みをつくしのひとりよがり

2022/08/10にブログ名を変えました.仕事や生活に役立ちそうな(実際に役立つかは別として)数学・物理ネタをつらつらと書いていこうと思ってます.

求積いろいろ〜2024年大学共通テスト物理基礎の浮力の問題より〜

物理基礎のメモで書いていた内容の詳細です.でも,内容は数学(積分)です.
miwotukusi.hatenablog.jp

上のネタでは立方体のところだけクローズアップしていましたが,4つとも(シンプルな円柱は軽く流すとして)体積の変化を計算していきます.

2024年大学共通テスト物理基礎第2問問4の4つの立体

立体の全体積

糸の下端と点Pとの距離( \equiv H)を合わせると,立体全体の体積自体が決まってしまうものがあります.まずは,その比較をしておきます.

  1. 球の場合は,半径が  \displaystyle{ \frac{H}{2} }の球となるので, \displaystyle{ V_1 = \frac{4}{3} \pi \left( \frac{H}{2} \right) = \frac{\pi}{6} H^3 }です.
  2. 円柱の場合は,底面の半径にも依存するので,その半径を  rとします. \displaystyle{ V_2 = \pi r^2 H }
  3. 円すいの場合も,底面の半径に依存します.その半径を同様に  rとしておくと, \displaystyle{ V_3 = \frac{1}{3} V_2 = \frac{\pi}{3} r^2 H }
  4. 立方体の場合は,この後もずっとややこしいです.一辺の長さが  aの立方体の対角線の長さは  \sqrt{3}aとなるので,逆に対角線の長さが  Hの立方体の一辺の長さは  \displaystyle{ \frac{H}{\sqrt{3}} }となります.よって,体積は  \displaystyle{ V_4 = \left( \frac{H}{\sqrt{3}} \right)^3 = \frac{1}{3\sqrt{3}} H^3 }となります.

水面下に沈んだ体積

点Pから高さ: hだけ沈んだときの体積をそれぞれの立体について調べていきます.要は,断面積を求めて→積分するという計算の繰り返しです.以下では,積分変数(立体の高さに沿った変数)を  uとしておきます.つまりは, u 0 \leqq u \leqq hの範囲で積分して答えを出すということです.

1. 球

一度,球の半径を  \displaystyle{ \frac{H}{2} \equiv R}としておきます.点Pからの高さ: uのところで切った断面(円)の半径は  \sqrt{R^2 - (R-u)^2} = \sqrt{2Ru-u^2}となります.よって,体積は,
  \begin{align} V_1(h) &= \int_0^h \pi \left( \sqrt{2Ru-u^2} \right)^2 \ du \\ &= \pi \int_0^h (2Ru-u^2) \ du \\ &= \pi h^2 \left( R-\frac{h}{3} \right) \\ &= \pi h^2 \left( \frac{H}{2}-\frac{h}{3} \right)  \end{align}

2. 円柱

これは至極単純です.
  V_2(h) = \pi r^2 h

3. 円すい

点Pからの高さ: uで切った断面(円)の半径は, \displaystyle{ \left( 1 - \frac{u}{H} \right) r }となります.よって,体積は,
  \begin{align} V_3(h) &= \int_0^h \pi \left\{ \left( 1 - \frac{u}{H} \right) r  \right\}^2 \ du \\ &= \pi r^2 \int_1^{1-\frac{h}{H}} v^2 \ (-Hdv) \\ &= \frac{\pi}{3} r^2 H \left\{ 1 - \left( 1 - \frac{h}{H} \right)^3 \right\}  \end{align}

ここでは, \displaystyle{ 1 - \frac{u}{H} = v }の変数変換(置換積分)をしています.
積分を使わなくとも,全体から上部の小さい円すいを差し引くとして,円すいの体積の公式からも計算できます.
  \displaystyle{ V_3(h) = \frac{1}{3} \pi r^2 H - \frac{1}{3} \pi \left\{ \left( 1 - \frac{h}{H} \right) r \right\}^2 (H-h) = \frac{\pi}{3} r^2 H \left\{ 1 - \left( 1 - \frac{h}{H} \right)^3 \right\} }

円すいの体積の公式の導出は,3月4日はバウムクーヘンの日なので,積分します(?) - みをつくしのひとりよがりでも記しています.今回の計算も円すいの体積の公式の導出になっています.

ここまでの結果を見ていると,

  • 体積なので,当然のことながら長さの 3乗に比例した式になっています.
  • さらに,円柱以外では断面積が沈んだ高さに応じて変化するので,高さ: hの 3次関数として与えられます.立方体についても同様の結果になることが予測できます.
4. 立方体

今回のネタのメインディッシュです.上に挙げている物理基礎のメモの中でも考え方のポイントを記していますが,改めて順を追って体積の導出をしていきます.

