的エネルギー保存則をフル活用したりで当てはめていくというものなのですが,難しいというよりは忙しいという方が正しいかもしれません.ひとつ,ちょっと盲点になりそうなところを挙げておくと,次の解答欄[ケ]のところでしょうか.

人工衛星の周期と宇宙船の周期(解答欄[ケ])

円軌道と楕円軌道の周期に関する関係式を求めます.円軌道は中心角の大きさに比例した移動時間になりますが,楕円軌道はそうはなりません.ですので,楕円軌道の周期はそのままにしておいて,円軌道での移動時間を楕円軌道に合わせるというイメージで導出します.
  \begin{align} T_1 &= \frac{2 \pi - \theta}{2 \pi} T_0 \\ \frac{T_1}{T_0} &= 1 - \frac{\theta}{2 \pi} \end{align}
 

問1 速さの変化量

ここで,第2回近似大会です.与えられている近似式は,(1)の中で与えられたものの拡張版になっています(指数が実数になっている)が,まあ拡張しているだけなのであまり気にしなくてもいいと思います.
ここでのポイントは,「近似はなるだけ最後まで使わないこと」です.

  •  d/Rの形になるように変形をする.
  • 指数はとりあえず右肩へ寄せてしまう(分数だろうが,負数だろうが関係なしに).
  • 先に与えている式を代入する.
  • 近似をする.近似した項を同じ色で色付けしておきます.
  • 近似した式を計算する(2次以上の微小項は無視する).

という手順を踏みます.
  \begin{align} \sqrt{ \frac{2d}{R+d} } &= \sqrt{2} \cdot \sqrt{\frac{d}{R}} \cdot \cfrac{1}{\sqrt{1+\cfrac{d}{R}}} \\
 &= \sqrt{2} \cdot \left\{ 2 \color{red}{\left( 1 - \frac{\theta}{2 \pi} \right)^{\cfrac{2}{3}}} - 1 \right\}^{\cfrac{1}{2}} \cdot  \left\{ 2 \left( 1 - \frac{\theta}{2 \pi} \right)^{\cfrac{2}{3}} \right\}^{-\cfrac{1}{2}} \\
 &\fallingdotseq \sqrt{2} \cdot \left\{ 2 \color{red}{\left( 1 - \frac{\theta}{3 \pi} \right)} - 1 \right\}^{\cfrac{1}{2}} \cdot \frac{1}{\sqrt{2}} \left( 1 - \frac{\theta}{2 \pi} \right)^{-\cfrac{1}{3}} \\
 &= \color{blue}{\left( 1 - \frac{2 \theta}{3 \pi} \right)^{\cfrac{1}{2}}} \cdot \color{green}{\left( 1 - \frac{\theta}{2 \pi} \right)^{-\cfrac{1}{3}}} \\
 &\fallingdotseq \color{blue}{\left( 1 - \frac{\theta}{3 \pi} \right)} \cdot \color{green}{\left( 1 + \frac{\theta}{6 \pi} \right)} \\
 &= 1 - \frac{\theta}{6 \pi} - \frac{1}{18} \left( \frac{\theta}{\pi} \right)^2 \\
 &\fallingdotseq 1 - \frac{\theta}{6 \pi} \end{align}

これを代入して,
  \displaystyle{ \Delta V = \left\{ \left( 1 - \frac{\theta}{6 \pi} \right) - 1 \right\} V_0 = -\frac{\theta}{6 \pi} V_0 }

前の中括弧に対しては,同じ近似式を 2回(赤色と青色)繰り返しています.正直,あまり好ましくないようにも思います.大学レベルになると,マクローリン展開(Maclaurin展開)というものを使うことで,近似を求めることができます.その公式だけを書くと,以下のようになります.
  \displaystyle{ f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}(0)}{n!} \cdot x^n }

 \displaystyle{ f(x) = \left\{ 2 \left( 1 - \frac{x}{2} \right)^{\cfrac{2}{3}} - 1 \right\}^{\cfrac{1}{2}} }とおいて, f'(0), \ f''(0)を計算すると,
  \displaystyle{ f(x) \simeq f(0) +f'(0) \cdot x + \frac{f''(0)}{2!} \cdot x^2 = 1 - \frac{x}{3} - \frac{x^2}{12} }

となり,上の近似でも問題ないことが確認できました.まあ,この計算を問題として出してしまうと,高校物理の問題ではなくなってしまいますし,このあたりで.


この第1問だけでも,結構なボリューム感があるように思います.でも,まだまだ問題は続くわけです.