(STEP1) 立方体を空間座標において,断面の方程式を与える.
ここで一度,一辺の長さが 1の立方体を考えることにします.
空間座標内で,立方体の頂点を原点,  (1,0,0), \ (1,1,0), \ (0,1,0) \ (0,0,1), \ (1,0,1), \ (1,1,1), \ (0,1,1) とします.すると,立方体の対角線=(原点と点 (1,1,1)の長さ)は  \sqrt{3}となります.

立方体の対角線の長さが  Hとなるように拡大すると,対角線の頂点(原点と異なる方)の座標は  \displaystyle{ \left( \frac{H}{\sqrt{3}},\frac{H}{\sqrt{3}},\frac{H}{\sqrt{3}} \right) }と与えられます.(一辺の長さが  H/\sqrt{3}となっている.上の全体積の計算でも同様なことをしています.)
さらに,この立方体において,原点から対角線に沿って  hだけ離れた点で切った断面の方程式は,次のように与えられます.
  x+y+z= \sqrt{3}h \ (0 \leqq h \leqq H)

これは,対角線となる直線の方向ベクトル: (1,1,1)がそのまま断面の法線ベクトルとなるからです.

(STEP2) 断面の図形で場合分けをする.
物理基礎のメモでも挙げていた次のイメージができるかどうかがポイントです.
www.desmos.com

「立方体の辺の中点を結んでできる正六角形」の問題を見たことがある人もいると思います.それの拡張版がでてきます.切り分けられた立体のうち,原点を含む方の立体がどうなるかを考えてみると,物理基礎のメモでも書いているように,次のように場合分けされます.

  1. 原点を頂点に含む三角錐  \displaystyle{ \left( 0 \leqq h \leqq \frac{H}{3} \right) }
  2. 三角錐に断面が六角形の図形がくっついた立体  \displaystyle{ \left(  \frac{H}{3} \leqq h \leqq \frac{2H}{3} \right) }
  3. 立方体全体から三角錐を差し引いた立体  \displaystyle{ \left( \frac{2H}{3} \leqq h \leqq H \right) }

それぞれについて,体積を計算していきます.簡単なところから片付けていきます.

(STEP3) 体積を計算!
1. 原点を頂点に含む三角錐
これは簡単なのですが,注意というか,以降の計算をする上でのコツがあります.断面の方程式: x+y+z= \sqrt{3}hがそれぞれの軸と交わる点の座標は  (\sqrt{3}h,0,0), \ (0,\sqrt{3}h,0), \ (0,0,\sqrt{3}h)となります.単に,軸以外の座標に 0を代入するだけです.
ですので,三角錐は,底面が等しい2つの辺がの長さが  \sqrt{3}hである直角二等辺三角形,高さも  \sqrt{3}hとなります.体積は,
  \begin{align} V_{41}(h) &= \frac{1}{3} \times \frac{1}{2} (\sqrt{3}h)^2 \times \sqrt{3}h \\ &= \frac{\sqrt{3}}{2} h^3 \end{align}

3. 立方体全体から三角錐を差し引いた立体
上で求めた式をじっとみていると,差し引く三角錐の体積は  hの部分を  H-hと置き換えることで与えられることがわかると思います.よって,
  \begin{align} V_{43}(h) &= V_4 - \frac{\sqrt{3}}{2} (H-h)^3 \\ &= \frac{1}{3\sqrt{3}}H^3 - \frac{\sqrt{3}}{2} (H-h)^3 \\ &= \frac{1}{3\sqrt{3}}H^3 \left\{ 1 - \frac{9}{2} \left( 1 - \frac{h}{H} \right)^3 \right\} \end{align}

2. 三角錐に断面が六角形の図形がくっついた立体
これは図がないと,しんどいですね.

断面の六角形

断面の六角形の頂点を A〜Fとして与えています.それぞれの座標を改めて記しておくと, \mathrm{A}(s-L,0,L), \ \mathrm{B}(L,0,s-L), \ \mathrm{C}(L,s-L,0), \ \mathrm{D}(s-L,L,0), \ \mathrm{E}(0,L,s-L), \ \mathrm{F}(0,s-L,L) となります.ただし,原点からの高さが  \displaystyle{ u \left( \frac{H}{3} \leqq u \leqq \frac{2H}{3} \right) }であるとして, \displaystyle{ s = \sqrt{3}u, \ L = \frac{H}{\sqrt{3}} }とおいています. Lは立方体の一辺の長さを表しています.
それぞれの頂点の座標は,以下のようにすれば機械的に求められます.断面の方程式: x+y+z=sに対して,いずれかの座標が 0,残りのうち 1つの座標は  Lとなるので,和が  sとなるように最後に残った座標は  s-Lとして求めていくことができます.しばらくは,この  s, \ Lのまま計算をしていきます.

点Aを含む立方体の辺は,点Aにより  (s-L):(2L-s)に内分されています.ほかの辺についても,同じ比に内分されています.すると,直角二等辺三角形があちこちに現れて,六角形の辺の長さが以下のように求まります.
  \mathrm{AB} = \mathrm{CD} = \mathrm{EF} = \sqrt{2} (2L-s), \ \mathrm{BC} = \mathrm{DE} = \mathrm{FA} = \sqrt{2} (s-L)

断面の面積は,線分BEによって分けられる 2つの等脚台形ABEFとBCDEの和として求めます.そのためには,「高さ」を求める必要があります.ここでは,等脚台形ABEFの高さを求める過程を記しておきます.

  • 等脚台形ですので,点Aから線分BEに下ろした垂線の足を Hとすると, \displaystyle{ \mathrm{BH} = \frac{\mathrm{BE} - \mathrm{AF}}{2} = \frac{\sqrt{2}}{2}(2L-s) }
  • 三角形ABHについて, \mathrm{AB}:\mathrm{BH} = 2:1となるので,この三角形は  30^{\circ}, \ 60^{\circ}, \ 90^{\circ}の直角三角形であることがわかります.
  • よって,高さは  \displaystyle{ \mathrm{AH} = \sqrt{3} \mathrm{BH} = \frac{\sqrt{6}}{2}(2L-s) }と求められます.

同様にして,等脚台形BCDEの高さは  \displaystyle{ \mathrm{CH'} = \frac{\sqrt{6}}{2}(s-L) }となります.

よって,断面の面積は,
  \begin{align} &\frac{1}{2} \times \left\{ \sqrt{2}(s-L) + \sqrt{2}L \right\} \times \frac{\sqrt{6}}{2}(2L-s) + \frac{1}{2} \times \left\{ \sqrt{2}(2L-s) + \sqrt{2}L \right\} \times \frac{\sqrt{6}}{2}(s-L) \\ &= \frac{\sqrt{3}}{2} (-2s^2 + 6sL -3L^2) \\ &= \frac{\sqrt{3}}{2} (-6u^2 + 6Hu - H^2) \end{align}

あとは,これを積分するだけです.とはいえ,1.の三角錐を加えることと積分範囲には注意しないといけません.
  \begin{align} V_{42}(h) &= \frac{1}{6} \cdot \frac{1}{3\sqrt{3}} H^3 + \int_{H/3}^h \frac{\sqrt{3}}{2} (-6u^2 + 6Hu -H^2) \ du \\ &=  \frac{1}{3\sqrt{3}} H^3 \left[ \frac{1}{2} - \frac{9}{2} \left\{ 2 \left( \frac{h}{H} \right)^3 - 3 \left( \frac{h}{H} \right)^2 + \frac{h}{H} \right\} \right] \end{align}

結果をまとめると,
  V_4(h) = \begin{cases} \displaystyle{ \frac{1}{3\sqrt{3}} H^3 \cdot \frac{9}{2} \left( \frac{h}{H} \right)^3 \ \ \left( 0 \leqq h \leqq \frac{H}{3} \right)} \\ \displaystyle{ \frac{1}{3\sqrt{3}} H^3 \cdot \left[ \frac{1}{2} - \frac{9}{2} \left\{ 2 \left( \frac{h}{H} \right)^3 - 3 \left( \frac{h}{H} \right)^2 + \frac{h}{H} \right\} \right] \ \ \left( \frac{H}{3} \leqq h \leqq \frac{2H}{3} \right) } \\ \displaystyle{ \frac{1}{3\sqrt{3}}H^3 \cdot \left\{ 1 - \frac{9}{2} \left( 1 - \frac{h}{H} \right)^3 \right\} \ \ \left( \frac{2H}{3} \leqq h \leqq H \right) }  \end{cases}

各式の前についている  \displaystyle{ \frac{1}{3\sqrt{3}} H^3 }は,上でも求めている立方体全体の体積を表しています.もっと効率のいい求め方があるかもしれません.
六角形を扱うところは,変数の置き換え(別の文字で置き換える)をしたり.等脚台形の対称性を用いるといった工夫をすることで,じっくり取り組めば求められると思います.あっているかどうかは範囲の境界の値や  h = H/2を代入したりすることで確かめることができます.ここでは書きませんが, V_4(h)が場合分けの境界で「連続」になっているかを確認しておくのも,いい練習になると思います.